研修生を引きとめろ1
朝、りんはドクタケ城の自分の部屋の窓から外をみる。初夏のきざしを感じる青空から心地よい風が吹き抜ける。研修日の終了はあと3日を残すばかりだ。
りんは静かに立ち上がり身支度を整える。今日は昼から夜まで一人で合戦城の調査の研修が入っている。最近のドクタケ城は特に戦をする気配もないが、周りを調査している多さからいつでも戦ができるように機会をうかがってるようにもみえた。
「さて、朝飯を食べに食堂にいこう・・・」
ひょっこりとついたての向こうを覗く。しかしそこにいつもいるしぶ鬼の姿はない。りんが起床した時にはすでに布団がしまわれていた所からすると、おそらく朝日が昇る前から仕事があったのだろう。
りんは自室をでていぶ鬼、ふぶ鬼のいる部屋の前で声をかける。だがそこから返事はこなかった。ゆっくり戸をひくと誰もいなかった。
「なんだ、ドクたまは皆でているのか」
戸をしめて一人で食堂へ向かう。兵士、忍者の姿は見えるがやはりドクたまの姿はない。
りんは久々に一人で朝食をとる。黙々と箸を動かしながら、彼女は思う。すっかり慣れてしまった騒がしい日常。いつも彼らとなにかしら言い合いながら食事をしていた。それももうすぐ終わりだ。それ以降は春鬼ではなく本来のりんにもどるのだ。
(なかなか楽しかったな。春鬼も)
ふと自分の里のことをおもう。里の長、小柴は彼らに戦をさせないようにりんを送り込んだが、なぜ自分だったのだろう。里には自分より手練れのものはいくらでもいるというのに。
─でもそれでよかったのだなとおもう。りんはドクたまといることで、知らない自分を見つけることができたのだ。
りんが残り少ない研修生活を惜しんでいる朝。時はりんが起床する前のこと、朝日ものぼらぬ暗闇の時間。
ドクたまたち四人はいつものドクタケ城の会議室に集められる。集めたのはドクタケ忍者隊首領の稗田八方斎。彼らにとってはドクタケ忍術教室の校長である。
少ない明かりの中、彼らは八方斎の前に並ぶ。こんな朝も早い時間にドクたまだけが集められたことに、彼らは疑問に思っていた。
「ドクたま諸君。よく集まってくれたな。今回集めたのは・・・ドクタケ教室の校長として、皆にお願いがあってのことである」
ドクたま達は黙って聞いている。
「それは今回の研修に参加している春鬼のことだ。皆は春鬼をどうおもっているかな?」
「春鬼を・・・?」
八方斎の質問に彼らは互いに顔を見合わす。しばらく考えて、彼らは順番に答えていく。
「強くてぇ・・・」
「冷静で・・・」
「でも優しくて」
「とーってもかっこいい!」
その答えに改めて皆は春鬼を仲間として受け入れていることを感じる。互いが思っていることがおなじだということに笑いあっていると八方斎はうなずいた。
「そうか。君たちも信頼しておるようだが、彼はもうすぐ研修を終え帰ってしまうな」
その言葉に皆は黙りこむ。それは研修にきたときからわかっていたことだが、改めて言われると妙に寂しさを感じてしまう。
「そっか。春鬼帰っちゃうんだ」
「もっと一緒に仕事したかったな〜」
しぶ鬼といぶ鬼がそう呟く。そこだ!と八方斎は指差す。突然声をあげた八方斎にきょとんとするドクたま達。
「なぜ”そこだ!”なんでしょうか」
「ふふふっ、我々ドクタケ忍者も彼の能力には目をつけている。できれば確実にドクタケ忍者として就職してほしいと思っているのだ。そこで、君たちの出番と言うわけだ」
「春鬼がドクタケに確実に就職する方法ですか?」
ふぶ鬼の問いににやりと笑う八方斎。どうやら彼には案があり、そのためにドクたまを呼んだようだった。
「そう!春鬼をドクタケに就職させる方法、それは彼もドクたまに入学させればよいのだ!!」
「!!!」
八方斎の言葉に四人は衝撃が走る。今まで考えたこともないことだった。
たしかに春鬼がドクたまに入学すれば、彼がドクタケ忍者になる可能性はとても高い。それに自分達とも今後一緒に忍術が学べるのだ。魅力ある提案に彼らは胸を高鳴らせた。
「さっすが八方斎校長先生!頭がでかい!」
「ちがうわよしぶ鬼、頭が偉い、でしょ!」
はい、といぶ鬼が手をあげる。八方斎はいぶ鬼の名を呼んだ。
「春鬼をドクたまに勧誘するのは賛成ですが、どうやって行うのですか?」
その問いに八方斎はこほんと咳をする。そのしぐさにドクたま達はあっと察した。
(考えてないな・・・)
そんな読み通り、八方斎はにこりとおちゃめに笑って首をかしげた。
「そこは君たちで考えなさい。そうだな、校長として彼に入学推薦書と学費を援助するぐらいのことはできるかな。とにかく、なんでもよい。春鬼を引きとめるのだ!」
ドクたま達はうなずく。しぶ鬼が立ち上がり拳を上げた。
「みんな、春鬼をドクたまにいれよう!」
「おーっ!」
さっそく彼らは輪になって作戦会議を始める。そんなドクたまをみて八方斎は会議室の戸をおもむろに開く。辺りはまさに彼は誰時。これから朝が来ようとしていた。この日が、お互い長い一日になろうとは、誰もわかるはずはなかった。
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