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辺りはすっかり夜になり、さくらは本日の業務を一通り終え、間宮に報告に事務室へ向かっていた。
戸を開けると見慣れない女中二人が、間宮と話していた。取り込み中だと思い、引き返そうと戸を閉じようと思ったとき、間宮と目が合った。彼はさくらをみて、手招きをした。
「さくらさん、ちょうどよかった。明日から新しい女中さんをいれるから、挨拶をしてほしいんだけど」
「はい」
さくらは女中二人のもとへ行き会釈した。一人は長い髪を丁寧に結った美しい立ち姿に穏やかな笑みを浮かべる女性、もう一人は…とてもたくましい体格と毅然とした立ち姿の女性。
後者の女性に少し戸惑ってしまったさくらだが、気を取り直し挨拶をする。
「はじめまして、明日からここで働かせていただきます。伊澄と申します」
伊澄と名乗った女性は椿亭の作業着をきれいに着こなしており、ゆったりと丁寧に頭を下げた。
洗練された動作に見とれていると隣の女中がどしんと前に出てきた。
「どうも、虎子っていいます。これからよろしく!」
「は、はい…」
女中というより力仕事が似合いそうなそぶりに圧倒されるが顔には出さずなんとか挨拶を済ませる。
間宮は二人の指導はさくらに任せたいと言う。さくらは素直にうなずいた。
「わかりました。伊澄さん、虎子さん、明日からよろしくお願いします。さっそくですが、明日椿亭の庭に来てください。お仕事をお教えしますから」
「わかりました」
挨拶を終えると間宮は女中の部屋へ案内するために二人を連れて離れの建物へと向かっていった。姿が遠のくのを確認してさくらはぼそりとつぶやいた。
「え…虎子さんって、女性なの…?」
ずっと言いたかった言葉をぽつりとつぶやく。誰にも聞かれることがなかったその言葉には、もちろん答えなどは返ってこなかった。
次の日、いつもの早朝の時間。さくらはさあ仕事だと庭へ出た。そこには新人の女中二人がすでに来ていた。
「おはようございます。二人とも今日からよろしくお願いします。今日は伊澄さんは庭掃除、虎子さんは炊事を担当してくださいね」
「はい」
三人でそのまま掃除倉庫へ行き庭掃除のほうきやちりとりを取り出す。伊澄がほうきを手にし、裾が邪魔にならないようにたすきを両手にかけた。
その手慣れた手つきから彼女はきっと日ごろからこまめに掃除をしているのだと感じ取れた。
「お掃除お掃除…」
手慣れた手つきでほうきを動かしていく伊澄。彼女の心配はしなくてもよさそうだと安心してその場を任せることにした。
次に虎子と炊事場へ行くさくら。行く途中、食材庫の米俵が崩れており、数人がその場で困っている様子で見ていた。
「あら、俵が崩れてしまったの?」
さくらがその場にいた女中に声をかけると困り果てたようにうなずいた。女性だけでは持ち運べそうもない。
男性陣を呼ぶしかない。そう思っていると虎子が黙って腕まくりをして前に一歩出る。
「虎子さん?」
「僕…じゃないや私に任せてください」
そういって米俵を事もなく持ち上げる。女性から驚きの声が上がった。そのまま崩れていた俵をどんどん積み上げていく。
積み終わったあとも虎子は疲れた様子もなく手のほこりを払い落す。
「虎子さん、力持ちですね」
「まぁね。自主トレで鍛えてるし」「じ、自主トレ!?」
女中の間では聞きなれない言葉にさくらは戸惑ったが、できるだけいつものように気を取り直し接する。
炊事の手順を一通り伝えると虎子も問題なく仕事に取り掛かり始めた。問題はなさそうだと安心した自分も朝食の準備をはじめる。
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