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「まったく、殿の命令とはいえ、こんなガキどもの見張りなんてやってられないぜ」
「まったくだな」
そんな兵士の会話を聞きながら牢に入れられた三人は輪を囲んでひそひそと話し合っていた。
「うーん、作戦はしっぱいか〜」
「うぅ、うちの骨董屋がいわくつきなばっかりに疑いをかけられちゃって・・・」
「僕たち、どうなっちゃうの…?」
平太は牢の隅で小さく縮こまって半分泣きべそをかいている平太。そんな平太とはうらはらに正座をして落ち着き冷静に考える怪士丸。
「しばらく捕まえて、目的を聞くだろうね…。そのまえに…先生方が僕たちを見つけに行くと思うよ」
「これって逆にチャンスじゃない?」
すみれは二人に何げなく言う。なにせ今いる門番はやる気のない二人の男のみ。牢から出てこの二人の視線をかいくぐることができれば外に自由に出られるのだ。平太はその言葉にそういえば、と思い出す。
「ここに来る途中、変な社をみつけたよ…」
「え?社…?城の中に?」
「うん・・・よく見えなかったけどあれは社だとおもう・・・」
そんな会話を聞いていた兵士がやる気のなさそうに三人に近寄る。
「ほら、おとなしくしないか。怖いお仕置きをするぞ?」
怪士丸がそんな言葉をすんなり無視して兵士に聞いてみた。
「ここのお殿様は…変わっていますね…城の中にお社を建てるなんて…」
そんな怪士丸の言葉に兵士はそうなんだよ…と困ったように愚痴を語り始めた。
三人は格子の前まで寄り、兵士の話を興味深げにきいている。
「うちの殿は縁起担ぎがすごくてね、骨董も良いものを集めれば勝機がやってくると信じてのことなんだよ…。でもそれが行き過ぎて城の中に社をつくって、ぼろい岩を祭ったりなんかして…。骨董を買うのも、社をつくるのも金がかかるだろ?軍資金を切り落としてまで没頭してるから…俺たちもやる気なくしちゃって…って子供相手になにいってんだ俺は」
どうやら可惜夜城は兵士たちの信頼も薄く士気がとても下がっているようだった。怪士丸はすみれの言った通りこれはよい機会だとにらんだ。
「その岩ってなにかあるんですか?」
すみれが聞いてみると歯切れが悪そうに兵士は答える。
「この城が立つ前からあるしめ縄でくくられた岩のことだ。気味がわるい感じさえするからみんな近寄らないよ…」
そこまでいって片方の兵士がその男を呼んだ。
「子どもにべらべらしゃべるなよ。こんなとこにいずっといても仕方ないし、次の指示がくるまで適当にぶらつこう。あ〜あ、やる気でないなぁ…」
兵士たちはそのまま牢屋から出ていく。二人の様子からしてやはり可惜夜城は相当戦力が落ちているようだった。
「岩を祭っている社?」
「それって日誌にあった神が降りし岩…かもしれない!」
思わぬところで重要な情報を手にした。あながち牢屋につかまったことはいいことだったのかもしれない。
そして牢屋には今三人しかいない状況だ。あとはここをどうでるか、すみれが考えていると怪士丸は腰帯からひとつの小さな鋸のようなものを取り出した。平太も脚絆から同じものを取り出す。
「なあに、それ?」
じっと見ていたすみれ。怪士丸はまぁみててよと木の格子にその小型の鋸に刃を立て引き始めた。
小さいとはいえとても頑丈にできていているその鋸は静かに着実に格子を切断していく。
「へぇ!とっても便利な道具ね」
「忍者の道具だよ…」
平太も同じく格子を削っていく。ものの数十分で木枠が外れ、子供ひとりが通れるぐらいの穴ができた。
あらためて城へ潜入するため、怪士丸から平太、すみれと牢を出ていく。ここから兵士に見つからないようにその社へと向かいたい所だが…
「人目につかいない所なら、僕ら探すの得意だから…」
怪士丸と平太は不気味に笑う。まるで幽霊のごとく気配を消し、暗い場所へと移り、社を目指す。
平太はその場所を覚えていたのですぐに社へとたどり着けた。可惜夜城が軍資金を削ってまで立てた社の作りは丈夫で、社から岩が祭られてある本殿まで屋根が設置され地面が石畳になっている。
