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「このからくりの間を作ったのはこちらに泊まられた笹山兵太夫さんという方なんです」

「そうだったんだ〜あいつ、やるなぁ」

穴から抜け出し罠を元に戻した二人。なぜか兵太夫と聞いた後、女中をさらうことは後回しにして辺りの罠をさくらの渡した設計図を手に物色していた。しかし、とたんに肩を落とす。

「それに比べて僕はダメだな・・・こんな仕事なんか引き受けちゃって・・・」
「あ、あの・・・元気だしてください。仕事って、女中をさらう仕事ですか?」

さくらは仏像に入っていた紙を開く。うん、と男性は力無げにうつむいた。

「話、聞いてくれる?ていうか、聞いてくれなかったらここで君を捕まえることになるけど」
「聞きましょう」

即答するさくら。彼はその場で頭巾を外す。黒く艶やかな髷が頭巾から出てきた。

「僕は夢前三治郎。普段は山伏としてここら辺の山を登って修行しているんだけど、忍者としてフリーでも仕事をしてるんだ」

やはり忍者だった三治郎。どうやらこの辺りの霊山にたまに修行しに来ていたらしい。忍者宿として有名だった椿亭に、からくりの間があるときいた。三治郎もからくり好きとして興味があったらしい。客からは恐ろしいと噂されていた、あまり泊まりたがらないこのからくりの間を選んだのだった。

「兵太夫は、おんなじ学舎にいた仲間だったんだ。一緒にからくりを作ったりしたなぁ。元気かなぁ」

懐かしいのか天井を見上げため息をつく三治郎。でも、と続けた。

「今の僕はフリーの忍者として、このままでいいのか、悩んでるんだ。フリーの間じゃ僕だって結構腕がたつんだ。でもずっと仕事をしてて、変わらない毎日で・・・わかんなくなったんだ」

自分の事を考えるほど自分を見失っていく三治郎は、ある日山のなかで素性の知らない不思議な忍者と出会ったらしい。

「そいつは仕事を僕に持ちかけて来たんだ。その紙を渡して、すぐに姿を消した。相手が何者なのかもわからないままで」

三治郎はその内容を見て戸惑った。椿亭の女中をさらえと一言書かれていた。人さらいなどしたことがなかった三治郎は断ろうとしたが相手がわからない上に、フリーの忍者としてこの仕事を引き受けるべきか迷っていた。

自分はなんのために忍者をしているのか。山伏として修行している間も、その答えが出ることはなかった。

「うだうだ考えてたら椿亭に来てて、そのまま泊まってたってわけ」

「そうだったのですか。三治郎さん、いつも笑顔でしたから、そんな事知らなかったわ」

「というわけで」

三治郎は立ち上がる。手にはいつの間にか縄が握られていた。

「さらわれてくれる?」
「ダメです!三治郎さんには、悪い忍者は似合いません!」
「・・・君、何でそんな事がわかるんだよ。僕は悪人かもしれないぜ?」

さくらの言葉に戸惑う三治郎。さくらはきっぱりと言い切った。

「だって素敵な笑顔だったんですもの。私は三治郎さんを信じます」

その言葉を聞いて、三治郎の顔がくしゃりと歪む。ううっとうめいて床にしゃがんだ。今まで一人で悩んでいた不安な気持ちをおさえていたなにかが一気に崩落した。

「ありがとう・・・君は優しい人だね」

三治郎は顔をあげて、自信なげに微笑んだ。



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