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次の日、カーンと、忍術学園の鐘の音が鳴る。一日の授業が終わりを告げた。平太はすぐに川村堂に行きたいと思ったが、今日は教室の掃除当番だった。当番をさぼるわけにはいかず、平太は布巾で教卓を一所懸命に拭いてた。すると同じく掃除当番だった伏木蔵が黒板消しを外で叩いてるとあれ?と呟いた。

「くのいちじゃない普通の女の子がいる・・・誰?」

その言葉に平太も何気なく外を見た。すると見たことのある顔がこちらを見上げていた。彼女は大きな声で平太を呼んだ。

「平太くーん!こっちから来ちゃった〜」

伏木蔵が首をかしげて横目で平太に聞いた。

「平太・・・って、平太のこと?」
「うん・・・この前の骨董屋さんの女の子・・・すみれちゃんっていうの・・・」

再び、彼女は声を上げて手を降りぴょこぴょこと跳ねた。

「聞こえてる〜?」

「平太・・・行ってあげなよ」
「え、でも掃除当番だし・・・」

伏木蔵は気をきかせてそう言う。しかし彼一人残して去るのも申し訳ない。

「もう掃除は終わりかけだから・・・あのすみれちゃんて女の子、待ちくたびれちゃうよ・・・」
「・・・うん・・・ありがとう・・・伏木蔵」

気にしないでと平太の布巾を受けとる。平太は駆け足で彼女のいる場所へと降りていった。

「あ、来た来た。突然ごめんね。目的のお寺、忍術学園の方からが近いって師匠に言われたから、こっちから来たんだ!びっくりした?」

にこりと雲ひとつない秋晴れの笑顔に、負けないぐらいのまぶしい笑顔に、うう、と思わず平太は謎のダメージを受ける。

「どうしたの?」
「・・・な、なんでもない・・・。正門の前で待ってて・・・僕も支度したらすぐいくから・・・」
「え〜、忍術学園の中見たかったなぁ。でも邪魔しちゃ悪いよね」

そういって大人しく来た道を戻っていくすみれ。平太はそれを見送って長屋へ戻り、外出の準備をした。源四郎に渡された写経本の風呂敷も忘れず用意し、正門へ急いだ。そこには言った通りに待っていたすみれが立っていた。

「待たせて・・・ごめんね・・・」
「大丈夫。黙ってきたの、私だから・・・じゃ、行こう」

そういってすみれは手をさしのべる。繋ごうとしてはっと平太は辺りを見た。

「い、いいよ・・・行こう」

本当は外が怖くて彼女の手に掴まりたいが、ここは学園の中。知り合いにでも見られたら、恥ずかしい。用具委員長の食満あたりに見られたら「女に道中を頼るなど情けない」とものすごく怒鳴りそうだ。しかし、それよりも最悪な者がその瞬間を見ていた。

「手、繋がなくていいの・・・?」

その声はとても聞きなれた声だった。ひっと声を上げて振り返ると気配を消して日陰にいた同じ学級の初島孫次郎だった。

「孫次郎!ち、ちがうから・・・別に・・・怖いからとかじゃなくて・・・」
「へぇ・・・怖いからその子と手を繋いで歩くんだね・・・」

その言葉に恥ずかしいやらなんやらでまともに孫次郎も見れず、顔を真っ赤にしてすみれの背中を押して正門を出る

「わぁ〜!!すみれちゃん行こう!!」
「なに、なに?」

慌てて外に出て門を閉じる。すみれはよくわからないようで先ほどから様子のおかしい平太を不思議そうに見ていた。

「大丈夫?」
「うん・・・」

その言葉を聞いて再びそっと手を差し出すすみれ。もう見てるものはいないだろうと平太も安心して彼女と手を繋いだ。外で歩くと言う彼にとって勇気のある行動も、彼女のおかげでなんとか前に進むことが出来る。

しばらく田んぼの道を歩くと、寺が見えてきた。門の標識を見ると、源四郎に教えてもらった通りの名前が書かれていた。
長い階段を渡り、とんとんと門を叩く。するとすぐに若い修行僧がやって来た。すみれはやって来た用件を伝え、「清常定の写経を持ってきた」というと顔色を変えて、中へ通るように言われた。

部屋に通されたすみれと平太。二人して行儀よく待っていると和尚がやって来た。厳かな顔つきの、体格のよい男性だった。

「子どものお客さまなんて嬉しいですね。なんのご用ですか」

こちらが何の用で来ているかは伝えているが、改めて、和尚がそう問う。平太は、持ってきた風呂敷包みを解いた。現した写経に、和尚が暗い表情を見せた。

「・・・清常定様の写経ですか・・・それは元々、ここにあったものです。これのためにこの寺へ?」
「はい。ここでおじいさんは亡くなられたんですね・・・」

平太はぽつりと言う。和尚が黙って頷いた。

「はい。それから、この寺では奇怪なことが続きました。夜な夜なお経が聞こえたり、勝手に鐘がなったり・・・僧の中には悪夢でうなされるものもいました。彼らはみなその写経を手にしていました」

そうして常定の写経は奇怪な現象を起こす呪いの本として、手放すことを決めた。初めは陰陽師に渡そうとしたが、偶然やってきた武士がたまたま写経を見ての字の美しさと迫力に見いられ、引き取った。しかし引き取られ先でも現象は収まらず、年ごとに酷くなっていった。

「こうして戻ってきたと言うことは、生前の時我々によっぽどの怨みでもあるのでしょうか・・・」
「そ、それは・・・違うと思います」

平太はおずおずと答える。彼は見た夢の出来事を伝える。あの悲しい感情は決して怨みではない。

「夢の中で・・・忘れるなと行っていました。瑠璃城で亡くなった同志の魂を・・・忘れないでほしいと言っておりました。常定のおじいさんは僕にそれを伝えにきたんです」

それを聞いた和尚が驚きの表情を見せた。なぜ幼い少年が瑠璃城や、そこで起こったことを知っているのか、少し考えて和尚は唸った。

「うん、常定様が君に、念を託したのだな・・・。あの方はいつも故人を偲んでおられた・・・そうかそういうことか・・・」

理解したように何度も頷く和尚。すみれがその後のことも伝える。

「私たちが瑠璃城へ行くと墓地がありまして、恐らく常定さんが作られたのだと思いますが・・・そこが大変に荒れておりましたので、手入れしました」
「和尚さん・・・常定さんの強いお気持ち、どうかお察しいただけますか・・・?」

和尚が黙って写経を開く。達筆で美しい文字。彼は数年前に見た。切羽詰まるおぞましさを感じた当時とは違い、柔らかく暖かみのある印象に変わっていた。

「・・・わかりました。これは我々がお預かりします。瑠璃城の墓地も、私たちが管理したいと思います。それが、我々に出来る彼らの手向けです」

「よかった・・・おじいさんも安心していると思います・・・」

しかし意外だと和尚が腕をくんだ。

「なぜ君のような小さな子に常定様は念を託したのかなぁ」
「それは・・・多分・・・僕が墓地とか好きだから・・・だと思います」

確かに普通の人なら落城した城は入りたがらないしましてやそんな中にある墓地なんて普通避ける。それが出来るのは日陰や墓地などの暗いところが好きな平太ぐらいだろう。常定もきっとそこを見込んだのだろうと、すみれは思った。

こうして、呪いの品と呼ばれた清常定の写経は収まるべき場所に収まったのだった。



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