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「なに?私を呼んでどうしたの?」

小休憩を挟み、その間に戻ってきた山ぶ鬼。辻村は山ぶ鬼に衣装を渡す。そしてりんにも同じく衣装を渡してきた。二人は渡されたものをみてはてなを浮かべている。
辻村は忘れたのか、と言ってきた。

「二人とも、元々はわしの着物を買いにきはったんやないんかい。ほら、それが約束の品やで」
「なになに?」

しぶ鬼達も興味津々に見ている。とにかく、着てみてほしいと辻村に言われ、二人は着替えに奥の仕切りへと行く。しばらくして、お互いの驚くような声が聞こえた。

「これ白無垢じゃない!!」

彼らは現れた山ぶ鬼の姿にとても驚く。彼女のいうとおり、白無垢という婚礼衣装を着ているのだ。衣装だといっていたがまさか白無垢とは思わず山ぶ鬼はとても困惑していた。

「準備できました」

そんななか、すっといつも通り出てきたのは武士の正装であるからし色の直垂を見にまとったりん。やっぱりと皆はずっこける。

「って山ぶ鬼!?・・・その姿、これは辻村さん、一体どういうことですか」

さすがのりんも山ぶ鬼の白無垢姿に驚いている。辻村は親指を立てて爽やかに笑う。

「恋人が着る衣装つったらこれやろ!」

その言葉にいぶ鬼、次にしぶ鬼がすかさず反応する。

「山ぶ鬼と春鬼って恋仲だったの!?」
「春鬼、よりによって山ぶ鬼と結婚するの!?」

いぶ鬼はともかく、何故かしぶ鬼はとても混乱していた。しぶ鬼、ちがうでしょとぼそりとふぶ鬼がつっこむ。

一番驚いているのは当人の山ぶ鬼とりんだ。確かに辻村には自分達は恋人同士だと偽った。しかしあれは都合よく言った偽りであるという訂正は伝えていなかったのだ。そして辻村は注文通り、二人のために着物をこしらえたのだった。

「いいじゃん。それで出てみなよ」

いぶ鬼が面白半分にいうと伊助やふぶ鬼もからかうようにすすめてきた。しぶ鬼は微妙な面持ちで黙りこんでいる。

「せっかく辻村さんが作ってくれたし、お披露目しようか?山ぶ鬼」
「う、うん・・・なんかこんなことになっちゃってごめんね春鬼くん」


辻村の気持ちを無下にできないとこのまま舞台に出ることにした二人。いぶ鬼とふぶ鬼が変わりに司会をすると意気揚々と表へ出ていった。

「いきいきしてるな、あいつら」
「女装のこと根に持ってるわね」

くすりと笑い合うりんと山ぶ鬼。その後、そのまま婚礼衣装を披露して観客を驚かせた。この格好に木野小次郎竹高は本当に結婚したと思ってしまったらしく「ドクタケカップルのために、今すぐに祝宴をあげよ!」という指示をうっかりしてしまい本当に結婚式を進められそうになったのだった。

そんな事もあったが、ドクタケ・ファッションコレクション、略してドクコレは辻村のお陰で無事成功に終わった。おしゃれをしたいという女性達も着物が買えて、町で評判のファッションデザイナーに見立ててもらったという事に満足しているようだった。後日山ぶ鬼は八方斎にとても誉められたらしい。その話を山ぶ鬼から直接聞いて、りんも密かに喜んでいた。

「改めてきちんと春鬼くんにお礼がしたいから、茶屋で少し話せない?」

ある日、山ぶ鬼に茶屋に誘われ、りんはその待ち合わせを茶屋の側の橋の前で待っていた。彼女はいつも通りにやって来た。そしてそのまま二人は茶屋に入り、席に腰かける。菓子と茶がやってきて、りんは温かいお茶を飲み息をついた。

「この間はお疲れさま。うまくいってよかったな」
「うん。春鬼くんに相談してほんっとーに正解だったわ!」
「俺は大したことはしてないよ。一緒に恋人のふりをしたぐらいだろ?」

