運命の軍配団扇1
「あれ?平太今日は出掛けるの?」
午前までの授業も終わり、早めの放課後を迎えた忍術学園。門の前を通りかかった鶴町伏木蔵は、私服姿の同じ学級である平太を見つけて声をかけた。伏木蔵の声に平太は振り返り、軽く手をあげる。
「うん・・・川村堂のお手伝いに行く約束だから・・・」
「川村堂って、確か曰く付き骨董品ばかり扱ってるっていうあの・・・」
平太が頷くと伏木蔵の瞳が輝く。スリルある〜と呟いて平太に近づいた。
「僕、一度その川村堂に行ってみたかったんだぁ。だって曰く付き骨董品なんて、すっごいスリルあるじゃない?」
「じゃぁ、伏木蔵も来る?」
平太の誘いに伏木蔵は喜んで行くという返事をした。そのまま彼は瞬く間に長屋に戻り、外出届を用意し私服に着替える。川村堂にろ組を連れてくるのはこれが初めてだった。
準備を終えた伏木蔵は、改めて平太と学園を出る。道中をのんびり歩きながら、伏木蔵は平太に声をかけた。
「ねぇ、平太はすみれちゃんに会いに行くんでしょ」
突然意表をついたことを突かれ短い悲鳴をあげた平太。ぎこちなく伏木蔵をみるといつものなにか心の奥をのぞき込むような瞳で平太をみてくる。それが平太には恐ろしく感じた。あえて伏木蔵とは顔を合わせずうつむいてどもる平太。
「うぅ・・・恥ずかしい」
「やっぱり。そう思ってたんだよね」
「伏木蔵は鋭いね・・・」
正直、ろ組のいつもの面子はみんな平太の気持ちに気づいていると思うが、伏木蔵はそのことは黙っていた。平太はあっと頭をあげる。
「会いに来たってことはまわりにはっ!絶対内緒にして!」
「言わないよ。ぼくは平太のこと、応援してるからさぁ」
その言葉に平太はほっと息をつく。伏木蔵はその様子をみておもわず笑みを浮かべてしまう。あの小心者でひかえめな平太が一人の女の子のことを気にしているのだ。こんなことを彼に言っては悪いが、すごいスリルである。わくわくがとまらない・・・というのが伏木蔵の本音だった。
そんな会話をしている間に最後の坂を上がると奥に落城した城の跡地、その麓に小さな平屋の店がある。そこには藍色の暖簾で「骨董川村堂」とかかれている。二人はその店を前にして声をかけた。しかし、いつもならすぐに出てくる明るい少女の姿が来ない。平太はいつもと様子が違うと、恐る恐る川村堂の店の中に入った。そして悲鳴が出る。
「ひぇ・・・お店が・・・!」
後ずさる平太におかしな様子を感じた伏木蔵が平太の背中越しに店のなかをのぞきこみ、目を見張った。あちこちの品がちらばっている。いや、荒らされているのだ。気配のしない店内をみて、二人は戸惑った。平太は店の主人源四郎とすみれの安否が気になった。考えるより先に体が動き、店内ではない奥の部屋へと走る。
「源四郎さん、すみれちゃん!?」
そこには二人してうなだれるすみれと源四郎の姿があった。すみれは平太の姿をみて悲しい表情をつくる。ただ事ではない様子に伏木蔵と平太は二人に声をかけた。
「どうしたんですか・・・これは」
「うう、平太くん・・・お店に、お店に泥棒が入っちゃったの」
泥棒、と二人は声を揃えた。源四郎が難しい顔をして、ため息をついた。
「あぁ、来てくれたのに・・・すまないね。こんなことになってしまって」
「あの、お二人とも怪我とかないですか?」
二人は黙ってうなずく。泥棒に入られ品を盗まれたが二人を襲ってはいないみたいだった。
「事情を説明できますか?」
伏木蔵の言葉にすみれはぽつりぽつりとあったことを話始める。その語りにきらりと目を光らせた伏木蔵。彼はすみれの証言に身を乗り出して聞いている。なぜなら彼はスリルとサスペンス・・・つまり身震いを起こすような出来事と謎が大好きであった。
