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開幕から少し時間がたち、両軍が対立しあう。しかし観客としてみていた保健委員と用具委員は、その人気の無さに開幕の実感がわいていない。やっと姿を現したのは利吉一人だ。
B城の偵察に行っていた用具委員の富松が食満と伊作の元へ戻ってくる。
「B城は東の正面から前方に3人の兵士、そして遠回りして2人の兵士を派遣したようです」
富松の報告に食満は考える。5人の兵士が向かってきているがそこには馬進はいないとの事だった。彼は恐らく陣地の中に一人いるのだろう。
「自分が出る幕でもないと考えているようだな。それか、出方次第というところか」
「O城は、利吉さん一人が前方に出ているように見えますね」
隣で怪我人に備えていた保健委員の川西が利吉の姿をみて呟く。確かに今敵3人と接触しそうなのは利吉一人だ。
しかし利吉のそばにはぴたりと側によって身を潜めている虎若がいた。そうして利吉の前に3人の兵士がやってくる。彼らは全員横にならび一斉に水鉄砲を噴射した。それを見た利吉はすぐさま転がり水を避ける。あまりにもすばやい動きに兵士は目をぱちくりさせた。
「あの男ただ者じゃないぞ」
「お子さま達の近所のお兄さんと聞いていたが」
「明らかに違うな」
さらにいうと彼らは火縄銃には慣れているかもしれないが水鉄砲はとうの昔に遊んだきりで定まりや射程などがまだ掴めていないのだった。
狼狽えている男の頭に鋭い水がものすごい速さで打ち当たった。それをみて他の兵士二人は驚く。
「うわ!やられちまった・・・ってどこからか撃ってんだ?」
利吉を見るがかれは水鉄砲を構えていない。どこから撃たれたのか、彼らはまったく理解できなかった。
「えい!」
男はとにかく利吉をねらって水鉄砲を噴射するがやはりそれはもう少しというところで届かない。
「甘い甘い。そんな距離じゃ届かないぞ」
その隙にもう一度、水圧のかかった強い水が兵士の頭にかかる。
「正確な狙いだ・・・ど、どこだ?」
音を消して静かに正確に兵士を狙う姿はまるで暗殺狙撃主のようだと兵士は怖れた。怖じ気ついて一歩後ろへ下がっていく兵士をみて、利吉はほくそえんだ。
「よそ見すると、危ないぞ」
利吉が強く水鉄砲の取っ手を押すと勢いよく水が噴射され男の体にかかる。兵士はあまりにも鮮やかに自分達をしとめたことに驚いている。
「利吉さん、どうでした?」
がさりと近くの木の茂みから影が姿を現す。その姿をみて彼らはさらに驚いた。
「子どもじゃないか!」
虎若の姿をみて兵士たちは呆気にとられる。利吉と虎若は作戦がうまくいったことに互いに手を叩き健闘を称えあった。
「あんなに正確に狙うなんて・・・ただ者じゃない」
兵士の言葉に虎若は笑顔を見せてちょきの手をつくる。
「僕、この日のために毎日水鉄砲の練習してたんだよね」
「とかいって、遊んでたんじゃないのか?」
「えへへ、わかります?」
実際は同じ学年の者と練習と称して水鉄砲で遊んでいただけだったが、その経験が生きてとても正確に迅速に兵士たちを狙うことができたのであった。その様子をみて兵士は他のものにも声かけをいそいだ。
「普通のこどもじゃ無さそうだ。はやく殿にお伝えせねば!」
そういって兵士たちは慌ててその場を撤退する。一度水を受けたものは水鉄砲や相手に攻撃などはできないがその後の行動は特にルールなどはなく、互いの都合がいいように動いても構わないのだった。走り去っていった兵士たちをみて、利吉は目を細める。
「さて、前衛はこれでいいが、問題は残りの兵士と馬進だな」
「残りの兵士を倒せば僕たちの勝利ですよね?」
虎若の言葉に利吉は微妙な表情をした。あの悪名高いB城の馬進がおとなしくこの戦ごっこの決まり事など守るのだろうか?きっとなにかとんでもないことをしかけてくるはずだと利吉は考えていた。
「我々も戻ろう。すみれちゃんたちが心配だ」
「・・・はい」
しばらくしてB城の陣地でははやくも3人の兵士が倒されたときいて馬進はうろたえた。たかが子供ばかりの軍だと思ってばかりおり、大の大人がなすすべなくやられたことに非常に憤怒していた。
「ガキにやられてどうする!馬鹿どもが!」
「しかし、相手は強敵です!残りの兵士を呼び戻し体制を整えるべきでは・・・」
「そんな戦のようなことはしない!ごっこ遊びに本気になるな」