「見張りはいないみたい。多分みんなさぼっているんだ…」
そのまま三人は社の中へと入っていく。あたりはしんとしていて心なしか空気がひんやりしていた。
百人斬り日誌に書かれていた神降りし岩にはなにがあるのだろうか?正直物騒なものや怖いものしか想像できないすみれ。
怪士丸を先頭にそれぞれが怯えながらその小屋へと入る。床は地面のままで真ん中に大きなしめ縄でくくられた岩が小岩で出来た台に支えられて鎮座している。怪士丸は慎重に辺りを調べていくと、岩の裏に黒い手の染みをみつけた。ほかには見当たらない
のでここが怪しいと怪士丸は思った。
「ここを掘ってみよう。平太、苦無は持ってる?」「…うん。ふたつある」
怪士丸も持っているので平太の一つをすみれに渡した。掘り方を教えてもらい、三人は極力静かに地面を掘っていく。
自分たちの腕から方まですっぽり入るぐらいまで掘ったところで、急に苦無から伝わる感覚が変わった。すみれが気づいて二人の手を止める。すみれはやさしく手で掘り返すと、精密に彫ってある彫刻の美しい模様が出てきた。
「これ、どこかで見たことがある作風ね…」「…結構大きい…というか…長くない…?」
慎重に苦無で辺りを深く掘り返すとそれは縦型に入れられた工芸細工の施された長物の箱だった。平太が半分ほど掘って
軽く引っ張るとそれはあっけなく抜けた。
「この長さ…刀かもしれない」
「ま、まさか百人の人を斬った刀が…!?」
その恐ろしさに平太とすみれはわっと怪士丸の背中に隠れる。怪士丸がそっとその箱を開けるとふわりと上質な木の香りがした。美しく染められた綿の布に丁寧にくるまった長物の刀の形をしたものがでてくる。それを慎重にほどくと目を見張るようなつややかな輝きを放つ黒塗りの鞘におさまったまっすぐな直刀がでてきた。柄は上質のあかしである大粒の鮫皮でできており、鍔はいまにも動き出しそうな竜が彫られてあった。怪士丸がゆっくりと刀を抜くとぎらりと光る刃が見えた。
「これはただの刀じゃないかもしれないよ!」
「僕も…刀とかわかんないけど…これがすごいものだっていうのは…わかるよ」
もっとみようとすみれが近づいてみようとしたとき、戸が勢いよく開いた。
ついに脱走がみつかってしまった三人がぎくりとその戸の方へ顔を上げると、可惜夜城の城主が不敵な笑みを浮かべこちらへと歩み寄ってきた。
「お前たちが何を目的としているか調べるためにあえて泳がせておいたのだが…ここが狙いだったとはな」
可惜夜城の城主はじりじりとこちらに寄ってくる。それを構えるようにする怪士丸と岩影に隠れる二人。すみれはふとその刀を見る。
「この岩は城ができる前から鎮座していた神岩だ。陰陽士からこの岩を大事にせよと言われてずっと守り続けてきた・・・お前たち、何を見た?」
すみれはこの岩を大切にしてきたこの城主に刀の事を言おうか考えた。日誌を辿りここまでやって来たが、この刀が埋められていたのはこの可惜夜城だ。ならばこの刀はあの城主が持つべきであるとすみれは思い直す。後ろから怪士丸の袖を引っ張る。
「怪士丸くん、これ可惜夜城のお殿様が持つべきだとおもうの」
「すみれちゃん・・・わかったよ。その刀はお殿様に返そう」
怪士丸はすみれの言いたいことが分かったようで彼女から刀を受け取り可惜夜城の城主に近寄りそれを渡す。彼はそれを受け取りにやりと笑った。
「この刀はひと目みれば名刀とわかる。さて、切れ味を試したい所だな・・・」
ぎろりと城主の視線が自分達に向けられる。彼らはその言葉と態度に身体が強ばる。
「お前たちは曲者だ。試し切りにはちょうど良さそうだ!」
「子ども相手にそんなことするの?人でなしっ!」
すみれの抗議を聞いても城主は笑うだけだ。三人はすぐさま逃げようと動いたとき、城主はその刀を抜いた。その鈍く光る刀身が三人に迫り来る・・・と思っていたのだが、男は抜いたままその場にへたりこんだ。
「ふにゃ〜」
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