その言葉を聞いて、山ぶ鬼の表情は曇る。いつも明るい山ぶ鬼らしからぬ様子にりんは彼女を心配した。

「大丈夫?疲れた?」
「違うの。春鬼くんは優しいなって。でも、春鬼くん・・・私ずっと聞きたいことがあったの」

そういって取り出したのは、町へ行ったときりんが山ぶ鬼に送った紅。りんはこれがどうかしたのかと首をかしげる。

「春鬼くんって、普段紅をつけたりするの?」
「いや、俺はつけないけど」

変な質問だとりんは思う。今の自分は男である。役者、芸人でもないかぎり、男の自分は紅などつけることはない。そう思いかけて・・・はっとした。しまったとりんは冷や汗がぶわりと出てしまう

「・・・だったら変よ。なんで紅の扱いにあんなに慣れてるの?」

やはり、気づかれていたのだ。迂闊だったとりんは思う。あの時は、山ぶ鬼との買い物が純粋に楽しかったのだ。何せ友がいない彼女にとって女性同士との買い物はあの時が初めて。そして山ぶ鬼の朗らかな人柄につい緊張を解いてしまったのだろう。

「女に化けるときがあるから、紅の扱いぐらいは慣れてるさ」
「それも嘘でしょ?」

ぴしゃりと瞬時に山ぶ鬼に見破られてしまう。女の勘、というものだろうか?その言葉には迷いがなく、りんもこれ以上の嘘は不信をうむばかりで意味がないと悟った。

「・・・はぁ。山ぶ鬼はすごいね。まさかあれだけの仕草で見破ってしまうなんて」
「春鬼くん、どうして男の子のふりなんてしてるの?」

山ぶ鬼はりんが男性ではないことに、別段驚くことはなかった。騙されたと怒ることもなく、ただりんが心配だった。彼女には言い知れぬ空気がいつも漂っており多くを語らない。仲間として、性別を偽り暮らすりんの気心が知れぬと、ただ心配したのだった。

「その方が、都合がいいんだ。ごめん、これ以上は言えないよ」
「そう・・・」
「まわりには黙っててくれないか?お願いだ」

りんは頭を下げる。
きっと山ぶ鬼は怒っているだろう、自分を不信に思っているだろう。もし山ぶ鬼が周りに他言することがあれば試験はそこでお仕舞いだ。そんなことを考え、りんの心は冷えきっていく。

「言うわけないでしょ!」
「・・・え?」

りんと予想外にそう答える彼女はいつもの明るい笑顔に戻っていた。

「告げ口して、春鬼くんといられなくなったらやだもん!」
「だ・・・だからって、私は怪しいやつかもしれないよ!ドクタケ城にとって困るやつかもしれない・・・そんな奴を放っておけないでしょう?」
「絶対ない。だって自分からそんなこといっちゃうんだもん!それに第一にね・・・」

にっこりと素顔の山ぶ鬼は笑う。それは作り笑いでもなんでもない、心からの笑顔だった。

「どんなこと言ってもあたし、春鬼くんのことしんじてるから!」

その言葉は以前にしぶ鬼にも聞いた言葉だった。りんは山ぶ鬼へ返す答えがわからない。ただ、申し訳ない気持ちが心一杯になって、やり場のなさにりんはうつむき瞳を閉じた。

「ごめん、山ぶ鬼・・・ごめん」
「謝んないでよ。とにかく事情なんていいから、これからも仲良くしてほしいな。それを伝えたくて誘ったの。知らないふりするの、あたし下手だから!」

いつものように笑う山ぶ鬼。

「それに、私のだーい好きな春鬼くんに変な虫つかないよーに見てなくっちゃ。特にしぶ鬼!」
「・・・ありがとう。でもなんでしぶ鬼なの・・・」
「うふふ、それはね──」

女性の友達というのはこんな感じだろうかとりんは思う。表裏のない山ぶ鬼。里のくのいちは自分と変わらない冷たい者ばかりであっただけに、彼女の存在は陽の光でるとりんは思った。

また山ぶ鬼も、りんは憧れの存在であることは変わらず、寧ろ女性だと知ることで、何故かさらに恋のような気持ちが高まってしまったのだった。要はりんの精神そのものに惚れ込んでしまったのだ。

そんな二人はより仲を深めて、しばらく仲良く楽しくお茶を楽しむのだった。



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