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時は昼の真っ只中。町の中ですみれと平太、伏木蔵、利吉は盗まれた軍配団扇を作ったという職人の店の近くに来ていた。その通りはいわば職人通り。着物屋や鍛冶屋、大工屋などが並んでいる。そのなかのひとつに、彼らが目指す団扇屋があった。

「ここです・・・小三郎さーん」

すみれは奥にいるこの店の主、団扇職人の小三郎を呼んだ。彼はその声がすみれだとわかり、笑顔で奥からやって来る。店内を覗けば色鮮やかな団扇、大きなものから小さなものまでところ狭しと棚に並んでいる。

「すみれちゃん、どうしたの?朝挨拶にきてたのに」
「えっと、実は・・・」

すみれは事のあらましを小三郎に話すと彼は自分の作った曰く付きの団扇が盗まれたと知って驚いた。

「えぇー!あの団扇が?欲しがる人なんているのかな〜。確かにうちの品の中では質の良いものではあるけど」

小三郎はなぜそんなものが盗まれたのか、心底理解できない様子だ。利吉は小三郎にあることを聞いてみる。

「すみません。小三郎さんが作られたその団扇・・・なぜ使ったものが必ず負けるのか、理由はわかりますか?」
「うん・・・恥ずかしい話なんだけど・・・あ、部屋の奥で話そう」

キョロキョロと辺りの人目をきにする小三郎。みんなはぞろぞろと部屋の奥へ入る。そこには団扇の制作室になっていて、材料や道具が散らばっていた。

「実はあの団扇・・・ぼくが失恋してしまったときに、とある城の武将に頼まれて作ったものなんだ」
「失恋!?」

平太、伏木蔵は意外な言葉にすっとんきょうとした声をあげる。小三郎はわっと慌てた。

「し、静かに!恥ずかしいんだから・・・あの時は立ち直れなくて半端やけくそでめそめそしながら軍配団扇を作ったんだ。そしたらさ、数ヶ月経ってその城の使いの人が困ったようにやって来たんだ」

その城の使いは、小三郎の作った軍配団扇を持ってきていた。そして恐ろしげに「この軍配団扇を使うと負け続きになって我が城は落城寸前だ!」と言って返しに来たらしい。その後も様々な城に軍配団扇が渡ったがどの城でも負けが続いては返されていくのだった。

「それで、この軍配団扇にはぼくの失恋の念が込められてしまって、使ったものを不幸にする力があるんだと思って、色々考えて川村堂さんに引き取ってもらったって訳だよ」

「うちはそんなお店じゃないのに・・・」

すみれは小三郎の言葉につい本音が出てしまう。それを伏木蔵はなだめていた。

「なるほど。その・・・初めに返した城と言うのは?」
「B城です。最近、O城と同盟を結んだらしいですけど・・・」

でも、と小三郎は拳を握り高らかに続ける。

「僕、最近団扇職人として有名になってきて、それがきっかけで恋人もできたんですよっ!もうあの頃のような負け続きの僕じゃない!」

彼はその部屋の棚にある一つの唐箱をあける。そこには黒光りする団扇に黄金の美しい鶴の絵が描かれた大きな瓢箪型の団扇、軍配団扇が入っていた。

「これぞ僕の技術を全力で込めた大作!これさえあれば戦は負け知らず間違いなしっ!」
「えぇ!必敗の団扇の次は必勝の団扇ですか?」

みんなはわらわらとその団扇を見る。確か、とすみれは盗まれた団扇をおぼろげに思い出す。

「必敗の団扇には、獅子が描かれてました」
「この団扇には鶴、か・・・」

利吉が興味深げに見つめる。すみれも必勝の団扇ときき、瞳をキラキラさせる。縁起の良さそうな品は川村堂にはないものだ。

「この団扇、川村堂が買い取ります!!前の団扇の倍の値で・・・!」
「すみれちゃん、そんなこと決めちゃっていいの〜?」

源四郎の相談もなく団扇を買い取ろうとするすみれに伏木蔵はそんなことを言う。しかし、職人の小三郎はその申し出には首を横に振った。

「申し訳ないがこれは、すでに買い手が決まってるんだ。たしか、身なりの良い武士のお方だった」
「えぇ〜、残念」

露骨に落ち込むすみれを他所に、利吉は小三郎の言った言葉にますます何かを考えるようにしている。すみれは小三郎にひとつお願いをしてみる。

「一度だけ・・・一度だけ振らせてください〜!」

すみれは必ず敗ける団扇を作ったこの職人なら必ず勝つ団扇もあるとそこはなとなく確信していた。すみれは人の念はその人の運命を左右させるほどの力があると、曰く付き骨董店をやっていて実感している。だからこそ、その必勝の念が込められた団扇を扇いでみたいと思ったのだ。

