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さくらはぼんやりと自室に続く廊下を歩く。彼女の頭にはなぜか仲睦まじく笑う庄左ヱ門と伊澄の姿が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた。自分がなぜこんなに落胆のような気持ちになっているのか、そしてこの気持ちをどんな風に切り替えたら良いのか、わからずに困っていた。

「よ、さくらさん。部屋に戻るの?」

向こうからやって来たのは虎子だった。虎子も休憩中のようだがそんなことも今のさくらには頭にはいらない。

「・・・へ?あぁ・・・うーん、私、なにしに来たんだっけ・・・」
「おいおい、忘れちゃったの?」
「・・・うん」

明らかに元気のないさくらに、虎若は心配になった。虎若はさくらから離れず、もう少し話してみることにする。彼女の様子を気にすることは、庄左ヱ門に言われていることであったし、誰にでも優しい彼女を虎若は魅力的だと思っていた。

「じゃあね・・・」「待てよ。そんな様子を放っとけないよ。僕の部屋で事情を聞かせてごらんよ」

虎若の言葉にさくらは元気なく頷く。とにかくこの気持ちを変えるためには、誰かに相談した方がいいかもしれない。そう思ったさくらは大人しく虎若の部屋へと向かうのだった。

「ほら、ちょっと散らかってるけど」
「・・・うん」

戸を開けるとどこから持ってきたのか、鉄唖鈴が床にごろんと転がっていた。その横には長い木箱が無造作においてある。あちこちに本が散らばり、虎若の性格を物語っていた。そんなことも気にせずさくらはぼうっとしたままその場に正座する。虎若も同じくあぐらをかいた。女性の服装であぐらをかいたので着物からはたくましい足が見えていた
 
「一体どうしたの。ぼんやりしちゃって・・・」
「裏庭で、伊澄さんと庄左ヱ門さんをみてたんだけどそれから変なんです・・・」
「伊澄と庄左ヱ門?」

虎若の中では伊助と庄左ヱ門だ。あの二人は長年同じ部屋にいたし、気が合うみたいでいわゆるソウルメイトのような関係。その二人をみて落ち込むさくら、とそこまで考えて虎若はなんとなく想像ができたのだった。

「二人をみてなんかあったの?」
「私、今まで仲のいい友達とかいなかったから、二人を見てるとうらやましい・・・のかな?」
「そう?それで落ち込んでたの?」
「それだけじゃない、かも」

さくらはいっそう考え込む。彼女はきっと庄左ヱ門の色んな面を知っているのだ。笑ったり怒ったり悲しんだり、自分より彼女の方がよっぽど彼の事を知っているから、あんなに通じあっている。
そこまで考えて、さくらは自分と伊助を比べていることに気がつく。

「やっぱり伊澄さんはあれだけ出来て綺麗だし・・・庄左ヱ門さんは自慢できるだろうなぁ・・・」

しゅん、とさらに落ち込んださくらをみて慌てる虎若。

「いや、僕は君も魅力的だとおもう!だってかわいいし優しいしいい人だし、男なら誰でも目がいっちゃうよ!伊助・・・じゃない、伊澄はそーゆーのはないからさ」
「なんかお世辞言わせちゃってるわね・・・ごめんね。私虎子さんを困らせてるわ。部屋に戻るから・・・」

そういって話を止め、立ち上がろうとするさくらを虎若はぐいっと腕を引き止めた。彼は自分が女役であることも忘れて彼女に言った。

「さくらさん、だめだよ。君はもっと庄左ヱ門と向き合うべきだ」
「虎子さん・・・?」

真剣な彼の表情に戸惑うさくら。
虎若は続ける。

「あいつに言われて嬉しかった事とかとかないの?」
「庄左ヱ門さんに・・・」

虎若の言葉にさくらはすぐにある言葉を思い出した。仁地寺であった、彼と二人で話した時のこと。

"君は一人じゃないんだ。そんな覚悟なんて、しないで欲しい・・・"

あの言葉を聞いて、さくらの世界は変わった。自分を想ってくれる人はもういない、自分はいついなくなってもいい、そんな気持ちを密かに持っていたさくらにとって彼の言葉は大きかった。それと同時に、さくらは庄左ヱ門をなぜか意識するようになってしまった。

その事を思い出してさくらは顔を赤くした。

「庄左ヱ門さんに、私は一人きりじゃないから無茶するなっていってくれたんです。それがとても嬉しくて、でも嬉しいだけじゃなくて・・・」

あれ?とさくらは違和感を感じた。



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