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「うーむ、B城とO城の水鉄砲による戦ごっこか・・・」
ここは忍術学園の学園長の住む庵。すみれと平太、伏木蔵は大川学園長に事のあらましを説明した。その話を聞いて大川は難しそうに唸っているように見えたが・・・
「楽しそうじゃの!許す!」
「あっさり!」
一応城の行く末を左右する戦ごっこだが、あまりにもあっさりした快諾にすみれは拍子抜けする。大川はふすまの向こうに目をやり声をかけた。
「良いでしょう?斜堂先生?」
すっと音もなく障子が開く。そこには相変わらず真っ青な顔をしてうつろうような瞳の一年ろ組教科担当の斜堂が立ち尽くしていた。
「はい・・・日向先生も良いとおっしゃってます・・・」
「いつの間に斜堂先生が・・・」
するとその後ろにひょっこりといくつかの頭が出てきた。斜堂の横から姿を現したのは平太と同じ制服姿の男の子。
「虎若、いたの?」
「いたよ。話偶然聞いちゃった!その水鉄砲の戦ごっこ、僕も参加したい!」
虎若の申し出に伏木蔵と平太は喜ぶ。すみれは彼のことを知らなかったのでたずねると、虎若は佐竹村の鉄砲隊の中で育ったらしく、鉄砲の腕は上級生も感心するほどのものらしい。
「俺たちは応援しに行くぞ、平太」
わらわらと顔を出したのは体の大きな上級生とその後輩らしき人達。平太が「食満先輩」と驚いたようだった。
「保健委員もいるよ」
「平太、これは用具委員の力を見せつける良い機会だ!とにかく敵を蹴散らせ!」
食満は食い入るように平太を見つめて拳を突き出す。その隣を保健委員と名乗った男性が苦笑いする。
「水鉄砲でも、場所は合戦場だろ?転けて怪我をするかもしれないからぼくたちも様子を見に行くよ」
「ええっ!?伊作先輩も、いらっしゃるんですか・・・」
なぜか、恐ろしい表情をする伏木蔵。平太も同じく恐怖していた。すみれはそれがどういう意味なのかわからずきょとんとしている。
「とにかく、俺たちも陰ながら応援しているから、絶対B城の生ぬるい兵士なんかに負けるなよ!」
「はい!」
あの平太が食満の激励に半べそかきながらも背筋を伸ばしている。
すみれはその様子を見ながら改めて参加者を考える。
「わたしと、平太くんと、伏木蔵くん、虎若くんに、大名であるO城のお殿様・・・あと一人足りないよね」
「他にお子さまがいるってこと?」
彼らの疑問に大川は不敵な笑みを浮かべた。ワシに任せなさい、と大川は胸をとんと叩いた。どうやらあてがあるようだと皆は顔を見合わせた。
──数日後、人数が揃ったすみれ達は改めて揃った面子をそれぞれ見直す。自分と平太、伏木蔵に虎若、そしてなぜか利吉が入っている。みんなの視線が利吉に集まると彼は困ったように肩をすくめた。
「子どもだけでは勝ち目がないと思ったB城がくれたハンデが私らしい」
恐らく大川学園長が手を回したのだろう。利吉は皆に竹筒の水鉄砲を渡す。すみれはおもむろに水鉄砲を空にためしうちにした。すると透明な水が勢いよく飛び出し遠くまで線を描く。特に仕掛けはない普通の水鉄砲だ。
「場所も平地かと思ったけど、城の跡地にもみえるね」
虎若が辺りを見渡す。塀がぐるりとまわり、石垣で迷路のようになっている。そして所々に残る倉庫などの障害物も多い。
「あぁ。平地だと勝負はあっという間に終わるから。恐らく盛り上げるためのここなんだろう」
「僕ワクワクしてきたよ」
虎若と伏木蔵はうずうずしているようで水鉄砲を構えている。すみれは改めて場所の見取り図を見る。隣の平太は怖がっているのかと思いきや意外に平然としていた。
「平太くん、緊張してない?」
「ちょっと怖いけど、まぁなんとか・・・」
「ろ組は結構肝が座ってるから」
