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「ただいま戻りました」

忍術学園に戻った三人は図書室へと戻る。そこには三人の帰りを待っていた斜堂と、朝早くに荷物をもって出ていった弟子を待つ源四郎の姿があった。二人は三人の子どもたちの姿をみて安心したようすでほっと息をついていた。

源四郎が彼らの元へより声をかける。彼は平太のもつ長い木箱に目をやった。ぴょんぴょんとすみれは師匠のとなりで平太の腕をつかみ嬉しそうに報告をする。

「源四郎師匠!私たち可惜夜城へ行ってお殿様にあってきました!」
「そうか。あの城へ・・・あそこの城主は強情なところがおありだったから大変だっただろう」

源四郎はあらかじめすみれから可惜夜城へいくことは知っていた。危険があることも知っていたが、実は前もって忍術学園の教師である斜堂と協力し、一年ろ組の経験もかねて三人をいかせるとこにしたのだった。可惜夜城へいって三人になにかあればすぐに斜堂と実技担当の日向墨男が迎えに行くと言う手はずだった。

「はい。大変な目にはあったんですけど、収穫もありました」

怪士丸がすうっと前にでる。そして平太のもつ箱を指差す。彼の合図で平太はそっとその場に座り、木箱を置き蓋を開ける。その包まれた風呂敷をみて、源四郎の目付きが変わる。その風呂敷は木綿でできており、金色の糸で刺繍されていた。その中から出てきた黒塗りの刀の鞘をみて斜堂や源次郎は目を見張る。

「これはずいぶんと上等そうな刀ですね・・・」
「平太くん、少し私にも見せてくれないかい?」
「・・・はい」

平太はその刀を源四郎に渡す。彼は静かに刀を横にしてゆっくりと鞘から刀を抜いた。ぎらりと光る刃、刃文がうつくしく浮かび上がっている。源四郎はそれを黙って眺める。そして再び鞘に納め唸った。

「これは紛れもなき名刀です。名高い刀士が鍛えたものに違いありません」
「やっぱり!」

すみれは嬉しそうにする横で怪士丸がしかし・・・と続ける。

「これを持った可惜夜城の城主に試し切りにあいそうになったんですが・・・、城主がそれを握った瞬間力ややる気が無くなってしまったんです」
「これ、所謂”妖刀”じゃないかって、僕らは思うんですが・・・」

その言葉を聞いて斜堂は考える。そしてある提案をした。

「剣豪戸部先生に一度それでかかしの試し切りをしてもらいましょう」


全員は刀の入った箱をもち校庭へでて剣術の指南者である戸部にその刀の試し切りを行うことにした。
彼は斜堂に渡されたその刀をまじまじとみていたが、きっぱりと言い放つ。

「これがその妖刀ですか。されど私は刀にまどわされることはありません。操るのは常に自分。刀を自分で支配するのが武士です」
「まぁ、やってみてください。思いきりね!」

源四郎の言葉に押され戸部は刀を構え、校庭に刺さる目の前の試し切りの藁のかかしを定める。いざと気合いを入れた瞬間、戸部は急な脱力に見舞われた。ふっと足腰の力が抜けてしまいその場にへたる。あまりに急激な脱力感に驚き戸部は間の抜けた声がでる。
「ゆ〜ら〜り〜・・・なんじゃこれはぁ・・・」
「あわわ、あの剣の達人戸部先生がお腹も減ってないのにあられもない姿に・・・」
「平太その言い方は誤解を招くよ」

妖刀の呪いの威力に怯える平太。常に精神修行を怠らない剣豪とうたわれる戸部新左衛門ですら気力を奪うほどだ。その姿をみた源四郎は納得したように頷いた。何がわかったのだろうと皆興味津々だ。

