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すみれ達も初めの持ち場につくために馬進と反対方向へとむかう。歩きながら乙彦は利吉の方へと振り返った。その表情にはうっすらと笑みすらある。

「さて、利吉くん。きみの作戦はどんなものかね」

すみれ達も利吉の言葉に耳を傾ける。彼らはいまのところ無計画。ここは数々の戦を調査してきた利吉の考えが一番良いだろう。

「あちらの軍はずいぶんと我々を侮っているように見えました。恐らく大名である馬進が出る幕もないと考えているでしょう。平太くん、ほうせん引玉という戦法は知ってるかい?」

突然難しい問題を投げ掛けられて慌てる平太。しかしその戦法は授業で聞き覚えのあるものだった。

「えっと・・・たしか・・・」

思い出そうとして口を開いたとき、隣にいた伏木蔵が手をあげて答える。

「囮を用意して敵を誘う戦法ですよね。兵法戦略のひとつです」
「あぁ、僕の台詞・・・」

そんなやり取りをみてすみれは感心する。彼らは一年と言えど年下であるにも関わらず、戦のことをたくさん知っている。一般人として自分と見ている世界がまるで違うなと思った。側で黙って聞いている虎若にも聞いてみる。

「虎若くん知ってた?」
「ううん。初めて聞いた」

即答する虎若に伏木蔵は苦笑いする。

「授業で習ってるはずだけど・・・」
「ははは・・・そのほうせん引玉だけど、この場合囮は私だ」

利吉が自らを囮といって彼らは驚く。力のない忍たまと、唯一実力のある利吉がなぜ囮などをするのか?

「馬進は私たちを見ただろう?軍として一番手強いのは大名である乙彦様、そして次に大人であり男である私だ。私を押さえればあとは軍を壊滅させるか、乙彦様を狙うか・・・まぁ恐らく軍を壊滅させる方を選ぶだろうな」

それはB城にとって大名であり、武力の強い乙彦を避けておき、力のない子どもたちを片付け軍を壊滅させた方がリスクは少なく簡単であるからだ。

「やつらはこぞって狙って私をねらうだろう」
「でも皆に狙われちゃ、さすがの利吉さんだって手におえないんじゃないですかぁ?」

虎若が心配そうに尋ねる。すると利吉はどこからか水鉄砲を取り出した。それを虎若に渡す。彼は突然渡された新たな水鉄砲を不思議そうに見る。

「虎若くん。君はそれを使って私の近くに隠れ、敵を一掃してほしい」

渡された水鉄砲の栓をみるとその穴がほかのものと違って細くなっている。それをみて虎若はあっと声をあげた。

「これ、穴が小さいから他の水鉄砲より飛距離が長いんですね?」
「その通りだ。できるかい?」

虎若は胸を叩いて笑顔で答える。

「まっかせてください!鉄砲となのつくものならなんでも扱って見せますよ!」

頼もしい虎若の言葉に利吉は微笑む。その作戦を聞いた伏木蔵は平太に耳打ちをする。すみれにはその会話が聞こえなかったが、この戦いでは戦の経験のない自分はあまり役に立てそうなもないと薄々思っていたのでとにかく彼らの動きに合わせて頑張って動くつもりだった。

そんなやりとりが行われている間に乙彦の持ち場につく。そこでは合戦場の陣地が組まれており、なぜか太鼓と法螺貝があった。

「これで合図しろってことかしら」
「うーん、合戦っぽくなってきたね!」

なぜかワクワクしている伏木蔵をよそに、利吉が空を見上げると西の方にはのろしが上がっていた。どうやら馬進の軍も持ち場についたらしい。

「すみれちゃん、僕たちはできるだけ利吉さんたちの奥から乙彦さんの手前らへん、建物や茂みのある障害物の多い所に潜んでいよう」

伏木蔵と平太がやって来てすみれに伝える。彼女も素直に頷いた。いよいよ始まる戦ごっこに緊張しているすみれに平太が手をとり微笑む。

「僕、頑張るから。すみれちゃんもついてきて」
「う、うん・・・」

いつもと違って堂々としている平太の姿。差し出された手をぎゅっと掴む。こんなとこで怖じ気ついてはいられないとすみれは平太のおかげで自覚した。

利吉が太鼓を前に担ぎ法螺貝を持つ。その忙しい姿に虎若が吹き出す。

「利吉さんなんか面白い・・・」
「笑ってる場合か!合図するからすぐ出陣の支度をしろ」

なんとか笑いをこらえた虎若が水鉄砲を構える。陣地の奥にいる乙彦がそうだ、と荷物から一つの軍配団扇を取り出した。それをみて一同は凍りつく。

「おおお、乙彦さんその団扇!」

すみれが軍配団扇の柄をみて驚く。そこには金箔で獅子の柄が描かれている。皆も注目してそれぞれが悲鳴をあげた。

「必敗の団扇!」
「縁起悪すぎです!」

周りのざわめきにも乙彦は動じない。むしろ面白そうにしてその団扇をあおいだ。すみれはさらに悲鳴をあげる。

「なにを恐れている。縁起物に振り回されているようでは天下はとれんぞ!」
「や、やめてー!」

きっと乙彦は呪いの力というのをあまり実感したことがないのだろう。すみれの必死な制止もむなしく、乙彦は必敗の団扇を大きくあおぎ、西の敵陣へ指した。

「いざ、開戦である!」

同時に利吉の太鼓が遠くまで響き、法螺貝が鳴る。その音は西にいる馬進の耳にもしっかり届いた。彼の手にはO城から奪った、鶴の絵が書かれた必勝の団扇が握られていた。彼にはこの緊張の瞬間である開戦の音ですら今は心地よい。

「こんな簡単な戦ごっこで敵の城が手にはいるとなれば、よい話はない。これで我々の勝ちは決まったも同然だ・・・!」

馬進は高笑いをして、勢いよく必勝の軍配団扇を大きく振る。その瞳はぎらぎらとしていた。こうして両者の戦いの火蓋は切られたのであった。




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