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みんなに見送られ、すみれにしおりを渡すために学園を出た平太は林を抜け、いつもの落城後のみえる丘へとたどり着く。その麓にあるのが川村堂だ。平太は軽く駆け足になり川村堂へと向かう。その入り口の前まで着き、平太はいつものように声をだした。
「あ、あのぅ・・・僕・・・平太です・・・」
平太くん!とうさぎのように元気にはねてやってくるすみれの姿を思い浮かべた。しかし、平太が声をかけても待っていた声は返ってこなかった。代わりに、源四郎が入り口へとやってくる。源四郎は平太の姿をみて、笑顔で川村堂へと招いた。
「こんにちは源四郎さん。・・・すみれちゃんは?」
「あ、うん・・・ちょっと昨日喧嘩してしまってね。今朝起きたら置き手紙があって」
源四郎は手紙を出し平太に渡す。平太はその手紙を開いて目を通す。同じ年頃とはおもえぬほど、すみれの文字は美しかった。
「”忍術学園へいってきます。さがさないでください”・・・忍術学園へいったの?」
「どうやら入れ違いになったんだね」
平太はそっか、と少し落ち込んだ。まさかすみれが忍術学園に行ったとは考えなかった。しかし、何のようで彼女は学園へ言ったのだろう?その疑問に、源四郎は答えるように言った。
「きっと平太くんに会いに行ったんだろう」
「え?ぼっ、ぼくに?」
平太は胸を高鳴らせる。自分に会いにきてくれたのならうれしい。なぜなら自分もすみれに会いにきたのだから。だが平太の疑問は続く。なぜ自分に会いに来てくれるのだろうか。
「あのぅ・・・ぼくもすみれちゃんに、会いたくて・・・その・・・きたんですけどぉ」
恥ずかしくなって平太はうつむく。そうか、と源四郎の顔は明るくなった。
「すみれと平太くんは仲がいいからね。あの子は川村堂でも平太くんの話をするんだ。一緒に出掛けて楽しかったとか、色々ね。あの子は私に弟子入りしてから友達とは疎遠になってしまったから」
だから、平太くんが来るようになってからは楽しそうだったんだ、と源四郎は言った。平太は自分のいないところで話題に上がっていることが嬉しくもあり、すこし恥ずかしかった。源四郎は小さなため息をついて息をつまらせた。平太は源四郎の様子の変化に気づく。黙って源四郎を見ていると、ぽつりと彼は平太に言った。
「・・・平太くんはここが好き?」
「え?ここって、川村堂のことですか?」
源四郎はうなずく。その質問に平太ははじめてここに来たときの事を思い出す。はじめは学園長の使いできたのがきっかけだった。川村堂のどことない不思議な雰囲気に惹かれ、平太を始め、一年ろ組が集まってきた。今となっては川村堂は思い出のあるお気に入りの場所であった。
「はい。好き、です」
「そうか。君もそう思ってくれるんだ」
「君もって・・・すみれちゃんもそういったんですか?」
「うん。平太くん。実はね、近々この川村堂はたたもうと思っているんだ。そしてすみれを修行の旅に出そうと思っている」
源四郎の言葉に平太は驚く。とっさに平太は首を横に振る。
「だったら、川村堂はなくしちゃ、だめです」
「どうして?曰く付きの品ばかり扱う不気味な店なんて、ないほうがいいだろう?」
「だって、すみれちゃんの、居場所がなくなっちゃうから」
源四郎は平太の言葉にはっとする。平太ははじめはおどおど視線をさ迷わせていたが、川村堂がなくなると聞いてまっすぐに源四郎を見た。
「川村堂はすみれちゃんにとって、おうちなんだと思うんです。いつもここの事を考えていたから・・・。ここがなくなっちゃうと、僕も寂しいしすみれちゃんは帰る場所がなくなっちゃう」
「すみれの、帰る場所・・・そうか、あの子にとってここはただの店ではなかったんだな」
平太の言葉に答えを見つけたように源四郎は何度も頷いた。そして決心して平太に向き直る。その眼差しは真剣だった。
「平太くん。これは私のお願いなんだけど」
「はい・・・」
「私と、この川村堂を守っていかないか?」
「えっ・・・源四郎さんと僕とで川村堂を?」
平太は源四郎のいわんとしていることがわからず聞き返す。
「うん。私一人じゃ川村堂を続けるのは気持ち的に難しいんだ。でも平太くんの話を聞いて、すみれの帰ってこれる場所を作ってやらないといけないなって思ったんだ。もちろん平太くんは忍たまだからずっとここにいることは難しいけど、たまにこうやって来てくれるだけでもいいから、僕とここを守っていかないか?彼女のために」
修行にでたすみれがいつか帰ってこれる場所。平太はすみれとはなれるのは寂しいと思ったが、立派な鑑定士になるために頑張っていた彼女の事は応援している。源四郎の様子から会えない日々が長く続くことはわかっていたが、平太はその言葉に答えた。
「はい。そうします」
「ありがとう平太くん!これであの子に悲しい思いをさせずにすむよ。そうだ、君はすみれを待っていたんだね。ここで待っていてもいいが、いつ帰ってくるかわからないしな・・・」
「あの、ここと学園は近いし走ってもどれば会えるかも・・・僕、学園へ戻ります」
