平太のしおり1
ここは学園。授業が終わった生徒たちはそれぞれ思い思いに放課後を過ごしていた。そんななか、一年ろ組の教室には四人。
皆教室の隅で輪を囲んで向い合っていた。それは怪士丸、伏木蔵、孫次郎、平太という顔ぶれで彼らの視線は平太に集まっている。 彼らに見つめられながら平太はその場で居心地が悪そうにしていた。
「…で、平太どうするの?」
「うぅ」
みんなは平太が千日城から帰ってきた2日前、彼は孫次郎以外誰にも話さず長屋に籠もりきりだった。
その間二人の部屋は情けない悲鳴をあげる平太の声とそれはげます孫次郎の声がずっとしていた。そして今日、みんなはやっとおちついた平太を囲い「平太をはげます会」が開かれたのである。
「事情は孫次郎から聞いたよ。なんかいろいろあったみたいだけど…」
「おとといの平太、悲鳴をあげながら部屋に戻ってきてびっくりしたもんね」
みんなが当時の事を思い出していると平太は恥ずかしそうに俯いた。
あのあとの事を話そうとしたが気恥ずかしさからなかなか 語ることのできない平太を見て孫次郎がフォローする。
「あの後、僕たち話し合ったんだ。ここは前向きになろうって」
その孫次郎の言葉にみんなも同感だと頷く。ポジティブとスリル…と伏木蔵は薄ら笑いを浮かべる。
怪士丸はあぐらをかいたまま 平太に聞いた。平太はもじもじしながらためらいがちに答える。
「で、どう前向きにするの?」
「えっ…と…近々川村堂に行こうと思って…」
「告白をやりなおすんだ?」
怪士丸の言葉に平太はほんのり頬を染めて首を振った。
「”聞かなかったことにして”って言いに行くんだ」
「前向きじゃないじゃん!!」
平太と孫次郎以外のみんながずっこける。 だって、と平太が言い訳をする。
「僕みたいな弱いやつ、すみれちゃんが意識してくれるわけないじゃないか・・・」
へこみがちにいう平太に孫次郎が言い返す。
「そんなことないって言ってるのに・・・。結構すみれちゃんは平太を意識してると思うけどなあ」
「僕もそう思う〜」
孫次郎の言葉に一同共感する。それでも平太は勇気がでないようで黙ってうつむいていた。
その姿を黙ってみていた怪士丸がひとつ提案をする。
「すみれちゃんになにか贈り物をしたらどう?前に平太を探してくれたお礼として」
「お、おくりもの?」
「いいじゃない。平太そうしなよ」
みんながすすめる中、平太はやはり自信無げだ。なぜなら彼はまだ齢10歳であり女の子に贈り物をしたことなど一度もない。なにを送ったらいいのかもわからない。
「すみれちゃんになにをおくればいいんだろう?」
「女の子が欲しがるものと言えば、きれいな髪紐とか小物とか?」
「すみれちゃん、目が肥えてるしなあ」
みんなは考える。平太にきちんと気持ちが伝わるもの・・・あっと伏木蔵がなにかを思い付く。みんなの視線が伏木蔵へいく。
「お花!押し花とかどうかな。お花はきれいでかわいいでしょ?」
「いいかも。あ、じゃあしおりにすれば?普段で使えるし・・・」
どう?と平太に聞くと平太はしずかに頷いた。押し花のしおりなら美しく、気持ちも伝わるかもしれない。平太が頷いたのをみてまわりが立ち上がる。それを平太は見上げた。
「なにしてんの平太。そうときまれば押し花作りしようよ・・・」
「まずはお花を探さないとね!」
「なんのお花にする〜?」
孫次郎に言われて平太はすみれの顔を思い浮かべる。ふわりと浮かんだのは紫色の菫の花だった。
「菫・・・とかどうかな」
平太はぼんやりと呟く。ふわりと笑う明るい彼女の顔はかわいらしい。至るところで元気に咲く小さな菫の花は、彼女のイメージにぴったりだ。
「菫かぁ。確かにかわいいところはすみれちゃんにそっくりだよね」
「きれいな花だし、いいと思うなぁ」
伏木蔵と孫次郎がそう言う。怪士丸はなにかを思い出していた。そしてぽんと手を打つ。
「菫なら、学園の裏門の近くで群生してたよ」
「わぁ、学園に咲いてる菫を送るのは素敵だね」
一同は立ち上がり、押し花の菫を採取すべく裏門へと向かう。
怪士丸の言う通り、忍術学園の裏門の近くには一部紫や白の菫が咲き誇っていた。その美しい姿に一年ろ組も見とれていた。
「こんなところにたくさん咲いてたんだ」
「怪士丸、よく見てたね」
「ここの木陰が気持ちよくてよく来てたから・・・」
平太は菫の側に寄り、その花たちを見る。どれもきれいに開いており、平太は選び迷ったがそのなかでも色が鮮やかに見えた二輪を優しく事前に持ってきていた鋏で採取する。
「採れたよ」
平太が菫を見せると三人は笑顔になった。
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