「この刀は戦おうとする者のやる気を奪うのでしょう」
「戦う気力を奪う?」

すみれ、平太、怪士丸はその言葉に今日あったことを思い出す。可惜夜城は全体的にやる気のない兵士が多く、強情な城主が刀を持ち襲おうとすると途端に力を抜いていた。すみれはそういえば、と近くに置いてある刀が入っていた木箱をみる。

「これ、気になってたのよね」

木箱を開けると古い紙切れが出てくる。すみれがそれを広いめくると達筆な墨の文字で文が書かれてあった。すみれは首をかしげる。

「んー、難しい漢字が多いよ〜」

すみれが悩んでいると隣にいた怪士丸がどれどれと紙を覗きこみ、文を読み上げる。

「神降臨し古雅なる岩にて世の静謐が無窮に続く事を願い神剣ここに眠る」

怪士丸がそう読み上げる。源四郎もその紙と日誌を見比べてやはり、と呟く。三人もそれを見比べた。

「この文字を書いたものと日誌を書いたもの・・・筆跡が非常に似ています。恐らくこの刀を鍛えた者が残した日誌なのでしょう」
「この文の意味ってなんでしょう?」

すみれが訪ねると怪士丸がそれに答える。

「世の中の平和がずっと続くように、願いを込めたこの刀をあの岩に埋めたって事だよ」

へぇ、とすみれと平太が感心する。さすが図書委員、と平太は怪士丸を誉めた。
しかしなぜ平和の祈りを込めたものが刀なのだろうか?そもそもなぜこんな物騒な日誌を、刀士が鍛えたのだろう?その疑問を察した源四郎が、ゆっくりと語る。

「私が知っている名刀を作り出す刀士の中に、若くして刀士を辞めたという者がいるんだ。彼は自分の鍛えた刀を大名に認められてすぐに有名になったのだが、理想の刀を追い求めていくうちに、刀は『抜かぬもの』・・・つまり平和を求める刀こそ真髄と思うようになっていったんだ」

彼らはその言葉に首をかしげる。その言葉になるほどと呟いたのは剣豪である戸部だった。

「刀を扱う武士は道を極めることこそすべて。それはむやみやたらに刀は抜かぬもの。その刀士はそれに気づいたと言うことだろう」

「えぇ、彼は刀士の名誉を捨て、刀を作ることはやめましたが、歴史上その時期が非常に曖昧だったのです。恐らくその刀が最後の物でしょう」

平和を願う気持ちを一心に込めたその刀は闘志を持つ人が打とうとすると念が宿り一気に力が抜け闘志が消えてどうでもいい気持ちになってしまうという人によっては恐ろしい刀だと子どもたちはひっそりおもった。すみれはもう一度その刀をみてぽつりと呟く。

「本当に刀や武器がいらない世の中がきたら・・・いいのにね」

刀を戸部から受け取り元通りにする源四郎。さてこの刀をどうするかを考えていると当然でしょうとよこからぬっと斜堂がでてきてすみれと源四郎は驚き後ずさりする。

「わーっ!驚かさないでください斜堂先生!」
「いえ、驚かせているつもりは・・・そんなことより、この刀は当然川村堂さんが管理すべきでしょう」
「なんでです?この刀のあった日誌は忍術学園にあったのに」

すみれがそんなことを言っているとまわりの視線に気づく。その視線の意味がすみれと源四郎にはすぐに察することができた。それはやっかいなものを人におしつけようとする気持ちのある視線だと二人は何度も経験し身に染みている。源四郎が深くため息をついた。

「わかりました。うちで取り扱いましょう」
「えぇ!?また斬れない刀を引き取るんですか」
「なにを言うんだすみれ。これはれっきとした斬れる刀だ。斬らせないようにしているだけの・・・」

聞き苦しい源四郎の言い訳にすみれもうなだれる。

「それ結局斬れないじゃないですか・・・」

また曰く付きのものを受け取ってしまった川村堂。これによりますます人が寄り付かない骨董屋へと拍車をかけることになるのだった─。



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