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そうして賑やかな町へとやって来た山ぶ鬼とりん。市の掛け声、曲芸の見せ物のお囃子の音、様々な音や香りが漂い、人々が世話しなく行き交う。

「さすが大きな町なだけはあるな。山ぶ鬼、離れないようにしよう」

りんはそっと手をさしのべる。それをポカンとみつめる山ぶ鬼。察してないと思ったりんはそっと彼女の手をとった。

「行こうか」

りんは山ぶ鬼の歩幅に合わせて並んで歩く。その横顔に、山ぶ鬼は見とれてしまう。山ぶ鬼はまわりは男子が多く、男とはがさつで気遣いのない者と決め込んでいたが春鬼のように女性に思いやりを持ち優しくしてくれることにさらに春鬼への憧れを増していった。

「その評判の着物屋、どこなんだっけ?」
「えっと、地図によれば、そこの通りをまっすぐ言ったところよ・・・あっ」

目的の着物屋の横には小間物屋もあった。そこには艶やかな化粧道具や箱、巾着袋などがならんであり、ここも女性達に評判のようで人の行き来が多い店だった。

「素敵な紅だわ」
「入れ物も美しいね」
「つけてみようかしら」

それは手の平に収まるほどの白い陶器に鮮やかな色彩の施された器に入れられた真っ赤な梅のような色の紅だった。りんは見本のそそれをひとつとり、そっと筆をのせ手の甲に塗る。

「春鬼くん・・・?」
「じっとしてて。山ぶ鬼」

りんは小指に紅をつけると優しく山ぶ鬼の口元へとのせる。色づいた山ぶ鬼の口は彼女の明るい表情をさらに華やかにしてくれるようだった。

「ありがとう・・・えっと、どう?」
「山ぶ鬼にぴったりだと思う」
「じ、じゃあ買っちゃおうかな」

りんは近くにいた店員にその紅の新品を出すようお願いする。山ぶ鬼が銭をだそうとしてりんがとめた。今は自分達は恋人同士なのだから、ここはりんが男として出すべきなのだ。品を出してくれた店員にりんは銭を渡す。買ったその品を山ぶ鬼に渡した。

「・・・恋人「役」なんだから、そこまでしてくれなくてもいいのに」
「そんなこというなよ。こういうのは気持ちが大事なんだ。今は山ぶ鬼のカレシ。君は俺のカノジョさ」

そうして再び手をとるりん。山ぶ鬼はぼうっとりんから送られた紅をみつめる。りんに乗せられた細い指の感覚が、忘れられなかった。そして、彼女はあることを思った。

考えてるうちに目的の着物屋の前にたどり着く。二階建ての大きな店。紫の暖簾が靡き、入口付近には反物がならべられてあるだろうその台には商品がひとつもない。

そして戸にはでかでかと張り紙で「しばらくの間営業休止」と一言書かれてあり、二人は唖然とした。

「えぇー!やすみ!?」
「しかもしばらくって・・・店主が病にでもかかったのかな?」
「そんな〜八方斎さまに、つれてこいって言われてるのに・・・!」

がっくりとうなだれる山ぶ鬼。店主が出てこないのでは交渉のしようもないとりんも困ってしまう。そんな二人を、風呂敷をもった自分達と同じぐらいの少年が見ていた。彼は山ぶ鬼の姿を見てあっと声をあげた。

「ドクたまの山ぶ鬼じゃない?」
「え?」

山ぶ鬼が顔をあげるとそれは忍術学園で顔馴染みの生徒、二郭伊助であった。お互いなぜこんなところにいるのか疑問を持った。

「山ぶ鬼、なんで男子と着物屋にいるんだ?・・・あ、もしかしてその人恋人?」
「えぇ!ちが・・・」

とっさに伊助の言葉を否定しようとしてりんは止める。

「そうだよ。山ぶ鬼の恋人。俺はドクタケ研修生の春鬼。君は?」
「僕は忍術学園の二郭伊助だけど・・・春鬼くん、本当に山ぶ鬼の恋人なの?」
「どーゆーいみよ!」

なにか物言いたげな伊助に山ぶ鬼がつっかかり、伊助はばつが悪そうにする。彼は話をごまかそうと二人にここに来た理由を聞いた。

「いや・・・いいだろそんなこと。それより、ここの着物屋に買い物に来たの?」
「あぁ。でもしばらく休みって・・・なんかあったのかな?」

その言葉に伊助は今日もか、と暗い顔で呟いた。彼はここの着物屋の事情を知っているようだった。

「なにかあったの?病気?」
「いや・・・あっでもそうとも言えるのかも」

彼は背負っていた風呂敷を前に持ってきて結び目をほどく。そこには美しい模様で染められた反物が出てきた。

「僕の実家は染物屋なんだ。これはうちで染めたものだよ」
「へぇ、素晴らしいね」

自分の店の仕事を誉められた伊助は少し嬉しくなる。

「ありがとう。このうちで染めた反物をここの着物屋・・・辻村屋さんにこうやって納品してるんだ。けど、最近店に引きこもってしまって」
「もしかして、気の病?」

りんの言葉に伊助は頷く。
気の病とは風邪や熱などの身体の病ではなく思い悩んで次第に気力がなくなり、塞ぎ混んでしまうことだ。伊助はその理由を語り始める。

「ここの着物屋さんは反物から服を作り出す人気のファッションデザイナーさんがいるお店なんだ」
「突然の横文字ね!」
「許してくれよ他に言いようがなかったから。んでその人がスランプに陥っちゃって・・・何を作っても駄目だと自棄になってお店にこもっちゃってずっと休んでるの。僕は仕事で繋がりがあるからこうして帰った日は辻村屋さんにきてるんだ」

ひとしきり事情を話した伊助。りんはその言葉に気になったことがあった。自棄になって店にこもっているということはこの建物の中にその店主がいるということではないか?りんは伊助にそれを訪ねると

「うん。いるけど・・・」
「頼む。俺たちにも店主にあわせてもらえないかな」
「いいけど、着物は売ってくれないと思うよ?」
「いいんだ。話だけでもしたいから。俺達、ドクタケ城にその人をお呼びしたいと思ってるんだ」

それを聞いた伊助は二人の願いどおりこの辻村屋に共に入れてくれることになった。
戸を開きはしごを上り二階へと行く。そこには着物を身体にかけ床についたままじっと動かない辻村屋の店主。
三人はその店主の横へと座って並ぶ。



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