兵士の助言を払い除け、馬進は立ち上がる。しかしたかがごっこ遊びとてこの遊びに勝てば相手の城が手にはいるのだ。馬進はにやりと笑みを浮かべ、小型の火縄銃である短筒を担いで馬にまたがった。
「俺は負けはせん。本当の戦というものをガキどもに教えてやろう」
「ば、馬進様・・・」
馬進の考えていることがわかった兵士は黙り込む。ここで意見すると自分が馬進に殺されてしまうと悟ったからである。彼はそのままO城で待ち構える軍と乙彦の元へと馬を走らせていった。
所変わって利吉達よりも奥の倉庫近くで走っているのは伏木蔵、そして少し離れた場所に平太とすみれが潜んでいた。伏木蔵は草むらの繁った場所へと潜り込み、追ってきた兵士を誘う。
「よしっ!いまだ!」
伏木蔵は縄が仕掛けてある箇所を飛び越え転がり込む。そこで待機していた伏木蔵とすみれは両端の縄を引っ張りあげた。緩んでいた縄が一直線に張ることで追いかけてきた兵士の足にかかり、兵士は大きく体制を崩し転がった。その隙をねらって伏木蔵は水鉄砲をかける。
「くそ!こんな罠があるとは・・・」
「まったく、恐ろしい子達だ」
すみれの隣にはもう一人の土で汚れた兵士。すみれたちはすでに二人の兵士を倒していたのだった。
「よし、これで来た兵士さんたちはみんなやっつけたね!」
「うん・・・」
平太とすみれも草むらから顔をだす。伏木蔵と平太が考えたのは忍者の罠を利用したゲリラ戦法だった。まずは平地をくないで穴を堀蛸壺をつくる。その上を木などで蓋をして浅く土をかける。そしてカモフラージュした所に仲間同士でわかる目印をつけて兵士を誘い出すというものだった。あと一つは先程のように草むらで縄を張り同じく引き寄せて転ばせる罠だ。
「音もなく静かに我々をおびき寄せるとは・・・まるで忍びだな」
「えへへ」
兵士のいった一言に伏木蔵と平太は誉められたと照れ笑いする。すみれは他にも兵士がいないか、前方で戦っていた虎若や利吉が心配になった。しかし、持ち場を離れても後々前方を掻い潜ったものが現れるかもしれない。
「利吉さんたち、大丈夫かな」
すみれが心配していると遠くから走ってくる人影が現れる。三人はとっさに水鉄砲をかまえたが、相手は兵士でもなく応援にきた善法寺の姿だった。
「君たち、相手側の軍は壊滅だ!」
必死で叫ぶ善法寺の言葉に三人は顔を見合わす。この戦ごっこの勝利条件は相手の大名を討ち取るか、敵軍を壊滅させるかのどちらかだったはずだ。
「じゃあ私たちの勝利!?」
喜ぼうとして善法寺が叫ぶ。
「それどころじゃない!君たちはすぐに逃げるんだ!」
善法寺の言葉に彼らは顔を見合わせる。逃げろとはどういうことだろう。戦は相手側の軍を壊滅させたこちらの方の勝利は決まったはずだ。そんな間があるなか、突然聞こえるはずのない銃声が響く。善法寺はしまったと思った。馬進がすみれと平太、伏木蔵を本物の火縄銃で狙っているのである。
「きゃあ!銃声!?」
「馬進だ!僕たちを無理矢理おどすつもりだね」
いや、殺すつもりかもしれない、そう言い直そうとして伏木蔵は黙った。三人は草むらの中で少しも動かずに身を潜めている。するともう一発側の木に弾丸がとんだ。伏木蔵と平太はそれでも動かなかったがすみれはそうはいかない。なにせ銃を向けられるなど初めてであり、とても恐怖していたのだ。
「やめて!撃たないでっ!」
「すみれちゃん!」
すみれは場進を止めようとそのまま立ち上がり馬進のほうへ草むらのなかを走る。それを見た平太は考えず彼女を追いかけた。伏木蔵も内心非常に焦ったがそれでもぐっとこらえて二人の身を案じた。
遠くで姿を現したすみれと平太をみて馬進は悪どい表情をみせた。
「大人を甘く見ると、命を落とすぞ?」
そういって馬進は平太とすみれに短筒を向ける。火蓋は切っていないが、馬進は冗談で銃口を向けたわけではない。
「引き金を引く前に、じぶんたちの敗けを認めれば命は奪わん」
「私たちが勝ったのよ?ルールはどうしたのよ!」
「本物の戦にはルールなどありはせんよ」
馬進の本気の様子を知り、すみれは命の危機を感じる。共に出てきた平太は怯えているように見えたが、それでも相手の視線からは目を離さない。相手の構える銃口を彼はにらんでいた。
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