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「えぇ?お二人とも庄左ヱ門さんのご紹介なんですか?」

受付当番も終わったさくらが昼餉の支度をしている時、伊澄からそんな話を聞いた。虎子と伊澄はその言葉にうなずく。
「はい。この町に来たばかりで仕事を探しているとき、洛北で顔なじみだった庄左ヱ門さんにここの仕事を紹介してもらったんです」
「そうだったんですね。庄左ヱ門さんに感謝しなきゃ」

となると、とさくらは冗談ぽく二人に言う。

「二人とも忍者だったりして!なーんて」
「そそそ、そんなんじゃないよ!僕たちはふつーの女の子だよ!」

伊澄はともかく、虎子は普通の枠から外れている気がする。
そんな話をしているうちにできていく食事を運ぶ。今日も椿亭に泊まる人は多く、食事処もほぼ満員だ。
厨房をでてお膳をお客の前までもっていく。再び厨房に戻ろうとしたとき、思い切り客にぶつかってしまった。

「おい、気をつけろ」
「申し訳ありません…」

男にぶつかり、さくらは少しよろめく。ふいに違和感を感じた。懐に手をやるといつも収めているお守りがない。床を見るとぶつかったはずみで落としてしまったらしく、庄左ヱ門からもらった大事なお守りがあった。慌ててそれを拾い元の懐へ戻す。

相手はその一瞬をみていた。

「!…おい、あんたさっきのはなんだ?」

ぶつかった男の顔を見る。相手は今朝であった二人組の背の高い男であった。彼は驚いており、お守りのことを聞いてきた。

「白波神社のお守りですが…なにか?」
「白波神社…そうか・・・なんでもない」

そういうと男はそのまま向こうへ行ってしまう。さくらは男が一体なにを思ったのかわからなかったが、この忙しいさなか、深く考えることもできず、仕事に戻った。
忙しさにすぐに仕事に没頭してさくらは男にぶつかったことはすっかり忘れていた。

そんなことが起きた数日後。伊澄も虎子も椿亭の仕事に慣れてきたようだった。特に伊澄の仕事ぶりや愛想は評判で、お客の中でもみとれてしまう男性客がいるほどだった。
虎子はと言うと、大きな荷物の移動から酔った客への対応をこなし、この間なんかは男衆にまざって腕相撲勝負をしていた。正直椿亭でいちばん男らしい女中になりつつある。

「二人ともあっという間に慣れましたね」「さくらさんのおかげですよ。椿亭はいいところですね…」

休憩時間に伊澄と控室でお茶を飲む。彼女はしっかりしているけど物腰はやわらかく人当たりがとてもいい。そんな伊澄の雰囲気がさくらは魅力的だと思っていた。
そんな伊澄に癒されている中、通りすがった間宮が二人に言った。

「伊澄さん、裏門に黒木屋さんがいらっしゃって君を呼んでるよ!」
「黒木屋さん?」「庄左ヱ門が?さくらさんも行きましょうよ」

二人は共に裏口へとまわった。そこには炭を積んだ籠を背負う庄左ヱ門がこちらに手を振っていた。

「さくらさん、伊澄。仕事がんばってるかい?これ、注文した炭です」

そういって伊澄に炭の積んである籠を渡す。いつも炭を受けっていたさくらに代わり、最近はずっと伊澄にその仕事を任せていた。

「ありがと、庄左ヱ門もお疲れ様」
「伊澄、仕事うまくいってるみたいじゃないか。椿亭を通ると君のうわさを聞くよ」
「そうなの?」
「うん。この仕事が一番向いてるんじゃない?」
「もう、なにいってんの!」

二人がこんな風に話す姿を見るのはさくらははじめてだった。二人は昔からの顔なじみと聞いているし、お互い通じ合っているようなやりとりにさくらはじっと二人の様子を見てしまう。

もしかしたら自分はお邪魔かもしれない。庄左ヱ門に挨拶だけ済ませ、さくらはその場を離れることにした。

「すみません、私自室に戻ります。炭は私が納めておきますね」
「さくらさん。ありがとうございます」
そういって炭を抱えたさくらは足早にその場を去る。
二人きりになった庄左ヱ門と伊澄は声を潜めた。その時だけ、伊澄は女中ではなくなった。

「なにか異変はない?」「今のところ目立った出来事はないけど、怪しい人物はいる。そいつは女中をじっとみて観察してるんだ」
「やっぱり…」

以前から椿亭の女中を狙う忍者に懸念していた庄左ヱ門は女中として彼らを椿亭に送り込んだ。
彼らは実は庄左ヱ門の友人の忍者。伊澄は伊助、虎子は虎若と、女中を偽って椿亭で働いている。本当の姿はれっきとした男性である。

「引き続き、監視を続けるから」

伊助は庄左ヱ門にそう告げると何事もなかったようにいつもの女中に戻る。

「でも、あのさくらさん一人のために私たちを呼ぶなんて、彼女のことよっぽど大事なんだね」
「・・・うん、なんかよくわかんないけどさ、目が離せないんだ。放っとくと遠くにいっちゃいそうで・・・僕、それがなぜか嫌なんだ」

その言葉を聞いて伊助の表情が驚きにかわる。確認するように、庄左ヱ門に聞いた。

「庄左ヱ門・・・それって・・・」
「なに?」
「そこまで思っててわかんないんだ・・・」

友人の鈍感過ぎる姿に、これはなんとしても気づかせねばなるまい、元より世話好きな伊助はひっそりと決心し、拳を固く結んだ。



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