いつもと変わらない平太と伏木蔵を虎若はそういう。
彼らがそんな話をしているとどこからともなく蹄の音が聞こえる。みんなが振りかえると甲冑を着こんだ凛々しい若侍が馬にまたがり毅然とやってきた。そして片手に握るのは、彼らと同じ水鉄砲だ。
「皆の者、またせてすまない。私がO城の大名の乙彦という。よろしく頼むよ」
隣には浜野も立っている。彼も皆をみて軽く頭を下げた。それを見ていた伏木蔵がぼそりと言う。
「大名っていうから強面のお方かと想像してたけど・・・」
「かっこいい〜!」
すみれは改めて乙彦をみる。兜の間に見える面長の切れ目にすっとした鼻すじ。美しく纏めた長い髷。雄々しく着こなした甲冑姿に見とれている。
そしてさらに奥からわらわらと声が聞こえた。その声は聞きなれたもの。平太、伏木蔵はすぐに彼らのことがわかった。やってくる団体に二人は元気よく手を降る。
「保健委員と用具委員のみんなだ〜!」
「ほんとにきたんだ・・・」
平太は彼らと目が合うと、さっそく食満と保健委員長である伊作が以前と同じように激励する。
「怖じ気つくなよ!平太!」
「皆夢中になって怪我しないでくれよ〜」
そんな自分達より熱い二人をみる平太と伏木蔵は冷静だ。
「食満先輩、参加する僕たちより気合い入ってるね」
「負けちゃったらすごく怒りそう」
怒られるの怖い、と顔を覆う平太。そんな平太の肩をぽんと叩き励ますのはすみれだ。平太が顔をあげると彼女はいつもの明るい笑顔で平太を勇気づけた。
「大丈夫よ平太くん!利吉さんもいるし、私も大人だからってただじゃ転ばないわよ」
「すみれちゃん・・・」
そんな闘志の沸き上がっているすみれの姿に平太もこれではいけないと首を小さくふる。大人は女の子であるすみれを真っ先に狙うだろう。自分がそれを阻止せねば好きな子を守る男として示しがつかない。平太は静かに水鉄砲を抱えた。
「あっ、B城も来たみたい」
虎若が遠くを見るとそこには6人の兵士たちがやってきた。なかには乙彦と同じく馬にのって旗をなびかせている鎧を来た男、おそらくB城の大名だろう。兵士は皆大人の男。いつもは火縄銃に太刀や槍を構えているであろう彼らも水鉄砲を抱えていた。
「乙彦どの、此度は我々との同盟を結んでいただき感謝つかまつる。今回の余興、楽しみにしておりました」
「私もです馬進殿。互いをよりよく知るためにお呼びした次第です」
乙彦の答えにB城の大名、馬進は不適に笑う。この馬進という男は少し小太りで体の大きな無精髭の濃い男だ。
「我らが勝てばどんな要求でも叶えるとお聞きしたが」
「はい。どんな要求でも。ただし、我々が勝てば馬進どのも要求をのんでもらおう」
「よろしい」
馬進はすみれ達を見る。お子さまの多い乙彦に、相手の勝ち目などないと見切ったようだった。彼らは持ち場につくといい、反対側に離れていく。きびすを返す間際に利吉は完全に侮っている馬進の表情を瞬時に察する。
食満が予め調査した見取り図を開いて呟く。
「互いの軍が、この城跡の西と東とで別れておき、勝利条件は相手の軍を滅ぼすか、大名を撃ち取ればいいんだっけか?」
「あぁ。でも問題は地形だよ。平野であれば集団先方が有利ではあるがこうも建物や塀の障害物が多いとどこに敵がいるか分かりにくいね・・・」
伊作は辺りをみわまして悩ましげに答える。しかし、それは兵士の場合だ。彼らは忍者のたまご。障害物が多いということはそれぐらい手数が多いということになるのだ。食満はなるほど、と腕をくんだ。
「戦場によって変化するのが忍者だ。伊作、これは平太たちの方が有利かもしれんぞ」
「だといいんだけど・・・伏木蔵、大丈夫かなぁ」
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