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その夜、草木も眠る丑三つ時、どの明かりも消えて、真っ暗な椿亭。しかし、ひとつの部屋だけぼんやりと光る部屋があった。間宮の部屋だ。
「というわけで、ひいきの炭屋はオウギタケ城から炭を売るなという達しがあったようで」
「その話、にわかに信じられませんな。間宮どの、本当はオウギタケ城と手を結ばれたのではあるまいな?」
「まさか!」
「あなたはいつも宿のもうけばかり気になさる。オウギタケ城と手を組めば再び炭が売れ、新たな商売もできる、大方そんなところでは?」
間宮と話すのは町民の格好をした男。しかしその正体はササタケ忍者のリーダー格、金剛という男。すべてを見透かすような鋭い瞳で間宮を見る。
「それは違います。私はあなた方を裏切るつもりは毛頭ないのです。今回はその証にこれをお受け取りください」
そういって間宮が渡した箱には大量の金貨銀貨。
「ふむ。なるほど・・・。これを受けとりたいところだが、どうやら我々の密会は失敗したらしい」
「失敗?」
「そのふすまの向こう。曲者がいる」
あわてふためく間宮。誰だ!と彼は戸の向こうにいる二人に声をかけた。
「さすがササタケ忍者。お見通しってわけだ」
そういって戸を開いたのは黒装束の庄左ヱ門。その後ろには小さくさくらがいる。その姿をみて間宮はより血相を変えた。
「庄左ヱ門さん!さくら!なぜ、なぜここに!?」
「間宮さん、やっぱり椿亭はササタケ忍者と横領をしていたのですね・・・なぜ、こんなことを」
「ここを拠点にして出城を作るつもりだったのさ」
ササタケ忍者は極めて冷静に、おもむろに語りはじめた。
「ここは今はオウギタケ城の支配下になっている。我々は密かに出城をつくっている。そこで奇襲をかけて奴らを叩く計画だ。椿亭はその資材や食料を出城にとどける拠点地として、この間宮と繋がっていたわけだ。我々から、こういうものをもらってな」
そういって金貨を一枚見せる。さくらはその真実を聞いて悲しい瞳を間宮に向けた。
「悟郎さんが大切にしていた椿亭なのに、なんでこんな事を?」
「そ、それは・・・すまない、さくら!」
間宮は諦めた様子でさくらに深々と頭を下げた。
「私は、悟郎が残した椿亭をなんとか大きくしたいと思っていたが、なかなか客足が来なくてね、その時、ササタケ城からこの話が持ち出されつい引き受けてしまったんだ。私は金に目が繰らんでしまったんだよ・・・」
懺悔のつもりなのだろう。頭も上げずさくらに語る間宮。その話を聞いてさくらは肩を震わせた。
「椿亭は、金儲けをしたかった訳じゃないわ。小さくても、ささやかでもいいから、心を落ち着かせて、皆が和やかに過ごせる家族みたいな宿にしたいって、悟郎さまは言ってた・・・」
「そうか・・・私は、椿亭の亭主として、失格だね」
その様子を見てササタケ忍者はスッと立ち上がる。一瞬庄左ヱ門が身構えるがそのまま彼らを通りすぎ、戸を開いた。
「椿亭、今回の件はなかったことにする。その娘のため、まっとうな宿を、作ることだ」
そういって、金剛はそのままどこかへ立ち去って行く。ふう、と庄左ヱ門は息をついた。
「私は、この宿を出ていくよ・・・」
「間宮さん・・・」
力なく立ち上がる間宮。立ち去ろうとする彼に庄左ヱ門ははっきりと声をかけた。
「いえ、貴方は悟郎さんの約束を果たすべきです」
「え?」
「間宮さん、心を入れ換えて悟郎さんとの約束を果たしてください。それが悟郎さんや、彼女・・・さくらさんへの償いです」
「庄左ヱ門さん・・・」
驚いた様子でさくらは庄左ヱ門をみた。彼女は少し考えて、ゆっくりと間宮の前に立つ。
「間宮さん、もう一度、やり直しましょう。一緒に」
「さくら、本当にいいのかい?私なんかが、ここに居続けても」
「私も、庄左ヱ門さんとおんなじです」
そういってまだ赤い瞳を潤ませ、にっこりと笑う。間宮はさくらと庄左ヱ門を見て静かにありがとうございます、と頭を下げた。
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