源四郎はわかった、とうなずく。平太は頭を下げ、川村堂を出てできるだけ早く学園へ戻ろうと店からでたとき、ふと人の気配を感じた。それは殺気、とでもいうのだろうか。怪しい気配に平太は足を止める。
畑のある川村堂の裏手に回り、気配を消してのぞきこむと、奇抜な格好をした背の高い男があやしい動きをして立っていた──。
場所は変わり忍術学園。一年ろ組の伏木蔵、怪士丸、孫次郎が平太を見送り自室へと帰ろうとしたとき、平太が去ったばかりの校門から少女の声が聞こえた。
「あの・・・川村堂のすみれです。小松田さん、いますか?」
「すみれちゃん!?」
三人は顔を見合わす。さきほど平太がすみれに会いに行ったというのに、入れ違いにすみれが学園に来てしまったのだ。孫次郎は事務員の小松田を呼びにいくと走っていく。残った二人は校門をあけてすみれを学園の敷地内に入れた。すみれの表情はこころなしかすこし落ち込んでいるように見えた。
「おーい、小松田さん呼んできたよ」
「あ、すみれちゃんだ。はい、いつもどおりサインください」
すみれは小松田の差し出してきた入門表にサインする。サインを確認した小松田はろ組に会いに来たのだと思い、そのままサインされた入門表を片手にそそくさと帰っていった。
孫次郎はすこし焦ったようにすみれに聞いた。
「あの、さっき平太が川村堂にいったんだけど、すれ違わなかった?」
「え?平太くんいないの?私、ちょっと一人になりたくて別の森の方から来たから、会わなかったのかも」
すみれは平太がいないと知るとますます落ち込んだようだった。怪士丸が心配そうにすみれの顔をみる。いつもなら元気一杯のすみれがおとなしいのをみんな心配しているようだった。
「どうしたのすみれちゃん。もしかして・・・悩みでもあるの?」
「・・・うん。ちょっと、ね」
「僕たちがきくよ!孫次郎の部屋へいこう」
みんなはそのまま平太のいない孫次郎の部屋へといく。そこには平太がつくった押し花につかった辞書と歌を送るために参考にした古今和歌集の本が机に置いてあった。
みんなはその部屋で腰掛け、すみれをみた。すみれはすこし考えて、昨日あった出来事を彼らに話した。
「あのね、私近いうちに旅に出るかもしれないの。日本中の作品をみて学ぶ修行の旅なんだけど・・・」
「へえ!すごいね。じゃあしばらくこの辺りには帰らないんだ?」
伏木蔵の言葉にすみれはうなずく。
「すこし寂しいけどしかたないね。それを言いにきたの?」
「ううん。それだけじゃなくて、私が旅をするから・・・川村堂をたたむって源四郎師匠が言ってるの」
それを聞いた三人はえぇ!と驚きの声をあげていた。そしてすぐにすみれと同じようにしゅん、とうなだれてしまう。
「川村堂は僕たちもお気にいりの場所だったから無くなっちゃうのはさびしいよぉ。それにすみれちゃんにも会えなくなっちゃうなんて」
伏木蔵が残念そうに言う。周りも同じ気持ちらしい。落ち込む空気の中、孫次郎がすみれに向き、まなざしを向けた。
「でも僕たちは、すみれちゃんの考えが一番だと思う。そのことを平太にも、ちゃんと伝えなきゃ」
「私、まだ迷ってるの。川村堂をあきらめて修行にいくか。師匠のもとに留まるか…気づいたらここにいて。どうすればいいのかわかんないよ」
「きっと平太なら答えてくれると思う」
すみれの迷いに孫次郎はそう答える。なぜ平太が答えてくれえるのか、疑問に思ったすみれはうつむいた顔をあげた。皆がこちらをみている。
「平太はね、すみれちゃんをずっとみてたからわかるんだよ。このなかで君の気持ちを一番知っているのは平太だから。こたえてくれると思う」
「平太くんが?」
孫次郎の言葉にすみれは黙る。すこし考えて、すみれはその場を立つ。彼女は三人に軽く頭をさげた。
「平太君は川村堂に行ったんだよね?走れば会えるかも。いってきます!」
「うん。わかった。気を付けてね。…というわけで、はい。出門表」
孫次郎がどこからともなく取り出した一枚の紙には言った通り「出門表」と書いてある。準備のよさに伏木蔵と怪士丸が彼を見る。
「えぇ、やけに準備がいいね」
怪士丸の言葉に孫次郎は笑う。そのまま近くにあった墨と筆を用意しながら彼は言った。
「多分、すぐ必要になると思ったから〜。小松田さんにも伝えてあるよ」
「とりあえずサインサインっと…」
すみれは孫次郎から筆を受け取りサインする。そのまま孫次郎に渡した。気を取り直してすみれは部屋の戸の前に立ち振り返った。
「じゃあ、私戻るから!またね」
「またね〜すみれちゃん」
三人に見送られすみれは小走りで学園の門の外へと出る。近道の林を越えてしばらく走るといつもの丘が見えてきた。平太がまだ川村堂にいることを祈りつつ、すみれは店の前まで走り寄る。
「ししょう?へーたくん…」
走って少し乱れた息。その場に立ち止まり一呼吸置く。そのまま店に入ろうとしてすみれは固まった。店の中からではなく、外からなにか会話が聞こえてくるのだ。商談なら中でするはずだし、平太と源四郎が畑の方にでもいるのかと思ったすみれはゆっくりと店の裏側に回る。
店に隠れながらひょっこりと顔を出すと、見たことのない背の高い男と平太がなにか話していた。
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