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「もっとちゃんと歩かんか」
「紅姫様、ご勘弁くださいよぉ」
ここは賑わう町の中。すみれたちがよろず屋の男につれられた時の町に帰ってきていてた。ただ違うのは、ここには紅姫と家老に命じられて紅姫の警護と介抱を任された通りすがりの足軽、珠吉と名乗る男が増えたことある。
紅姫は珠吉におぶられながらも町の雰囲気を楽しんでいた。目に映るものに無邪気にあれはなんだと聞いてくる。
紅姫は勘弁してくれと言う珠吉をにらんだ。
「何をいうか。本当は平太を護衛にしたかったのに」
「ぼっ僕!?」
突然の指名に驚く平太。それを苦笑いしながら孫次郎とすみれが見ている。城にいた頃から感づいてはいたが、紅姫は平太がお気に入りらしい。ただ、ガキ大将と手下、みたいな構図がしっくりくるなと孫次郎は口には出さないものの黙ってそう思っていた。
「ここをでて、ちょっと歩いた先に川村堂があるから、紅姫ちゃんもう少しだよ!」
すみれがぴょんぴょんとはねながら背負われている紅姫を笑顔で励ますと、紅姫は嬉しそうに頬を紅潮させて笑顔をつくった。
「うむ。骨董屋などはじめてである。私は楽しいぞ!」
「紅姫様、お身体に障らぬようおとなしくなさってください」
「家老と同じことをいうでない」
紅姫は同じ年頃の女の子に励まされるなどはじめてで、嬉しかった。みんなが千日城に来たのは多少強引であったようだが、こうして町を見ることができたのも、友達といられるのも紅姫にとって滅多とできない貴重なひとときであったのだ。
途中、町のところてん屋台で皆は小休憩をとることにした。小さな屋台に簡素な台があり、そこで珠吉以外横にならんで座り、ところてんを食べている。はじめて食べるところてんに紅姫は感動した。
「このところてんはつるつるして、味がないのにうまいな!」
「蜜がかかるだけでおいしいよね・・・」
孫次郎がところてんを蜜につけながら呟く。紅姫は隣に座った平太のものをみて首をかしげた。
「平太、お前のそれは蜜ではないのか?」
「僕は・・・合わせ酢が好きだから・・・」
「ふうん・・・」
紅姫は黙ってみている。その圧力に耐えかねて平太は恐る恐るじぶんのところてんを紅姫にさしだした。
「べ、紅姫さまも食べて・・・みますか?」
その言葉に紅姫は顔を明るくさせた。そして自分の持っているところてんを平太に差し出す。互いに交換する形になっていた。
「しぇあする、という言葉があるだろう?」
「それ、もっと未来に流行る言葉だと思うけど・・・」
合わせ酢のところてんを食べた紅姫は嬉しそうだ。普通の少女のように微笑む紅姫の姿をみて、平太も自然と笑顔になった。
「平太くんと紅姫ちゃんって仲よさそう!」
すみれが何気なくそう言うと、平太が少し焦ったようにすみれの名前を呼んだ。その様子に違和感を感じた珠吉がぼんやりと平太をみる。
「あ、ち、ちがうよ。ぼ、ぼく・・・いや、紅姫さまとは仲良くしたいけど・・・えっとぉ・・・」
そしてあうあうとどもってしまった平太をみて、珠吉と孫次郎ははあきれたように呟いた。
「頑張れよ。少年」
「平太、わっかりやすいなあ」
「うぅ・・・」
──そうして休憩も終えた皆は町をでて小道を歩く。すこし歩いていると丘の上に城跡の朽ちた城壁が見える。その丘の下にあるのが小さな骨董屋、川村堂である。そこにたどり着いたすみれは帰ってきた店に顔をだし師匠である源四郎を呼んだ。
「源四郎師匠、ただいま帰りました」
しばらくすると奥から源四郎がいつもの姿でやってくる。出ていったときよりも大人数になっており、源四郎はまた事件が大きくなったのだな、と察した。すみれが源四郎にかけより、事情を説明する。ひとしきり事情を聞いた源四郎は珠吉に背負いされている紅姫をみた。
「あなたが紅姫さまですか」
「うむ。ここに叔母上さまの使っていた姫鏡があるときいてきた」
