紅葉の姫鏡1
「平太が昨日から行方不明なんだ」
孫次郎は忍術学園の長屋で平太と同室の同級生だ。彼もまた怪士丸や伏木蔵と同じく陰気な雰囲気を持っていた。
昨日の朝に町へ行ったきりついに今日まで帰ってこなかった平太。忍術学園の先生も彼の捜索にあたっており、孫次郎は普段通り過ごせと言われたが彼の友人としてやはり平静ではおれずこうして一人で平太と交流のあった川村堂へとやってきたのだった。
「え?平太くんが?昨日はうちに来てないけど・・・どうしたのかしら?」
「とても心配だね」
すみれと源四郎も手を止めて平太の事を思い出す。彼は昨日は来なかったが一昨日は来ていた。それを孫次郎に伝えると一昨日の平太はどんな様子だったかと聞いてきた。
「一緒に骨董を整理してたんだけど・・・特に変わったことは・・・あっ」
すみれは一昨日のことを振り返り思い当たることがあった。それは平太と曰く付きだらけの骨董が仕舞われた倉庫を整理していたとき、平太がひとつの品を見つけた。
それは小さな円形の鏡に取っ手がついており、鏡の裏は上質な木で彫られた紅葉があしらってある。それは城の姫が使うような美しく可愛らしい手鏡であった。それを平太はしまっていた箱の底から見つけたのだった──。
『すみれちゃん、これなあに?』
『あ、それはねぇ、私が来る前からある昔の手鏡なの。城のお姫様が使ってたらしいわよ』
平太は手にした手鏡に自分を映す。反射して映る自分の顔。普段自分の顔などは水面ぐらいしか見ないが、こうして改めて見ると奇妙なことに自分の顔が他人のように見えた。怖いものが苦手な平太はその奇妙な手鏡が不気味に思えてそっと鏡を裏返す。
『なっ、なんか怖いぃ』
『その手鏡、もちろん曰く付きなんだけど、映したものの魂を取り込むって言われたらしい手鏡なの』
すみれが唐突に語りはじめて平太は恐怖から目を閉じて身を縮める。しかしすみれは語るのをやめなかった。
『その手鏡はその城の姫様が毎日使ってたんだけどある日謎の病にかかって・・・自分がやつれていく顔を毎日その手鏡で見ていたそうよ・・・。そして亡くなる直前にもその手鏡をみて・・・死に行く自分の顔を見て亡くなったそうな・・・』
『やめてー!』
『亡くなった時に映したその手鏡の紅葉は、魂を取り込んだのか、真っ赤に紅葉していたらしいよ。そしてその魂を写し出して死んだはずの姫様が夜な夜な城を歩いて・・・』
『キャーー!』
平太は真っ青になってその手鏡を奥に戻してすみれにしがみつく。半泣きになりながらすみれの腕をつかみ小さく震えていた。
『でも、たぶん嘘の話よ!私何度もその鏡をみてるけど、そんな事になったことないの。脅かしてごめんね?』
『うぅ、ちびったかも・・・』
平太は手鏡の入った箱を見つめる。すみれが見ても何もなかったということは見てしまった自分も大丈夫だろう。平太はそう言い聞かせてその箱をしまった。
「─って事があったわ」
すみれが思い当たる過去を孫次郎に話した。その話は源四郎もよく知っていた。
「それは『紅葉の姫鏡』の事だね。城主の娘が使うだけあって高価な品だよ。その話についても私も本人から渡された訳でもないし人づてから聞いた話だからねぇ」
孫次郎はそれを聞いてふと不安になって顔をうつむかせる。
「平太がその紅葉の姫鏡に魂を取られちゃったとか?」
「もう、そんなわけないでしょ?ちょっと待ってて」
すみれは倉庫へ行きしばらくすると手鏡を持って出てきた。布でくるんだ包みをはずすと美しく紅葉した紅葉の彫り物が出てきた。
「これがその紅葉の姫鏡。普通でしょ?」
「うん。この紅葉、すごくきれいだね。まるで本当にそこにあるみたい」
孫次郎はまじまじとその手鏡を観察する。手鏡そのものにおかしなことはない。孫次郎は怖いものや不気味なものが苦手ではなくむしろ好きなほうだ。しかしその手鏡が原因で平太が行方不明になることは現実を考えると考えにくい。それはすみれと源四郎もおなじである。
「私も平太くんが心配だわ。ねぇ、師匠・・・」
すみれが意味ありげな目差しを向ける。その意味がすぐにわかった源四郎はうなずいた。
「君の大切な友達だろう?孫次郎くんと探しておいで。店は私が見ておくから。また何かあれば伝えてほしい」
「ありがとうございます!」
孫次郎と共に平太を探すことになったすみれ。孫次郎はここに当てがなければ、近くの町へいくつもりだった。忍術学園の事務員の小松田が平太から昨日受け取った外出届けの外出先に「近くの町」と書かれていたらしい。
「町はきっとこの先の町のことだと思うんだ。平太がいなくなるなら、町に行く間か、町のなかか、その帰り・・・何か手がかりがあればいいんだけど」
「わかった!一人で探すより二人の方がいいよね」
孫次郎は平太の身が心配なのか、もともと暗い顔がさらに暗くなる。目を伏せるようにうつむき黙る孫次郎をすみれは持ち前の明るさで励ました。
「孫次郎くん大丈夫!先生方もさがしてるなら絶対みつかるよ!頑張って平太くん見つけよう?」
「うん・・・そうだね。ありがとうすみれちゃん」
自分に気をつかってくれたすみれに孫次郎はうっすらと微笑む。すみれもすぐに外出の準備を整え、入り口の前で源四郎にいった。
「じゃ、師匠行って参ります」
「行ってらっしゃい。くれぐれも危険なことはしないようにね」
師匠の源四郎に見送られ、孫次郎とすみれは川村堂を出る。青空の下、二人は足並みを揃えて近くの町を目指した。
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