「まだ日の登らない朝、私たちはお得意のお客様に挨拶まわりに出掛けたの。ここから少し離れた町にあるお客様の家を数件まわりおえて、昼過ぎごろに帰ってきたら店内がみての通りあらされてて・・・」
そういってうなだれるすみれ。役人に事の事情を相談しようと源四郎と話している時に、平太と伏木蔵がやってきたということだ。
一通り話を聞いて一番重要なことを伏木蔵は訪ねる。
「一体何が盗まれたんですか?」
すみれはその言葉に真っ青になる。ここは曰く付きの骨董屋。まともな骨董などはなく、不気味で説明のつかないことばかり起きるものを扱う川村堂だ。一体どんな恐ろしいものが盗まれたのか・・・ごくり、と平太は固唾をのみこみすみれの言葉を待った。
「軍配団扇・・・だよ」
「軍配団扇ってあの、合戦場で軍を指揮する時に使うあれ?」
すみれはうなずく。川村堂が盗まれたのは彼らの言う合戦場で使われる団扇。俗によくみる瓢箪の形をした漆塗りの団扇のことである。しかもただの団扇ではない、とすみれは続ける。
「その軍配団扇はね・・・振った軍は必ず負けると言う団扇なんだ・・・」
そういって恐ろしい!とすみれは顔を覆う。その団扇をつかった軍は必ず合戦に負ける。それが曰く付きというわけだ。源四郎はなぜその団扇が盗まれたのかを黙って考えている。平太が何気なく伏木蔵の顔をみる。その話を聞いて彼はなぜか頬を紅潮させて嬉しそうに指を組んで二人を見ていた。そしてたまらずに声がもれる。
「なんってスリルとサスペンスなんだ!ねぇ、平太もそう思わない!?」
「えぇ・・・?」
平太は彼のいつものやつが始まったなと思った。こうなったら止められないと平太は早々彼を止めることを諦めた。ばしっと伏木蔵は平太の手をつかむ。そして源四郎とすみれのそばに寄った。
「その目的と犯人が知りたい!すみれちゃん、源四郎さん、僕たちがこの事件の真相を解いてみせますっ!」
「犯人を見つけてくれるの?」
すみれは二人を期待の眼差しでみる。平太もすみれにそんな瞳で見られてはいやがることはできない。伏木蔵の勢いに任せて平太もうなずく。するとすみれは嬉しそうに平太と伏木蔵の手をとった。
「助かるよー!わたし心配なんだ。この軍配を盗んだ人の人生が負け続きになるんじゃないかと・・・それが心配で心配で・・・」
「君たちのような子どもに頼むことではないのかもしれないが、他に当てがないし・・・ここは忍術学園の生徒さんにお願いしてみよう」
伏木蔵と源四郎の言葉に元気をとりもどしたすみれはいつもの笑顔で返事をする。すると源四郎は「なにをいっているんだ」とすみれの頭をぽふっと撫でた。
「お前も平太くん達に協力するんだよ」
「えぇっ!源四郎師匠は協力してくれないの?」
すみれは露骨に心細そうな顔をする。大人の協力なしでこの盗難の謎を解決するのは大変ではないかと不安だった。しかしそんな不安をよそに伏木蔵は胸を叩く。
「三人よればなんとやらっていうじゃない?それに僕、この事件の目処がだいたいわかったかもしれない!」
「えっ!すごいね伏木蔵くん!」
「うん。ちょっとこっちきて・・・」
伏木蔵はすみれの手を握り店内までつれていく。それをみた平太はおもわずあっと声が出た。そんな自分に驚いたのは平太自身。いつも自分が彼女の手を握っていたのにいまは伏木蔵がすみれの手を引いていることに少しモヤモヤした。その気持ちが平太には初めてだったので、「嫉妬」という言葉が浮かばずにおり、黙ってその様子を見ていることしか出来なかった。
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