3


しぶ鬼の卑屈な物言いにりんは反応する。冷静な彼女も、彼らの変な反応からしぶ鬼の言葉に敏感になっていた。
お互い気を張りつめた雰囲気に、周りは黙りこむ。しぶ鬼は今まで我慢していた不満をりんに言ってしまった。

「だってそうじゃないか。僕たちにずっと黙ってることがあるだろ!なのに僕たちが隠してたら怒るなんて・・・勝手じゃないか!」
「それは・・・」

しぶ鬼の言葉にりんの心は刃物に刺されたように胸がいたくなった。返す言葉も見つからず、りんは顔を歪める。それでもしぶ鬼は言いたいことを止めなかった。

「本当は僕たちのことを信用してないんだろ!」
「しぶ鬼!やめてよ!」

普段言いたい気持ちが溢れて歯止めがつかないしぶ鬼を見た山ぶ鬼がしぶ鬼の前にでて止める。彼女の怒った顔を見て、しぶ鬼ははっと黙りこむ。いぶ鬼やふぶ鬼がしぶ鬼に駆け寄りなだめた。
離れた場所でそれをみつめるりん。それ以上彼らをみるのが辛いと背を向け立ち去ろうとする。

「春鬼くん!」

山ぶ鬼がりんを呼び止める声がしたが、彼女は聞こえないふりをしてその場を逃げるようにして駆け去った。大きくため息をつくしぶ鬼。彼女が去ってようやく熱が冷めてきたようだった。それをみていぶ鬼があきれたように腕を組む。

「あーあ、引きとめるどころが帰っちゃうようなことして・・・」
「みんなは聞きたくないのかよ。春鬼のこと・・・」

その言葉に三人は考える。実のところ、春鬼はただものではないということは三人とも感づいていた。それを知りたいと強く思ったこともある。

「知りたいけど・・・本人が言いたがらないんだもん」
「でも友達だからさ、聞かないでいるんだ。そんなこと、しぶ鬼だってわかってるんだろ?」

しぶ鬼はうつむく。たしかに、春鬼は隠し事をしているが悪人ではない。本人が言いたくないから、自分もそれ以上は聞かないようにしていた。それでいいとあの時は思っていたのだ。しかし、もうすぐで春鬼は帰ってしまう。最後まで彼の支えになることもできず、ただの研修生として、仲間として別れを告げ・・・それで二人の関係は終わるのだ。それがしぶ鬼は猛烈に嫌なのだった。

「わかんないよ・・・友達としていることが、なんでこんなに苦しいんだよっ・・・!」
「あらなーんだ、そういうことね。あんたって鈍感ねぇ〜」

山ぶ鬼の言葉に三人が顔をあげる。この中でしぶ鬼の気持ちがわかるのは山ぶ鬼だけだった。
しぶ鬼は山ぶ鬼の言おうとしていることがわからず首をかしげる。しかたないわね、と山ぶ鬼は腰に手を当てて言う。

「しぶ鬼は春鬼くんの"特別"になりたいんでしょ?」
「春鬼の特別に・・・僕がなりたい?」

いぶ鬼とふぶ鬼はそれを聞いてもピンとこないようで特別?とお互い顔を見合わせてキョトンとしている。
しぶ鬼はもう一度山ぶ鬼が言ったことを繰り返した。その言葉はすんなりとしぶ鬼の胸に落ちていく。驚くほどしぶ鬼は素直に思う。春鬼が自分にとって大事な存在であると。そして、そんな彼にたいして心にもない事を言い捨てたことを自覚し、同時にしめつけられるように心が痛むのだった。

「僕・・・春鬼にひどいこと言っちゃった」
「子どもじゃないんだから!やることはわかるでしょ」
「うん・・・」

山ぶ鬼の言葉に勇気付けられ頷く。自分の気持ちに素直になると途端に気が軽くなる。苦しい様子だった先程とは変わって妙に落ち着いて真剣な表情になったしぶ鬼の様子に理解できないいぶ鬼としぶ鬼はまだ考えていた。その姿をみて山ぶ鬼はあきれる。

「どしたの?しぶ鬼」「さぁ?」
「あのね、二人はもうちょっと大人になんなさいよ」


 ──場所は変わってドクタケ場から離れた平野。ここではふたつのとある国の軍が合戦を行っている。りんは研修の一貫としてこの合戦の傾向を離れた場所から調査をしていた・・・のだが、実は先程から仕事とはいっさい関係のないことばかり考えている。それは朝にドクたまたちとやりとした内容だ。しぶ鬼と言い合った言葉を何度も何度も反芻させてしまう。仕事中だと切り替えようとしても、気づかぬ間にまた彼のことを思い出してしまうのだ。

(わかっていたことなのに・・・いざ言われてしまうと辛いものね)

もちろん、しぶ鬼やドクたまのことは信頼していないわけではない。今まで過ごしてきてはじめて出来た仲間であり、友人である。だが、そんな関係であるからといってこの任務のことを言ってしまうわけにはいかない。

そこまで考えて、りんはため息をついた。やはり友など持つべきではなかったのだと後悔をしていた。里の教えの通り、他人と割りきり情をうつさぬように接しておけばよかった、としかしそう思う度に皆の笑顔が浮かぶ。

「・・・しぶ鬼、もう私のこと嫌になったよね・・・」

彼女にとって喧嘩というのも初めてだった。しぶ鬼の苦しそうな表情を思い出す。今の彼女には仲直りをする方法さえもうまく思い浮かばない。ただ彼に嫌われてしまったと言う深い悲しみが心を占めていた。そんななかふと、初日のことを思い出す。しぶ鬼はあの日の夜に言った。自分達はしぶ鬼が大名でりんが軍師という絶対的な絆の関係であろうと彼は言ってくれた。

「あ、そっか・・・」

その言葉の意味に、りんは今ようやく気づく。彼はずっと頼ってほしかったのではないかと。それでも自分はずっとしぶ鬼をドクタケ研修生として割りきって見ようとしていた。里の教えと、しぶ鬼の言葉とでずっと気持ちが揺らいでいたのだ。

「私・・・春鬼は・・・何者なんだろう」

りんはこのとき初めて自分の気持ちに向き合った。春鬼、と無邪気に呼ぶしぶ鬼の声が聞こえる。それは紛れもない、自分を呼ぶ声だった。りんは決心する。

きちんとしぶ鬼に説明しよう。里の教えなどはもうどうでもいい。りんとして気持ちを彼に伝えなければいけないと思った。

「そうと決まれば、こんな仕事はやく終えないとね」

りんは一人の人にこんなに会いたいとおもったのははじめてだ。こんな待ち遠しい気持ちはなんと言うのだろう。うまく言えないが、嫌ではない。
ようやく切り替えることが出来たりんは、ドクタケ城にはやく帰る為に、合戦の調査をはじめた。持ち帰る必要な情報を手に入れた頃には、もう日が暮れて夜になっていた。



- 46 -

*前次#


ページ:





一覧へもどる