少女であるすみれの無邪気な願いに小三郎もダメとは言えず、少しだけだよ、とすみれに軍配団扇を渡した。すみれはそれをもって小さく団扇を振る。

「川村堂、いざ出陣!」
「おーっ」

その合図に合わせて平太と伏木蔵も腕をあげる。戦の出陣の真似事をした三人は朗らかに笑う。

「これですみれちゃんは負けなしだねぇ」
「ふふ、なんでもかかってこーい」
「よかったね・・・すみれちゃん」

すみれはその団扇を振って満足したので小三郎のもつ箱に再び団扇を納めた。そんな子供たちを穏やかな様子で見守っていた利吉が、ふと店の出入口を鋭くにらんだ。

「この気配は・・・?」
「どうしたんですか?利吉さん・・・」

すみれが聞いたとき、入り口から入ってきたのは烏帽子を被った老人。だが、その足取りは老人と思えないほどしっかりしている。

「小三郎さん、軍配団扇をいただきに参りました」
「あぁ、お待ちしておりました。今持っていますのが品でございます。今包みますので」

小三郎が軍配団扇を引き取りに来たお客に渡すため風呂敷を用意しようとした。しかし、老人は固い口調で断った。

「結構です。急いでおりますので」
「はっ・・・お代は先日受けとりましたのでよいのですが・・・本当にこのままでも?」
「私が構わんといっているのです!」
 老人は乱暴にその軍配団扇を引ったくるように取り抱えた。そして挨拶もせずに走るように去っていく。横暴なお客の態度にすみれは思った事を言う。

「なあに、あのおじいちゃん!監事わるいわ!」
「おかしいなぁ、この前会ったときはとても丁寧な方とお見受けしましたが・・・」

まさか、と利吉と伏木蔵は老人が去った方を振り返る。

「もももも、もしかして!」
「あの老人は・・・!」

「いや、小三郎どの。軍配団扇を引き取りに参りました」

すると反対の方から驚くことに先程会ったばかりの老人がそっくりそのまま店のなかにやって来た。何が起こっているのかわからない平太とすみれと小三郎。

「おじいちゃん!さっき、来たばかりなのに!」
「君たち、そこで待っていてくれ!」

利吉がとっさに以前の老人の後を追う。その間に伏木蔵がみんなの反応にとまどっている老人に起こった事を説明した。

「私が少し前にここにきて軍配団扇を引き取りに・・・?いえ、私は今さっき町に来たばかりです」
「やっぱり、あのおじいさんは偽者だよ!」

伏木蔵の言葉に三人は起こった事がどんなものなのかがわかってきた。小三郎はショックを受けている。

「偽者!?僕は偽者のお客様に品を渡しちゃったってこと?」

がくりと項垂れる小三郎。老人も事態を飲み込み、腕を組んだ。

「なるほど・・・やはりこれは策略ですなぁ・・・」

何かを悟った意味ありげな老人の言葉に伏木蔵がまたもやわくわくした様子で老人に向き合った。

「やっぱりこの事件はスリルとサスペンスが盛りだくさんだね!ねぇ!平太!」
「うーん、僕はなにがなんだか・・・」

入り口を見ていたすみれが戻ってきた利吉の姿をみて声をあげる。

「あっ、利吉さんが帰ってきた」
「はぁ。追いかけたけど見失ったよ。あれば間違いない。忍者だね」

そういって一息ついた利吉は呼吸を整える。どうやら先程やってきた老人はあの必勝の軍配団扇を狙った偽物で、本来引き取る予定だった老人に変装した忍者だったらしい。しかし化けられた老人は冷静だった。そしておもむろに老人は持っていた風呂敷を小三郎の前にだす。

「引き取りに来たついでに、こちらも見ていただきたくてきたのですよ」

皆は老人の持ってきた風呂敷に注目する。結び目をほどいて包まれていた木箱をあける。その中身をみたすみれはあっと声をあげた。

「これ!今日盗まれた軍配団扇ですっ!!」

美しい漆塗りで黄金の獅子が描かれた瓢箪型の団扇。間違いないとすみれはうなずく。なぜ奪われた団扇が老人の元にあるのか?皆は同じ疑問を持っていた。老人はその疑問に答えるようにいきさつを話始めた。



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