殿様を護衛しろ1
「春鬼、春鬼はいるか?」
廊下をどしどしと歩く音。その音が近づいてりんのいる部屋で立ち止まる。勢いよく戸が開き、現れたのはドクタケ忍者隊首領稗田八方斎だ。
「はい、ここに」
八方斎の呼び掛けにりんはすぐに答え出てくる。直接自分を呼んでくるのはドクタケ城にきて2ヶ月、初めての事だった。
「春鬼、お前に護衛の任務を与える」
「はい。どなたの護衛でございますか」
「殿の護衛だ」
ここでいう殿、とは間違いなく木野小次郎竹高のことだろう。護衛なら自分よりも気の許せて位の高い八方斎が行うべきではないのか?彼の言葉にりんは首をかしげた。
「竹高様の?それを私がですか?なぜ私に?」
りんがそう聞き返すと八方斎も唸ってしまう。彼もその理由がわからないらしい。
「それが、何故かお前をご指名なのだ。とにかく、わしについてきなさい」
八方斎の後ろについていき、ドクタケ城の本丸の御殿に入る。りんはここにくるのは研修生として入ってきた初日以来だ。ドクタケに長い間いたドクたまとは違い、竹高とは滅多に会ったことがない。
りんは御殿に木野小次郎竹高が座っている。りんは膝まずいて頭を垂れる。「くるしゅうない、表をあげろ」と一言言われ、りんはゆっくりと顔をあげた。
「こたびは余からお主にお願いがあって呼んだ次第じゃ」
「はっ、なんなりとご命令をください」
「うむ。余は・・・余は」
真剣な顔でりんをみやる竹高。どうやら相当重いお願いのようだとりんは察し、息をのんだ・・・が。
「余は海が見たいのじゃ〜!」
「・・・はい?」
「青い海に青い空、そして船が行き交う広大な海が見たい!海までいく道中、春鬼、わしの護衛をせい!」
「海・・・ですか」
後ろにいた八方斎も困り顔だ。りんもなぜ八方斎ではなく自分に護衛を頼むのだろう。
「構いませんが・・・なぜ私に?」
「八方斎は当てにならんからのぉ。それに顔も知られているのでお忍で行くのはちと窮屈である」
「とのぉ〜ひどいですぅ」
八方斎は護衛に自分を指名してくれなかったことにごねてるようだった。そんなやり取りを流してみつつ、りんは頷く。
「わたくしでよければ、最後まで必ず護衛いたします」
「うむ、よい心がけじゃ。さっそく参ろうではないか」
「ここで海や船がみられるというと、堺でしょうか?」
「そうであるな」
竹高が立ち上がると小姓がやってきて衣服を用意する。上品な着物と袴を持ってきていた。自分にも旅衣の服を用意される。一本の太刀も一緒だ。周りからみれば身分のある家柄の男と護衛の若侍、と言ったところだろう。
「それを着て準備ができたら門の前にくるのじゃ」
そういって服と太刀を持ったりんと八方斎は御殿をでる。八方斎は悪どいか顔をさらに凶悪にさせて睨む。
「春鬼、これは殿を連れた重大任務だ!必ず無事に殿と戻ってくるように」
「はい」
そういって立ち去る八方斎。適当な場所で着替えてドクたまのいる部屋へと戻るとしぶ鬼が研修から帰ってきていた。
「なに、そのかっこ」
「あぁ、お忍びで竹高様を海まで護衛することになった」
その言葉にしぶ鬼はげっという。
「竹高様、わがままでいらっしゃるからなぁ。思い立ったらすぐ城を出ちゃうし・・・」
「今回は俺も一緒だから」
「まっ、春鬼なら楽勝だって!いってらっしゃーい」
そんなしぶ鬼の見送りを受けながら、りんは荷物をまとめ、腰に刀をさげて部屋をでた。門の前にいくと先程の服を着た竹高が待っていた。
「遅いぞ!春鬼!」
「申し訳ありません」
「余は楽しみじゃ。はやく行こうではないか。外では余の事は小竹と呼べ。よいな?」
「はっ、必ず私の側にはなれぬようになさってください」
そうして二人はドクタケ城を出ていくのであった。
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