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「竹高様・・・貴方はお変わりになりましたね。こういっては大変失礼ですが、昔の貴方は人を支配し、力に強欲であったはずです」
「昔とは変わっておらぬ。余は天下がほしいだけである」
そんな話をしていた二人を黙ってみていた滝夜叉丸がもう限界だとしびれを切らして立ち上がる。
「そろそろ本題には行っていいか?私達はこのうどん屋敷をさらにパワーアップさせるために、評判のうどん屋をやってたんだろう?」
「あぁ、忘れていたな」
りんは竹高と雅門の話が気になって、本来の目的をすっかり忘れていた。元々雅門と出会ったのも滝夜叉丸のうどん屋をなんとかするためなのがきっかけだ。それを聞いて雅門が驚いた顔をする。
「なんだ、お前達うどんを習いたいのか?」
「はい!こちらの滝夜叉丸さんのうどんが本っ当に最低なので、腕のよいうどん屋さんに習いに行く途中だったんです」
「おい、君!最低とはなんだ最低とは!」
滝夜叉丸はりんの言葉に心外だとばかりに突っかかる。しかしりんはそんな彼を無視して改めて雅門に丁寧に頭を下げた。それをみて滝夜叉丸もあとに続き頭を下げて言う。
「雅門どの、お願いします。この平滝夜叉丸にあなたのうどん作りを教えてください」
雅門は悩んだ。なぜなら自分は元々うどんをつくることが嫌だったからだ。うどん作りも金がなければ気ままに屋台を出して稼いでいるだけである。堺の者にも同じように頼まれたがそれだって金がもらえるから行ったことだ。そんな風に悩んで黙っている雅門に、竹高が言った。
「この者達の手助けをするなら、お前が逃げたことは水に流してもいい」
「・・・ほんとうですか?・・・わかりました。やります」
竹高の言葉で雅門は滝夜叉丸にうどん作りを教えることを了承した。ドクタケ城の視線を気にせず旅ができれば命の心配もすることはない。そんな気持ちで彼はうなずいたのだった。
そうときまればと彼はうでまくりをして立ち上がる。滝夜叉丸が厨房に案内して、道具と材料を一式揃えた。しかし鍋はこげたまま、包丁も研いでおらず使い古しており、その道具の雑な扱いに雅門は目くじらをたてる。
「なんだこれは。まずは道具をきれいにすることからだな・・・」
「私も手伝います」
竹高が見守るなか、彼らは雅門の指示どおりにうごき、うどん屋を始めることになった。雅門が店内をしきり、りんと滝夜叉丸が店員をしながらうどん作りを教わる形だ。竹高は部屋でその様子をだまって眺めている。
りんが倉庫から小麦粉の袋を二つ抱えていたときだった。水を組に井戸にやって来た滝夜叉丸とすれちがう。そのまま通り過ぎたとおもったら、水桶をおいて滝夜叉丸がそばに戻ってきた。
「君、まちたまえ。女性がその荷物は大変だろう?この心優しく紳士な私が運んでやろう」
「その言い方、なんとかりませんか・・・って、今女性と言いました!?」
あっさりと正体を見破られてしまったりんは驚いて滝夜叉丸をみる。そぶりも口調も男であるように心がけていたつもりだったのだが。滝夜叉丸は特に思うこともないようで平気な様子で答える。
「お前に寄りかかった時にわかったのだ。どんな事情か知らんが、まぁ大変だな。ほら、それをかしなさい」
そういって小麦粉の袋をとられて厨房へいってしまった滝夜叉丸。彼の背中をみてりんは呆然とする。
「自分のことしか考えない人だと思っていたけど、結構強者なのかも・・・」
そんな失礼なことを思われていることも知らず、滝夜叉丸は雅門のうどん作りの手伝いを続けている。
しばらくすると彼らはうどんだしを作り始めたようで店内にあたたかな湯気とだしの香りがながれてきた。それはそとにも漏れてきたようで、ふと店内に人がやってきたのだ。
「ここうどん屋?ちょうどよかった。うどんを食べさせてくれ」
りんはまさか客が入ってくるとは思わなかった。慌てて厨房にいる雅門に聞くと彼は笑顔でうなずいた。
「客がきたのか。かまわない。ふるまっていこう」
「はい」
そしてその客足が一人、また一人と増えていく。できたうどんをりんが運んで料金をもらう。
運んでいたうどんは一見普通のうどん。黄金色のだしにつやつやしたうどんが浮かび、細かく切ったネギがそえられてあるだけのシンプルなうどんだった。
しかし食べ終えたお客は大変満足そうな顔をして店を出ていく。すると不思議なことにもう一人、入れ替わりで客が入ってくるのだ。さらにそれは続き、列までできている。
「すごいです。雅門さん!」
「ははは、みんな腹が減っておるのだろう」
「さすが伝説のうどん屋は伊達じゃありませんね。私も勉強になります」