「あの姫鏡はたしかにお城の方が使っていたとはきいていたけど、まさか奪われたものだったとはね・・・ちょっとまっててくれるかな」
そうして源四郎は再び奥へ行きしばらくしてすぐに小さな木製の手鏡を持ってやってきた。その手鏡はすみれがよく見ていた紅葉の姫鏡だった。背中から降ろされた紅姫はその姫鏡を手に取りまじまじとみる。
「うむ、紅葉の間にあるものととてもよく似ている」
「それ、みた人の魂を奪い取るって言われてるんでしょ・・・?なんでそういわれるようになったんだろう」
孫次郎の何気ない疑問に皆は黙り込む。考えていた源四郎がたぶん、と声を出す。
「いいかい。世の中に信じられない出来事っていうのは本当にある。奇跡、って人は言うけどね。でも同じように”不気味な奇跡”っていうのもある。これはそのひとつだろう」
紅姫の手にある紅葉の姫鏡を指差し、源四郎は続ける。
「その叔母である先代の紅姫様がこの手鏡だけを持って、お嫁に行こうとするぐらいだ。念がこもっていてもおかしくはない」
源四郎の言わんとしていることがほんのりわかってきた一同。平太が身震いしてすみれのそばによる。珠吉が腕を組んだ。
「つまり、源四郎さんはこの姫鏡は先代の紅姫様の念がこもり、奪った者を呪い殺した、かもしれないってことですか?」
「かもしれないって話だけどね」
紅姫が黙ってその姫鏡をみつめる。平太も感じたように、そこに映った自分の顔が、別人のように感じられる。鏡をじっとみつめる紅姫をみて、すみれは思ったことを言う。
「紅姫ちゃん、それは千日城にあるべき物だと思う」
「え・・・?」
周りの者達はすみれをみた。孫次郎もそうだね、とすみれのいったことに同調する。
「ぼくもそうおもうよ。だって、その姫鏡は紅姫様の形見だもん。きっとお城に帰りたがってると思うな〜」
源四郎は黙って頷く。棚から箱と風呂敷を取り出した。
「まあ、その奇跡を信じるかは紅姫さま次第ですね」
「・・・」
紅姫は考えた。源四郎の言う奇跡とはなにかを。自分は紅姫と言う名前を受け継ぎ、病弱な体に生まれた。しかし、今こうして彼らとであい、今は形見である叔母の姫鏡を持っている。それは、なにかの兆しではないだろうかと紅姫は思った。
「・・・うむ。よいであろう。この姫鏡は、千日城へ持って帰る」
「うん。きっと紅姫様も・・・そうしてほしいと思うよ」
平太がそういうと、紅姫も微笑む。珠吉が屈み、紅姫を背負う。紅葉の姫鏡を源四郎は箱にいれ、風呂敷につつんだ。それを珠吉が受け取り、店の入り口へと向かう。二人は千日城に帰るようだった。
孫次郎とすみれは元は平太を探しに千日城に来ていた。無事に平太に会えたことを忍術学園に報告をするために紅姫たちとは別れることになった。
「では、我々は千日城へ帰ります」
「はい。紅姫ちゃん、身体を大事にね」
すみれが心配そうに紅姫を見上げる。紅姫はちょっと迷ってぎこちなく手をふった。
「”またね”」
それは紅姫の憧れていた言葉だった。友に、再び会うことを願う言葉だ。その言葉をきいてすみれ、平太、孫次郎は手を振った。
「またね!紅姫ちゃん」
こうして、紅姫と別れた三人。その後平太と孫次郎は忍術学園にもどった。無事に帰った平太は皆に心配されて、その日は終わろうとしていた。しかしその夜に三人は奇妙な夢を見る。
真っ黒の墨のような葉が辺りにどこからともなく舞い降りてくる。どこだがわからない場所で立ち尽くし、呆然とその葉をみていると、一瞬まばゆい光が降りてきた。あまりの眩しさにたまらず瞳を閉じる。光が消えてゆっくりと瞼をあけるとそこには真っ黒だった葉が一変して美しくこうようしていた。その紅葉をみて、すみれはぽつりと呟いた。
「べにひめさま・・・」
その夢は、起きた後も鮮明に覚えていた。
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