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しばらく歩いていくと鬱蒼とした山道だった遠くの景色が、一変して開けた道にでて、海が見えた。堺も近いと思ったが、ずっと歩いていたために、二人は若干疲労していた。

すると道中、小さなうどん屋が見えた。店構えはボロボロで、屋根もはがれかけており、暖簾も薄汚れたうどん屋だった。それを見た竹高はそのうどん屋を指差し叫んだ。

「あそこのうどんを食おう!」
「ええ?小竹様本気ですか・・・」

つい言葉が漏れてしまう。入るのをためらうぐらいのボロさである。しかし竹高はただをこねて行くと言って聞かない。

「余は疲れた!春鬼、うどんが食べたい〜」
「わ、わかりました。小竹様入りましょう・・・」

暖簾を潜ると簡素な席が目にはいる。しかも2席しかない。不気味なことにその店内は出汁の香りもしなければうどんを切る音もしなかった。

「いらっしゃい!ようこそ滝夜叉うどんへ!!」

店内にはいるやいなや奥からやって来たのは奇抜な色合いのド派手な衣装を着込み、きらびやかな扇子を持った男。

「な、なんですか貴方は」
「私はこのうどん屋敷のオーナー、平滝夜叉丸である!!」

りんは改めてその男の姿を見る。とてもうどんを作るような出で立ちではない。店員のひとりだろうか。

「店員さんですか?うどんをお願いします」

「ふふふ・・・私のうどんは天下一!黄金のような出汁に珠のようなうどん・・・食べるのがもったいないぐらいの一品です。それは、まさにこの私のように美しく──」

どうやらこの男がうどんを作るらしい。こちらは席についており、はやくうどんが食べたいのだがこの男、店主のくせに品書きもださす茶も出さない。さらに聞きたくもない変な自慢話を延々と話す。いらだっていたりんは止めるタイミングを待つが一向に男が黙る気配はなかった。

「というわけで、この滝夜叉うどんは未来永劫語り継がれる伝説の店として・・・・・んん!?」

ぱたりと男は黙る。やっと終わったかとため息をついて男を見ると彼は血相を変えていた。その視線は竹高に向いている。

「お前は木野小次郎竹高!?なぜドクタケの城主がここに?」

りんはひやりとする。大名の顔は一般人はあまり見たことがない。その竹高の顔を一目みてドクタケ城城主と言い当てるいうことは、この男はただ者ではないとりんは察した。

「ということはお前もドクタケ城の人間か?・・・まさか」

りんははたと気づく。男のインパクトに気をとられていたが、この男の気配は武士でもましてや一般人のようなものでもない。うどん屋に化けた、自分と同じような忍びかもしれない。

緊迫した空気のなか、口を開いたのは滝夜叉丸という男の方だった。

「まさかドクタケ城の噂を聞き付けて私の店に来たのだな!?城の噂になってしまうほど私のうどんは素晴らしい・・・嗚呼人気者は忙しいなぁ!」
「いや初めて聞いたんですが」
「わかるぞ。人気店を慣れた風に入りたい、玄人っぽく振る舞いをしたいんだろう?」
「少しはこちらの話を聞いてくださいよ・・・」

そんなやりとりをしていると竹高もはやくうどんを食べたいと机をバンバンと叩いてきた。

「とにかく、お水とここのおすすめのうどんを2つお願いします」
「滝夜叉スペシャルうどんだな!まっていたまえ!」

そういって滝夜叉丸は長い髪をなびかせ舞台から退くように無駄に大袈裟な素振りで奥へと戻っていく。やっとうどんが食べられる。あの滝夜叉丸という男は、本性は忍者のようだが頭が悪いのか性格が変なのかこちらがドクタケ城の者であっても大して気にしていない・・・というか自分のことしか考えていないようだった。

しばらくするとうどんがやってくる。いや、それはうどんなのだろうか?何故かうどんが火花を散らしてやってきた。なんとそのうどんには花火が添えられてあるのだった。そして謎の赤色薔薇がまるごと添えられてありうどんがみえない。もはや食べ物と思えないそれをみてりんは眉間にシワを寄せた。

「おお、すごいのぉ」

向かいに座っている竹高は物珍しそうに見ていた。彼は花火が終わって薔薇の花をかき分けうどんを口にする。その表情は驚くほど無表情だった。

「まずい」

その言葉に驚いたのは店員の滝夜叉丸だ。

「なんと!?私の作った滝夜叉スペシャルうどんがまずいだと!?」
「うむ!まずい!」
「貴方が作ったんですかこれ・・・本当にうどん作ったことがあるんです?」

その言葉にギクリとする滝夜叉丸。どうやら、まともにうどんを作ることもしていないらしい。
図星ついでに彼は悲しげに机に寄り、勝手に自分の事情をかたりはじめた。

「君も察しているだろうが、私の正体は忍者だ。忍術学園を優秀な成績で卒業し、一流忍者として城へ就職したのだ・・・私の人生は華やかな道を辿るはずだった・・・しかし!」

よよよっと滝夜叉丸は悲しい表情でりんにしなだれかかってきた。それを冷たくりんは押し返す。

「そこで命じられたのはこの寂れた小屋でうどん屋を生業とし、敵地で普通に暮らし情報や任務を行う陰士になれとの命令だったのだ」
「桂男の術ですか。すごい仕事ではないですか」

陰士は素性を隠し、敵にも味方もわからないぐらい一般人に成りすます、まさに忍者としてこれ以上の忍びはないぐらいの仕事だ。りんはこの滝夜叉丸はその城にとても期待されているのだと思っていたが・・・彼はそう受け取っていないらしい。

「何をいう。こんな、地味な仕事などやる気になるか!私はもっと華麗に、強さを見せつけるような、周りが私に注目するような忍者になりたいのだ!!」
「忍者向いておらんの」

竹高の言葉に滝夜叉丸はうなだれる。どうやら彼は今の職場環境にやる気を見いだせないらしい。
りんはもう一度出されたうどんを見やる。落ち込みっぱなしの滝夜叉丸をみて、よしっと、うでまくりした。

「うどん、一緒に作りましょう。滝夜叉丸さん、ここを変えるのは貴方のやる気次第です!」
「私の、やる気?そんなことでうどん屋が美しい仕事になるわけないだろう?」
「なります!私が協力しますから!」

りんの言葉に竹高も笑う。滝夜叉丸はりんの顔を見てキョトンとしていた。

「面白くなりそうであるな」



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