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それからしばらくの月日が流れた。あれから椿亭は目まぐるしい盛り上がりをみせた。客がどんどんとやって来るようになったのである。

「あぁ、忙しい忙しい〜」

さくらは大きな釜に入った米に火をかける。以前よりも増えた女中たち。そのなかでもさくらは一生懸命に働いた。

「ほら、さくら!今日も来てるわよ!黒木屋の旦那!相当あんたに惚れてるね」
「ち、ちがいますってば・・・もう・・・」

女中たちにニヤニヤと見送られるのが恥ずかしくて私は足早に裏へと出た。そこにいつものように庄左ヱ門が炭をつんで待っている。

「やぁ。今日も忙しそうだね」
「庄左ヱ門さん、いつもありがとうございます」
「いいんだ。炭屋も大事な仕事だし。それに最近は情報収集も兼ねてるからね」

「あぁ、それですか・・・」
「うん、椿亭は、忍者宿って呼ばれてるから」

そう、あれから椿亭は普通の宿では無くなった。
間宮が性懲りもなく悪いことをしているわけではない。彼は心を入れ換えてまっとうに仕事をしているのは間違いないのだが・・・。ササタケ忍者が手を引いたあとその情報欲しさにさまざまな忍者が椿亭にやって来るようになったのだ。情報が情報を生み絶えることなく続いていくのでほぼ、忍者達の情報共有の場となってしまった。

かといって彼らは忍者だ。見た目は町民の格好をしているが、日常会話をしているようでいて、実はすべて暗号。はたからみれば異常な人気を誇る宿に見えるわけで、町での評判ももちきりだ。

「まさかうちがこんなことになるなんて・・・」
「あはは、なんかごめん」

「い、いいんです!悪いことはしてないし、皆が楽しそうに宿に泊まってくれるから・・・私も嬉しくて・・・」

「いいなぁ。僕も泊まりたいよ」

何気なく庄左ヱ門がぼやく。
なぜだろう、とさくらが思ってると

「だって、僕らこうやって炭のやり取りしかしてないだろ?君の仕事ぶりとか、休みの日とか・・・みれないじゃないか」

「え、ええ!?ど、どういう意味ですか?」

「どうって、そのままの意味だけど」

「そ、そんな・・・うれしいけど・・・」

顔がどんどん赤くなる。きょとんと庄左ヱ門はしていたが、あぁ、と手をポンとうつ。

「そうだ、今度の休みに僕と君が会えばいいんだ。簡単なことだったよ」
「あ、あの・・・それって、・・・デートですか?」

「え」

その言葉を聞いて庄左ヱ門硬直した。そしてみるみるうちに顔が赤くなる。

「ぼ、僕はまた変なことを・・・。ごめん、忘れてくれ・・・」

「いえ、その、会いませんか?お休みの日に・・・」

恐る恐るさくらが訪ねると、庄左ヱ門はいいのかい?とさくらを、みつめた。

「ちょっと、さくら、悪いんだけど忙しいからこっち戻ってきて!」

遠くから女将さんの声がする。はーい!とさくらは返事をした。庄左ヱ門はいつもの場所に炭を下ろして

「じゃ、また会おうね」

そういって、去っていった。
さくらはまだ気持ちがドキドキしていた。この気持ちはなんだろう。日に日に増してくこの気持ちは。

いつか、二人で会える日が来たらわかるのだろうか?

一呼吸おいて、彼女はきびすを返した。そんな彼との、椿亭での出会いの話である。


椿亭 出会い 完


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