「何この本!すごく怖い!」
すみれが怖がって源次郎の後ろに隠れる。

「大丈夫だよ。これは事実ではないでしょう」「え?」

すみれはその言葉に拍子抜けする。能勢も怪士丸もその本をまじまじとみた。蛇の皮で作られた表紙。血で書かれた古い本。百人斬りをしたその内容は全てうそだと源四郎は言った。

「過去に百人斬りなんてした剣豪はこのあたりでは聞いたことがありませんし、この赤の文字は全て獣の血で書かれたものでしょう。確かに不気味ですが、残念ながらこの本自体に値打ちや美しさがあるとは思えませんね…」

しかしわざわざ木箱や高価な風呂敷に入っていた本。それをじっとみていた怪士丸が数頁めくってはたと気づく。
赤黒い文字の中に明らかに色が違う文字が含まれているのだ。それをみつけた怪士丸は源四郎に聞く。

「この本…文字によって色が違いますし、あとはこの人が斬られる様子も…場所によって表現が違うみたいで…僕これはただの本じゃない気がします」
「そうだねえ…」
源四郎は学園長にこれを伝えてほしかったのではとちらりと考えた。この本に隠された謎を彼らに解かせるためなのではと察したのだ。
怪士丸は瞳を輝かせ源四郎を見た。この本に隠された謎に興味があるようだった。反対に自分の後ろに隠れて震えっぱなしのすみれをみる。
彼女にもいい体験になるかもしれない。源四郎は提案する。

「よし、うちの弟子のすみれを使いなさい。怪士丸君と二人でこの本の謎を解明するというのはどうだい?」「えぇ!私も!?」

それに驚いたのはすみれだった。怪士丸はすみれの傍に寄り本を持ち頭を下げる。

「お願いしますすみれさん!僕にこの本を調べさせてください!」

男の子にこうも頭を下げられてはすみれも断りづらい。彼はどうしてもこの不気味な本の謎を解明したいらしい。したところで死体が出てきたりとか、
もっと怖いものが出てくる予感しかしないがこの怪士丸の様子をみて、どうしても嫌とは言えないすみれは渋々頷いた。

「ありがとうございます、すみれさん…」「うう…師匠…」

これも経験だよという源四郎。これがいったい古美術と何が関係あるのかわからないが、とりあえず今後はこの時間忍術学園へと通い、
怪士丸とこの本の解読をすることになった。

場所は変わり教員室。このことを斜堂に伝えに行くため、すみれと怪士丸は本をもって彼のもとへと向かった。
斜堂は相変わらず鬼火が浮かぶような、近づくたびに悪寒を感じるほどの暗さを漂わせて部屋の隅で仕事をしていた。
ふと二人の気配に気づき、ゆっくりと振り向いた。

「どうしました…怪士丸くんに…すみれさん。学園に来てたんですね」
「はい。私、しばらく学園に通うようになったんですよ!」

それを聞いて斜堂はあぁ、と思い出した。

「学園長先生がおっしゃっていたのを聞きました。ソレのことですか…?」

そっと指さした先は怪士丸の持っていた木箱。その中身を斜堂はしっているようだった。
それは教員の中では有名なものらしく、学園ができる前からなぜかある禁断の木箱と呼ばれているものだったらしい。

「はい…斜堂先生。これをすみれさんと二人で研究しようと思いまして…ご相談に来ました」

そうして斜堂の前で箱を開け本を見せる。斜堂は手ぬぐいを取り出しそれを手に取りめくる。なるほど、と一言呟いた。

「これは確かに不思議な本ですね…。いいですよ。これも勉強です。みなさんで解いてみてください」

にたりと笑う斜堂。その笑みをこれまたにたりと返す怪士丸。すみれは心底不気味だと思ったがやはり黙っていた。
怪士丸はふと視線を感じて振り返ると教員室の戸の隙間からじっと見ている人影を見つけた。もしや、と怪士丸は声をかけた。

「誰かいるの?」

すすっと音もなく戸が引かれる。そこには平太が半分顔をのぞかせてみていた。

「ご、ごめん…すみれちゃんが学園に来てるっていうから挨拶に行こうとしたら二人が入っていくのを見たから…」

きゅっと縮こまって正座する平太。すみれは見知った顔に笑顔になる。
話を聞いていただろう平太に、怪士丸はぽんと彼の肩をたたいた。

「み〜た〜な〜」「ひぃ…ごめんってば!」

本気でびびっている平太をみてからかった怪士丸は嘘だよ、と笑顔になる。せっかく話を聞いていたのだからと怪士丸は平太にこの事件の謎を解いてもらう手助けはできないか聞いてみた。彼はちょっと考えている。なぜなら平太は怖いものが苦手、少し臆病な一面があるのでこんな不気味な本にかかわるのは嫌なのではないか、そう怪士丸は思っていたのだが…

「う、うん。ちょっと怖いけど…協力する…」
「え?いいの…?」

意外な返答に怪士丸は少し驚いた。すみれが立ち上がり平太に駆け寄った。

「三人いれば怖くない!だもんね」
「…うん…」

平太はすみれを見て少し照れたように笑う。いつもと違う彼の様子に怪士丸は首を傾げた。

「では、頑張ってくださいね…期待していますから…」

斜堂はそんな三人の様子を暖かく見守ることにした。
そんなこんなで「百人斬り日誌」の謎を解明するためすみれ、怪士丸、平太は立ち上がる。この日誌がいったい何を意味するのか。
この時はまったく見当がつかなかった。



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