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朝、川の流れる音でりんは目が覚めた。いつもと違う地面である。昨日の事を思い出してりんは体を起こした。
焚き火の火は消えている。しぶ鬼の姿も見当たらない。りんは立ち上がり岩穴から出てみる。早朝の曇り朝、山の上の方では辺りにうっすらと霧がかかっている。

「おはよう春鬼」

川で顔を洗っていたしぶ鬼。彼はりんの着物を着ていた。

「その恰好…」「あ、ごめん!朝はちょっと寒くってさ〜。乾いてたんで勝手に借りたぜ」

結果着物交換になってしまった。しぶ鬼はりんの顔をじっとみつめる。なにかおかしいだろうかとりんは自分の姿を見直す。

「元気になった?」
「あぁ…もう大丈夫。しぶ鬼のお父上も心配されてるだろうし、すぐに帰ろう」

りんとしぶ鬼は支度を整え川上へと歩く。長い間歩いて、りんは改めて自分の流された距離を知った。
よく自分は無事に流れ着いたなとひっそりと思う。川から離れ、坂道を登り切った時、しぶ鬼川を見下ろしながら言った。

「あのさ、本当は春鬼、薪を拾ってて川に落ちたんじゃないだろ?」

その言葉にりんはうつむく。自分は達魔鬼との攻防で、やむおえず川に飛び降りたのだ。しかしそれをしぶ鬼に伝えることはできない。

しかし彼は大方の予想はできていた。きっと自分の父とりんの間に何かあったのだと思ったのだ。りんは自分には言えないものを抱えている。だからといってどんな理由でこんなことになったのか、しぶ鬼は問いただすつもりもなかった。
だが一言、彼はりんに伝えたいことがある。

「パパの事は信頼していいと思う」
「え…?」
「春鬼の事情はしらないけど、パパには話してみてもいいと思う」

しぶ鬼は試験のことは知らない。自分の正体についてもしらないはずだが、彼はドクタケの達魔鬼にりんの事を明らかにしても大丈夫だと言い切った。

「…自分の父親の事を言うのもなんだけど、うちのパパはものわかりがいいから!」

ふと、悪い考えが浮かんだ。本当にしぶ鬼の言葉を信頼してもいいのだろうか?もしかしたら自分を罠にかけるための言葉かもしれない。しぶ鬼だって、自分がなにを隠しているのか知りたいはず。そんな疑心をもってりんは一度しぶ鬼を見た。りんの着物を着て歩くしぶ鬼の瞳はまっすぐで、穏やかだった。

「…考えてみる」

そんなしぶ鬼を見て、自分は疑うことをやめた。普段の自分なら絶対にありえないことだが、昨夜のしぶ鬼の言葉を思い出して、自分は彼を信じてみようと思ったのだった。

そうやってしばらく歩くとりんが落ちた林にたどり着いた。しぶ鬼の家も近いと思った時、見覚えのある立ち姿が林を出た田んぼ畑の入口で見えた。

「パパ!」「しぶ鬼!!心配したぞ」「ごめん、春鬼が見つかって野宿してたんだ」

達魔鬼がその姿を見て駆け寄りしぶ鬼の肩を抱いた。心底彼の心配をしていた達魔鬼はサングラス越しからでもわかるぐらいしぶ鬼を見て安心した様子だった。そしてしぶ鬼の隣にいるりんを見て、なにか言いたげであった。しぶ鬼はそのまま達魔鬼からはなれて田んぼ畑を駆けていく。振り返って彼は言った。

「じゃ、僕、母さんにはやく謝らなくちゃ!先に行ってる!」

そういって一方的に去ってしまったしぶ鬼。二人残されてしまったりんと達魔鬼は微妙に重たい空気だった。
達魔鬼はふう、とため息をついた。自分の息子が友人を一心不乱にりんを探しに行った時の事を思い出したのだ。

「…しぶ鬼は君の事を友だと思っている」「…はい」

しぶ鬼が去っていった方をずっと見つめ、達魔鬼はつぶやいた。昨日のように殺気は感じなかった。
りんはさきほどのしぶ鬼の言葉が浮かぶ。彼は達魔鬼を信じろと言った。りんはしぶ鬼の言葉通りに思い切って真実を達魔鬼に語った。

「あの、達魔鬼さん、私は…実はドクタケになりたくて研修生をしているのではないのです」
「…やはりなにか目的があるのだな」
「はい。私の里の試験のためです。3か月間、ドクタケに戦をさせないことが課題なのです。それは、ドクタケ忍術教室の教師魔界之小路先生の願いでもあるのです」
「魔界之小路先生の?」

りんの話を聞いて達魔鬼は考える。ドクタケに3か月間戦をさせないこと、魔界之小路の考えは達魔鬼でもよくわかるのだった。息子のしぶ鬼もいずれはドクタケ忍者になる。その将来を思っての事だろうと達魔鬼は理解した。

「…なるほど。わかった。私は君がドクたま達に何かするのかと思ったのだが、逆に君にひどいことをしてしまったようだな。よし、ならば私も君に協力しようではないか」

うっすらと笑みを浮かべる達魔鬼。りんは達魔鬼がドクタケ忍者として勢力の拡大の妨害となりかねない自分を生かさない場合もあると心構えをしていた。しかし達魔鬼はドクタケ忍者である自分よりも、父としてしぶ鬼のことを優先したのだった。

「いいのですか?」「いい。しぶ鬼は…君がいないと納得しないようだから。これからもよろしく頼むよ」

ぽんとりんの頭に達魔鬼の手が乗っかる。そのまま歩き進んでいく達魔鬼をりんは茫然と見つめていた。

「…あいつの言う通りだったな」

そうりんが呟いていると去っていったと思った達魔鬼が忘れていた!と戻ってくる。焦っている達魔鬼をみてりんは何事だと構える。昨日の時よりも殺気立った様子でりんの着物をつかんだ。

「な、な、なぜ私の息子の着物を君が来てるんだ!!?」
「えっ、いや…これには事情がありまして…」
「なぜ君の着物をしぶ鬼が着ているんだー!!」

息子の貞操を心配し乱心する達魔鬼を、りんはしばらくなだめるために必死に説得をするのだった。



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