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その夜空き巣の件もあり、椿亭は早めに仕事をあがり、さくらはいつもの女中姿で部屋をそっと出ていく。
普段なら湯に入る時間だが、今日はさくらにとっての一大決心、庄左ヱ門に気持ちを伝えに行かねばならないのだ。
出る前に虎子に声をかけようと彼女を探したが、姿が見えなかった。仕方なく彼女は外へと出た。
辺りは暗く、店の明かりがちらほら薄明るく提灯が光るだけの静かな夜道。白波神社の前まで来て、ふっと足を止めた。

「…あの女中が―を持っているに違いない」
「―の任務を遂行するためにも…、今夜でもやるべきですよねぇ」

木々のこすれる音に紛れてそんな会話が聞こえた。こんな真夜中に明かりのない神社でどうしたのだろう?
さくらはとても気になっていたが、そんなことよりもっと重要なことがある!と思い一歩足を踏み出した時だった。

「そこに誰かいるのか!」

男の声が自分をみつけたようだ。真っ暗で何も見えない白波神社から大柄の男が出てくる。さくらはその姿に見覚えがあった。しばらく椿亭に泊まっている呑気そうな大柄の男だった。

「お前は椿亭の女中!」
「あ、あのすみません。偶然通りかかっただけですので…」
「ちょうどいい。俺たちはお前に用がある」「え…」

突然背後から声がする。気配もしないままさくらの後ろには背の高い男が立っており、一言そういうとすぱんと手刀で彼女の背中を思い切り叩いた。
地面に崩れるさくら。鈍い痛みに立ち上がれない。視界がぼんやりと暗くなり、眠るように意識を失った。

「やっとこれで仕事ができる」

気を失ったさくらを大柄の男は乱暴に抱える。その姿を見て背の高い男は一言そういった。男がさくらを担ぎ上げ歩き去っていく。そこにはさくらが倒れた際に落とした白波神社のお守りがあった。彼らはそれに気づかず白波神社へと消えていった。

 そんな事件が起こってしばらく経ち、深夜近くの時間。庄左ヱ門は自室の明かりの横でそっと呼んでた本を閉じた。つい本を読みふけってしまったのもあるが、一つの気配を察したからである。

「…伊助?」

庄左ヱ門は立ち上がり店の戸を開ける。そこには女中の装いを解いた普段通りの伊助が立っていた。庄左ヱ門はこんな時間にどうしたのだろうと思ったが
彼を部屋に入れた。お茶を用意しようとして炭を出そうとすると伊助は大丈夫、とそれを遠慮した。

「どうしたの?椿亭で何かあった?」「うん。さくらさんの部屋に空き巣が入ったんだ」「空き巣…もしかして例の暗殺忍者の二人かい?」

伊助は頷く。ここ数日で女中として潜入してきた伊助は、怪しい男が何者なのか、何を目的にしているのかがおおよそ検討がついていたのだ。
伊助が数日でわかったことは、怪しい男二人組はフリーの暗殺忍者であること、その一人は以前三治郎たちを襲った忍者であることだった。だがなぜ女中を狙っているのか、目的は何なのか…それがわからずにいたのだ。しかし今日その情報を手に入れた。

「空き巣にあった後話してたのを聞いたんだ。あいつらが欲しいのは彼女の持っているお守りだよ」「お守り?」

その言葉に庄左ヱ門は首を傾げた。彼女の持っているお守りにいったいなにがあるというのか。
すでに情報を握っているらしい伊助はゆっくりと答えた。

「うん。白波神社のお守り。やつらはそれを必死に探している」
「白波神社?それってつまりこれのこと?」

庄左エ門は明かりの隣に置いていた白波神社の花の刺繍が施されたお守りをみせる。それをみて伊助は驚いた。

「庄左ヱ門!なんで君がそれをもってるの!?」
「これ、さくらさんと白波神社のお祭りに行ったとき、屋台で出ていたのをふたつ買ってさくらさんにひとつ渡したんだ」
「そうだったんだ。…ようやくわかったぞ」

そのお守りをみて呟く伊助。彼の中ですでに答えがでてきたらしい。

「暗殺忍者は、どこかの城の雇われ忍者なのは間違いない。白波神社のお祭りで出てた屋台はその暗殺忍者の雇い主がだしたんだと思う。指令書を品に隠して、一般客に紛れたもう一方の暗殺忍者に渡す手筈だったんだ。」
「でもそのお守りを持つさくらさんが狙われてるってことは…」

二人ははぁ、とあきれてため息を出していた。話の結末は庄左ヱ門にも簡単に想像できた。

「その指令書が入ったお守りをうっかり売っちゃったんだね…それをさくらさんが持ってるってことか…」

ということは雇われた城の指令を知るためにそのお守りをなんとしても取り返したいのだろう。そのお守りを椿亭の女中が持っていたという情報を手に入れ、女中を狙っているというわけだ。


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