休息も仕事のうちである1


ドクタケ研修生は明日から数日、皆がお休みの日。ここ最近はずっと他の城の情報収集で働きっぱなしだった彼らにとって、待ちわびた休みだった。
りんが仕事を終え、深夜に部屋に戻ると先に仕事を終えていたしぶ鬼が荷造りしていた。その姿を見て、りんも明日が休みだと思い出した。

「お疲れ、春鬼」
「あぁ。ありがとうしぶ鬼。そうか、あしたは休みだったな。帰るのか?」

しぶ鬼はドクタケ城から近い山のなかで家族が暮らしているといっていた。彼の父親も同じくドクタケ忍者。きっと家族で休みを過ごすのだろう。

「うん!春鬼は里は遠いんだっけ?帰らないの?」
「・・・そもそも研修中は帰ってくるなと言われてるから。俺はここでゆっくりするよ」

そういって頭巾を外し、サングラスを外して衝立の奥へ行くりん。彼女の里の一族はとても厳しいと聞いていた。一人立ちをさせるためにあえてそう言っているのだ。
しぶ鬼は一人、ここに残るりんを想像する。少し考えて、彼は声をかけた。

「じゃあさ、僕んちに泊まりにこいよ」
「・・・しぶ鬼の家?」

衝立からひょっこりと顔を出すしぶ鬼。

「うん。ここでじっとしてるのもつまんないだろ?」

りんはふと過去を思い出す。確かしぶ鬼の父はドクタケ水軍の準備室室長、しかもドクタケ忍者で一番の忍術の手練れだと聞いている。ドクタケの戦力を図るには知りたい人物であった。

「俺なんかがお邪魔するなんて、いいのか?」
「むしろ来てくれよ!ぱ・・・父も喜ぶし。以前から春鬼に会いたがってたから!」

その言葉に春鬼は首をかしげた。しぶ鬼の父、達魔鬼とりんは面識がない。彼はいつもドクタケ水軍の創設と重要任務で忙しく、ドクタケ城ではなかなか会うことがなかった。そんな達魔鬼にとってどこからか来た研修生の自分など眼中にないだろうと思っていたのだ。

「な?どう?」
「・・・うん、じゃあそうする」

りんが頷くと笑顔になるしぶ鬼。
りんにとっては調査の一環だ。しかし野山で野宿することは何度もあったが、他人の家に宿泊するなどこれが初めてだった。

一方しぶ鬼は自慢の仲間を父親に紹介ができることが純粋に楽しみであった。以前、達魔鬼に会った際春鬼のことを少し話すと是非会いたいと聞いていた。城以外でりんと行動を共にすることもなかったのでいろんな話がしたいと思う。

「よし、明朝一緒に城を出よう。寝坊すんなよ」
「わかった。よろしくな」

そういってしぶ鬼は場所の明かりを消してそのまま床に入る。もしかして、この時間自分が帰ってくるまで待っていたのだろうか。
しぶ鬼は本当にリーダー気質だな、とりんは感心した。

 翌朝、城で朝食を済ませたりんとしぶ鬼は荷物を持ち、ドクタケ城を出る。途中にいぶ鬼、ふぶ鬼、山ぶ鬼にもあった。彼らもこの日は外出をするようだった。
 しぶ鬼の案内で山道を歩く。途中に田んぼ畑に出て、そこを通りすぎると一件の平屋が見えてきた。

戸から出てきたのは一人の女性。しぶ鬼を見てにこりと微笑んだ。

「あ、母さんだ。待ってたみたい」
「へぇ、あれがしぶ鬼の・・・」

しぶ鬼は母親似だったのかと気づく。遠目で見た達魔鬼の顔を思い浮かべ、サングラスで素顔がわからないとはいえ、確かに似てはいなかったなと思う。

「ちょっとまってて、話してくるから」

そういって駆け足で母のもとへ行くしぶ鬼。事情を話すとしぶ鬼のは母は頷いていた。しぶ鬼もりんの方へ振りかえる。

「おーい、部屋に上がれよ」

言葉に甘えりんはしぶ鬼の家にお邪魔する。ふつうの家だが、見たことのない骨董などが置いてある。めずらしいものだと見ていると、しぶ鬼がその視線に気づいた。
「珍しいだろ?父は南蛮留学をしてたから、これはその骨董なんだ」
「南蛮のものなのか」

骨董に目を奪われているとしぶ鬼の母からお茶をいただく。改めて、りんは頭を下げ挨拶した。

「ドクタケ研修生の春鬼です。しぶ鬼さんには毎日お世話になっています」

しぶ鬼の母は穏やかな笑みを浮かべる。こちらこそしぶ鬼が世話になっていると、ぺこりと頭を下げる。

「ただいま戻った」
「パパ!」

再び戸が開く。それはドクタケ城から帰ってきたしぶ鬼の父、達魔鬼だった。りんが間近で見るのは初めてだ。

「しぶ鬼、帰ってきたんだな。・・・その子が噂の研修生かな?」

達魔鬼はしぶ鬼に向かい合う形で座る。海でとってきたらしい大きな魚を妻に渡して茶を受け取った。

「お帰り。そうだよ!この人が僕が話したドクタケ研修生の春鬼!」
「そうか・・・」

達魔鬼はきらりとサングラスを光らせる。一瞬でりんを観察したようだった。

「研修ではしぶ鬼が世話になっている。春鬼くんを頼りにしてると言っていたから」
「いえ、私の方こそしぶ鬼さんに助けてもらっていますし・・・しぶ鬼さんはリーダーとして立派にドクタケ研修生をしています」

しぶ鬼のことを伝えると達魔鬼は笑みを浮かべる。ドクタケ城でみた仕事をしている緊張した雰囲気の表情とは全く違う穏やかな笑顔を浮かべていた。どうやらしぶ鬼を弱愛しているようだった。

りんにとって親子の関係は距離が遠く、一人の忍者としてしか扱われた事がないので、こんな風に親子が笑い合うことなど一度もなかった。

そんなことを思っているとしぶ鬼の母がやってきた。薪を切らしたので取ってこなければならないと言う。達魔鬼が立ち上がる。

「私が行こう。二人はゆっくりしていなさい」
「パパも疲れてるだろ?僕が行くよ」
「しかし、お前がいないと彼も困るだろう」

しぶ鬼と達魔鬼に見つめられるりん。彼女も立ち上がる。

「では私もいきます」
「・・・じゃあ三人で行くか」
「そうだね!じゃあ、かごとか持ってくる。来いよ、春鬼!」

りんの腕をつかんでしぶ鬼は納屋へと向かう。その背中をみて、達魔鬼は春鬼のことを考えた。

「何か目的があるようだな」

それは達魔鬼の長年の忍者としての勘だった。春鬼のまとう雰囲気は普通のものではない。まるで刃物の刃のような冷たい気を感じた。ただのドクタケ研修生ではないとすぐに見抜いたのだ。そんな人物と自分の命よりも大事な息子が一緒にいることに、達魔鬼は危機感を持つ。一度確かめる必要がある、そう思い、彼は静かに懐に短刀を忍ばせた。



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