厨房でそんなやりとりをする。うどんを作り続けるその時の雅門の表情は生き生きしているようにみえた。
そんな彼の様子をみていたのはそばで手伝っていた滝夜叉丸だった。滝夜叉丸は雅門のおかげで自分の店が繁盛していく様子をみて、人知れず決心した。
ようやく列も途絶え、最後の客が出ていったときだった。厨房ではもう材料がないと雅門と滝夜叉丸がりんのもとへやってきた。滝夜叉丸は人がこないうどん屋を続けていたので材料も少なく、夕方前のこの時間には材料が切れてしまっていた。
「もう今日は店じまいだ」
そういって雅門はのれんをたたみ、部屋に戻る。滝夜叉丸が用意した茶を彼は手にして一息ついた。
りんも手伝いでかけていた前掛けをはずして部屋に戻る。
「お疲れさまでした。雅門さんは本当に伝説のうどん職人だったのですね。あなたがうどんを作り始めると、どんどん人がはいっていきましたよ!」
りんの言葉に滝夜叉丸も便乗する。
「私も驚きました。近くであなたの様子を見ていましたが、あなたのうどん作りの手さばきはもはや芸術です。特に変わった材料も使わず、あんなに美味しいうどんを作れるとは。私はおろかだった・・・」
あの自分大好き滝夜叉丸も雅門の技術に素直に感動していた。しかしそんな雅門の顔はまだ浮かない表情だった。そういう雅門の様子をみて、滝夜叉丸は悩ましげにうつむき言葉を続ける。
「しかし、やはりうどん作りは地味で私には向かないようです。私にはもっと派手で私自身が輝ける仕事をみつけようと思います」
「えぇ!滝夜叉丸さん、雅門さんがせっかく教えてくれたのですよ?」
「しかたがないであろう?確かに雅門どののうどんは美しい。しかし私はうどんよりも、自分を輝かせたいのだ」
りんはほとほと滝夜叉丸の発言にあきれてしまう。そのままちらりと隣の雅門をみる。
やはり彼はうかない顔をしていた。そこでりんはずっと思っていたことを聞いてみる。
「雅門さん、本当はうどん作りがお好きなのではないですか?」
「それは・・・」
りんは雅門の店での様子を思い出す。うどんを作っているあいだの彼の表情はとても生き生きしていた。
調理も丁寧で、うどんを切る姿には愛情さえも感じるほどだった。
「うどんを作ってたいた雅門さんは輝いてました。本当はうどん屋をやりたいのではないですか?」
りんがそういうも雅門はうかない表情を変えない。それをみた滝夜叉丸はおもむろに立ち上がり厨房へ戻る。しばらくすると手にうどんの入った器を持った滝夜叉丸がやってくる。それは雅門が竹高のために残していた一杯だった。それをそっと雅門の前に置く。
「・・・竹高さま、どうぞ」
そのうどんを竹高の前にさしだす。竹高は静かにそのうどんを口にする。
そして彼は満足げに微笑み、持っていた扇子を広げた。
「あっぱれじゃの。雅門よ。お主はうどん作りの天才じゃ」
その一言は竹高かすべてを許したものだった。
竹高が放った言葉は彼にとって、本当にあるべき姿を自覚するには十分なものであった。
「ありがとうございます。私は・・・ドクタケ城での戦いの中で、昔のことばかり思い出していました。戦を増すごとに、実家でうどんを作っていた日を思いだし、このような気持ちではもはや竹高様に忠誠は誓えぬと城をでて・・・しかし罪悪感は増してばかりでした」
本当はうどんを作ることが好きでありながら、その罪悪感から店も持たず浪人をしていたらしい。
そこまでだまって話を聞いていた滝夜叉丸が雑に前掛けをはずす。彼は軽くため息をついた。
「でしたらちょうどいい。私にはやはりうどん屋は勤まらぬようだし、地味すぎるこの任務をやる気にもなりません。この店はあなたに差し上げます」
「・・・いいのか?」
滝夜叉丸の言葉に戸惑う雅門。しかし滝夜叉丸はすでに決心しているようで、小さな荷物を手に持っていた。
「はい。うどん屋の頂点は雅門どのがなればいいでしょう。そして私はスターの頂点にたつ!そういうことです。私は城に仕事の辞退の報告をして来ます。では」
滝夜叉丸はそういって店を出ていった。おそらくこの仕事を辞退すれば、城をクビになるかもしれないという心配もしたが、彼はそれも承知の上らしく気にしてもいない様子で颯爽と立ち去った。
「さて、海も見たし、我らも城に帰るかの。春鬼」
「はい」
竹高が立ち上がり店を出る。その後をりんが雅門に頭を下げ、続いて出ていく。
雅門はだまって二人をずっと見送っていた。雅門はわだかまりのあった気持ちを正直に竹高に伝え、受け入れてもらえたことに心が晴れ晴れとしていた。りんと竹高が外に出ると、辺りはすでに夕方になっていた。
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