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その後、研修初日の予定は無事全てを終え、夕飯、風呂を済ませたりんは就寝しようと部屋に戻る。自室の戸を開くと明かりの元で髷も下ろした素顔のしぶ鬼がいた。お互い素顔を見せるのはこれが初めてだ。
「あれ・・・?君は春鬼だよね?」
「うん・・・しぶ鬼、そんな顔だったんだな」
お互い顔を見合わせて意外そうな顔をする。しぶ鬼は春鬼を見て、男性のように凛々しく、女性のような柔和な、整った顔つきに少し戸惑った。美形に弱い山ぶ鬼ではないが、少し鼓動が高くなったのだ。しかし相手は自分と同じ男だと思い気をとりなおす。
「そんな顔って・・・お互い様だろ」
「変な意味じゃないよ。男前男前」
「春鬼、バカにしてるだろ」
ちゃかすようようなやりとりをしてりんは衝立をはさみ、布団を用意する。
「しぶ鬼はなに書いているんだ?」
「研修日誌。これ毎日書いて朝に魔界之小路先生に提出しなきゃいけないんだ」
「リーダーは大変だね」
その言葉ににやりと悪そうな笑みを浮かべてしぶ鬼は衝立越しに身を乗り出した。
「じゃ、春鬼やってみる?リーダー」
「リーダー?俺が?」
「春鬼なら、強くて頭もいいし頼りになるとおもうんだけど!」
思わない、としぶ鬼と日誌を押し返す。
「俺に人をまとめたりする力はないし、ドクたまのこともよくわからない。そういう面ではしぶ鬼の方が適任だと思う」
「ちぇ、駄目かぁ。まぁ、別にいいけど」
あっさり諦めたしぶ鬼はそのまま日誌の続きを書いていく。しかしその間も考えてたようであっと声をあげた。
「春鬼!じゃあさ・・・」
「まだ何かあるのか」
にっこりと笑ってしぶ鬼は続ける。
「僕がドクたま総大将で春鬼は軍師役!ってのはどう?」
「なにそれ」
「合戦の基本だよ!軍には将軍がいて隣には指揮官がいるだろ?僕と春鬼がタッグを組めば間違いなしだって」
突然突拍子のないことを言ってくるしぶ鬼。その言葉の意味が変わらず首をかしげると、笑っていたしぶ鬼がふと真顔になった。
「・・・っていうのも、ドクたまみんなはさ、あぁやっていつも通りに振る舞ってるけど、ほんとは不安なんだ。ドクタケ城は戦好きな所だし、この実習だって、何するかわからない・・・ひどいことだってしなきゃいけないかも。みんなそれが怖いんだ。僕だって・・・不安だ」
明かりのろうそくがゆらりとゆれるとしぶ鬼を照らす横顔の表情もかすかに揺れる。その横顔は、なにか本心を隠しているようにりんには見えた。
「だから、君がいてよかった。僕と一緒にこの研修を成功させよう。ちゃんとやりとげて魔界之小路先生を、安心させなきゃいけないんだ。お願い!」
両手で拝むようにしぶ鬼はそうりんに頼んできた。仲間を心から心配するしぶ鬼の姿にりんはなぜ小柴がこの任務を頼んできたのか、なんとなくわかったような気がした。彼らはこのドクタケを変える、大事な人たちになるかもしれない。りんはそう考えて静かに頷いた。
「わかった。俺にできることなら、なんでも頼ってくれ」
「うう、春鬼〜!ありがとう!」
初めてお互いが笑い合う。りんはなんとなく、仲間や友人というものが知りたくなった。彼らを見ればそれはわかるのだろうか?まだ慣れない感覚に、りんは戸惑っていた。
ドクタケ研修生 ー完ー
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