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場所は変わり滝夜叉丸のうどん屋。滝夜叉丸の住まいの部屋で三人は横に並び、すっかりおとなしい雅門と向かい合う。
りんはずっと聞きたかったことを雅門と竹高に聞いた。

「なぜ竹高様とこちらの…雅門どのが顔見知りなのですか?」

竹高はだまって彼を見つめている。雅門は顔を俯かせたままぽつりぽつりと語りだした。

「それは、私は以前ドクタケのものであったからだ…。私はこちらの竹高様の側近であり、武人だったのだ」
「えぇ!ドクタケ城主の側近だと?」

意外な事実に驚く滝夜叉丸。りんも同じく驚いていた。
それでも竹高は黙って彼を見ていた。

「…私はドクタケ城で戦い続けて行くうちに、自分の事を忘れてしまった。確かにあのときは竹高様に忠誠を誓った・・・しかし自分を見失っては武人も廃れてしまうと見限り、私はドクタケ城から逃げ出したんだ」
「そうですか・・・」

非道なドクタケの者にドクタケ城をやめたいなどと言おうものなら切腹を命じられるか、誰かにやられてしまうと思い、雅門は黙ってドクタケ城を逃げたしたのだとりんには想像ができた。

先程からずっと黙っている竹高がふと口を開いた。

「なぜお前が伝説のうどん職人などと言われておる?」

その言葉に反応したのは滝夜叉丸だ。

「そうです。堺で伝説のうどん職人はあなただと聞きました」

雅門はそれを聞いてため息をついた。彼は皆から目をそらしてぎこちなく説明する。

「それは・・・、私はドクタケ城では武人であったが、元は京の「藤井うどん」といううどん屋の跡取りだったのだ・・・」

三人はそのうどん屋の名前を知っていた。なぜなら京の藤井うどんといえばこの辺りで非常に名の知れた老舗の名店だ。大名もお忍びでやってくるというほど人気店である。

「私は若い頃までそこでずっとうどんを作り続けていたのだがな・・・うどんという商売が嫌になってしまった。私は戦うことも好きだったので・・・まぁ正直に言えばうどん屋をやるより、武芸で人気者になりたかったのだな」

「どこかで聞いた話ですね」

竹高とりんはちらりと滝夜叉丸をみやる。

「しかし、戦うこともイヤになり、放浪の身になった私は金がなくなればうどん屋の屋台を出して路銀を稼ぐようになって、たまたま堺に来たところを貴方達三人が来たというわけだ」

雅門の話を一通り聞いて、りんはおや、と考える。
自分がここに来たきっかけは元々堺に行きたいとごねる竹高に命じられて来たのだ。その先でドクタケ城を逃げ出した雅門と竹高が出会う。偶然にしては出来すぎではないだろうか。

「竹高様、もしかして堺に伝説のうどん職人がいたのをご存じだったのでは?」

りんがそう訪ねると竹高は静かに笑う。

「さすがだの春鬼。そうである。雅門の事はすでに調べておったのだ。堺にいるという情報を聞いて春鬼をつれて出ていったというわけだ」
「なぜ、雅門どのを見つけるのに私を指名したのです?」

りんの問いに竹高は懐から扇子をとりだしゆっくりとあおぎながらいう。

「他の者だと、余は殿として裏切り者の雅門を殺さねばならん。しかし春鬼は余の事はあまり知らぬであろう?」
「それって・・・」

竹高が言わんとしていたことを考える。隣にいた滝夜叉丸がそうか、と呟いた。

「竹高様は雅門どのを捕らえ殺める気はなかったと言うことですね?」
「うむ。余は雅門に責任をとれなどは言わぬ。ただ・・・側近のことが知りたかったのだ」

ぱちり、と竹高は片手で扇子を閉じた。

「なぜドクタケ城を抜け出したのか」

竹高はそう呟きおもむろに天井を仰ぐ。その表情はどこか寂しそうだった。

「大名であるわしは、周りの者に様々なことを言われ、聞く。だが大名であるがゆえに、わしは周りがよう見えん。家来にお主の事を話すと、必ず雅門の事を殺せと言うであろう?そしてわしは国のために雅門を殺さねばならん・・・それが嫌での。こんな形をとってみたのだ」

りんは竹高がそんなことを考えているなどとは初めて知ったので驚いている。竹高は側近であった雅門の本意を知るために、春鬼をつれて堺までやって来たのだ。



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