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遠くでかすかに地が揺れるような音が聞こえる。遠雷のようだった。りんの顔が厳しくなる。

「雷が来るな・・・」
「こんななか山道を歩くのは危険だ。たしか少し降りたところに誰もいない小屋があるんだ。やむまでそこにいよう」
「・・・」

ふぶ鬼がその小屋へ向かうために歩き出す。りんも彼についていく。しばらく山道をくだり歩くと小さな小屋が見えた。長い間使われていないぼろぼろの小屋だが雨はしのげそうだ。ふぶ鬼はたてつけのわるい戸を引く。

「にわか雨だろうし、すぐやむよ」 
「うん」

りんは小屋の中を見回すと、暗い奥の方へと腰かけた。

「なんでそんな隅っこにいるんだ?」
「・・・いいだろここにいても」

ぷいとりんはそっぽ向く。小屋のすみに膝を抱えて縮こまっているりんにふぶ鬼は首をかしげた。

「別にいいけど―」

ふぶ鬼か言い終わるか終わらないかの寸前でまばゆい閃光とともに地を割るような大きな音が響く。あまりの大きさにふぶ鬼は思わず耳をふさいだ。ふっと耳から手を離すと、先程よりも強めに雨は降り始めた。

「びっくりした。近くに落ちたみたい。まぁこの小屋にいれば大丈夫だろ・・・って春鬼?」

春鬼はふぶ鬼に背を向け、姿勢を低くしてうずくまっていた。様子のにふぶ鬼はりんのそばへと寄る。

「おい、春鬼・・・?」
「っ!」

顔を覗くと顔色を真っ青にさせて必死に瞳をとじるりん表情。普通ではないと肩を揺する。

「どこかわるいのか?」
「・・・ふぶ鬼・・・俺・・・」

うめき声とともにかすかに聞こえる春鬼の声。するともう一度外が光った。その瞬間、りんはふぶ鬼の腕にしがみついた。驚いたのはふぶ鬼だ。

「お、お、おい?」
「ううっ、怖いんだ・・・雷が・・・」
「ええ?そうなの?」

こくこくと頷くりんにふぶ鬼は戸惑う。いまの春鬼はいつもの堂々たる冷静な春鬼ではない。まるで幼い子どものような様子だ。

「里で・・・平野で雨の日に訓練していたとき・・・俺から16尺ほど離れたところで、同じ仲間が・・・偶然雷に落ちて・・・死んだんだ」
「それはこわい」
「その時の音や光が、目から離れなくて・・・それ以来雷がこわいんだ」

しかしそんな説明はふぶ鬼の頭には入ってこなかった。なぜならふぶ鬼の腕を掴んだ先から、りんの髪しゃぼんの香りと体温が伝わってくるからだ。思った以上に柔らかい感触に、ふぶ鬼は変に焦ってしまう。

「わかったけど、落ち着けよ・・・そ、その腕が・・・」
「あ、ごめん・・・俺情けないよな」

落ち着きを幾分か取り戻したりんはそっと手を離す。音は段々と遠くなり、光る回数は減っていく。その度に身をちぢこめるりんをみて、どうやら本当に春鬼は雷が嫌いなのだと思った。

「大丈夫だよ。もう遠退いたみたい。雨も小雨だしいけるよ」

やっと春鬼の苦手なものを知ることができたふぶ鬼。知る前はこれで春鬼をからかってやろうとか、ドクたまに言いふらしてしまおうと考えていたが、りんのあの様子を見てなんだかそれをする気持ちが無くなってしまった。

「はぁ・・・一時は死を覚悟したよ」
「春鬼、歩ける?」
「うん・・・」

その弱々しい姿は少女のようにも見えて同じ人物かと疑うほどだ。しかし、りんは深呼吸して、一瞬瞑想し、瞳をあけるといつもの春鬼に戻っていた。

「・・・よし。心配させてすまないふぶ鬼。もう平気だから、山を降りよう」

そういって山菜を抱え、小屋を出ていくりん。ふぶ鬼は、この一時はドクたまには話さないでおこうと決めた。あの春鬼の一面は自分だけのものにしておこうと、ふぶ鬼は思った。その気持ちがいったいどんなものなのかもわからずに。

りんが開けたあとの戸。その向こうには曇り空から日の光が差し込んでいた。雨はあっという間に上がったみたいだった。



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