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そうして再び店内にやってきた皆。変わらず店内は坪や屏風が倒れていたり、掛け軸も床に無惨に落ちている。その風景を伏木蔵は訝しげに睨む。どうみても荒らされた以外の発見がないように見えたのだが、伏木蔵にはべつの場所が気になった。

「僕にはこの荒らされた店内が本気で物を物色したようには見えないんです」
「本気じゃない物色?どういうことかしら」

伏木蔵は坪が置いてあった隣の引き出し棚を指差す。そこには装飾品などが仕舞われている棚だった。その棚は一切触れられていないらしい。伏木蔵はゆっくりひとつの引き出しを引き中を覗いた。その中はきれいに装飾品が仕舞われている。

「やっぱりおかしいです。本気で物を盗むなら、こういう棚も荒らされてないとおかしいのに一切手をつけてない」
「確かに・・・棚の中を見ていないのはおかしいですね」

つまり推測するに、この荒れ方は作られたものだということだ。泥棒が入ったように見せかけており、偶然団扇を狙った・・・というように思わせている。しかし犯人の目的は元々この団扇が目的だったのではないかということだ。

「さらに襲った時間も気になります。まるでこちらの予定を把握していたのようなタイミング・・・。偶然居留守を狙ったにしてもこの荒れ方です。僕にはこれがただの泥棒の犯行には思えません」

彼の言葉に三人は改めて考える。黙っているなかすみれが冗談半分に呟いた。

「ということは犯人は元々あの軍配団扇を狙って調べていて、うちの仕事スケジュールも把握して事を起こしたってことよね?なんか忍者の調査みたいだね」

何気なく放ったすみれの言葉に伏木蔵はそれだっとすみれに指をさす。

「盗まれたのは軍配団扇・・・それを欲しがるなんて限られているんじゃないかな!?」

平太もピンと来たようで、手を叩いた。

「そうか。軍配をつかって戦をするのはお城の武将だもん。そのお城の忍者に命じて、軍配団扇を盗ませるってこともあるかもしれない」

しかし・・・とすみれと源四郎は顔を見合わせる。平太や伏木蔵にも言いたいことは何となく察することができた。盗まれたのは使ったものを必ず敗北に陥れるという曰く付きの軍配団扇だ。それを使ってしまうとその城は負けてしまうというのに、なぜ欲しがるのだろうか。

「自分が使っちゃうと自分の軍が負けちゃうのに・・・知らないのかなぁ」

ますます深まる疑問にすみれが腕を組みなやんでいるとどこからともなく声が聞こえた。

「その団扇を誰かに扇がせれば、話は変わるんじゃないか?」

その声にすみれ達は振り返る。見知った顔にすみれはぱたぱたとその店に入ってきた人物のもとに駆け寄った。

「利吉さん。来てくださったんですね」
「利吉さん?」

平太と伏木蔵は意外な人物に驚く。あの忍術学園の凄腕教師、山田伝蔵の息子、利吉がこの店に来るなどとは思っても見なかった。
利吉は源四郎の元へより、改めて店内を見渡す。

「母からのお礼の品を届けにきたのですが・・・ひどい有り様ですね」
「はぁ・・・実は泥棒に入られましてね」

源四郎の言葉に利吉は聞きました、と答える。

「すみません。店の前に来たら聞こえちゃいまして・・・」
「利吉さん、団扇を誰かに扇がせるって・・・どういう意味ですか?」

伏木蔵が利吉の言った意味を考える。隣にいた平太が恐る恐る口を開いた。

「もしかして、戦の合戦相手に団扇を扇がせるってことじゃないかな」

平太の言った予想にその通り、と利吉は頷いた。

「大名は縁起担ぎをするものだからね。それに曰く付きと名だたる川村堂の品なら信憑性も高い。その軍配を利用して戦を仕掛け、負けさせる・・・なんて考える者がいたっておかしくないだろう?」

すみれの顔が再び蒼白になる。店の曰く付きの品でひとつの戦の勝負の左右を決めてしまうかもしれないのだ。もしその元手が川村堂だと分かれば打ち首かもしれない・・・。

「やだー!」
「わっ、どうしたの・・・すみれちゃん」

すみれは伏木蔵と平太に向き直る。
必死の形相で二人に手を合わせて祈った。

「おねがい!絶対にその軍配を取り戻さなきゃ!!」
「すごい気迫だねすみれちゃん」

その様子を見ていた利吉は少し考えてすみれに提案する。

「すみれちゃん、私もその軍配団扇を探す協力をするよ」
「えっ!利吉さんも協力をしてくれるんですか?」

利吉が協力すると聞き伏木蔵や平太も利吉の周りを囲む。利吉はそんな彼らに笑顔を向けた。

「あぁ。私の仕事にも役立つかもしれないし、川村堂さんには母がお世話になってるし・・・」
「利吉さんがいらっしゃれば師匠よりもたよりになるかも!」

ぽろっと出たすみれの本音に微妙な顔をする源四郎。

「すみれ、私の前で言うのか・・・」
「ま、まぁまぁ・・・。では、先ずはその軍配団扇を作った者が私は気になるな」

軍配団扇はうちわ職人が作るものである。うちわというと竹ひごに紙を貼ったものを浮かべるが軍配団扇は鉄や皮を用いて漆塗りを施す。

「それでしたら、先程挨拶回りに行った人の中にその軍配団扇を作った職人さんがいらっしゃるんです」
「そうなの?」

意外にも近くにその職人はいるらしく、ここから少しあるいた先にある賑やかで栄えた町いいるらしい。聞けば、その職人自らがこの川村堂に団扇を納めてほしいと、半端押し付けぎみに渡された。それを断れないお人好しの源四郎が、いつものように高値で買い取ったというわけだ。

「では、まずそのうちわ職人の店で、情報収集だ。・・・とその前に、はい。すみれちゃん、これ母が作ったおはぎだよ」

すみれは利吉からぽんと竹皮でくるまれた包みをうけとる。ほんのりと甘い小豆の香りがしてすみれは笑顔になった。包みの紐をほどくと3つ、丸い小豆のつやつやしたおはぎが並んである。

「みんなで食べなさい」

源四郎の言葉に子供達は喜ぶ。調査の前におやつの時間となった。



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