忍術学園深夜食堂1


小梅と兵助は忍術学園にたどり着く。すでに辺りは暗くなり、星が見えていた。事務の小松田に入門書を提出し、兵助は小梅に言った。

「じゃぁ、小梅さん、俺は忍たま長屋にかえるから。今日はありがとな!」
「はい、こちらこそ!」

笑顔で去っていく兵助を見送り、小梅はその場で考える。シナへの報告の時間は夜である。くのいち教室の教員室ですでに待っているかもしれない、小梅はシートを取りだし、その教員室へと行こうと一歩踏み出したときだった。足元近くにざくっと手裏剣が刺さり小梅はわっと後ずさる。咄嗟にそばの茂みに身を隠す。すると上から声がした。

「お前はくのたまか!?今帰ったのか?」
「あなたこそ誰ですか?なぜ手裏剣を撃つのですか!」

小梅も懐から普段隠し持つ棒手裏剣へと手をかけた。その時、まて!と男が叫び姿を表した。深い緑色の忍び装束。忍たまの最上級生の制服だ。

「もしかして小梅か?朝からいなかったよな?今帰ってきたのか?」

その姿は学園でも有名な学園一忍者していると言われている潮江文次郎だった。小梅は普段は勉強や食事以外に忍たまの姿を見ることはないが、彼はくのたまの間でも気嫌いされているのを知っており、校庭で姿を一度みたことがあったのだ。

「貴方は6年生の潮江先輩ですか?おっしゃる通り、私は今帰ったばかりですが・・・」

そう答えると文次郎は攻撃の体勢を解き、こちらに近寄ってきた。

「そうか!これはちょうどいいな・・・ここでは姿を見られてしまう。話がある。そこの物置小屋で話を聞いてくれないか?」
「はい。わかりました」

言うやいなや木々に飛び移り茂みに姿を隠しすばやくその場を離れていく文次郎。その様子を見て小梅も学園に異変が起こっていることを咄嗟に感じた。彼女もできるだけ物音を建てず忍びながら移動し物置小屋へとたどり着く。文次郎はすでに中に入っており、真っ暗闇のなか小梅が来るのを待っていた。小梅は先程まで暗い道中を通っていたので暗闇には目がなれており、彼の姿はなんとかわかった。

「話とは?」
「あぁ。放課後、お前と三木ヱ門が学園長先生の使いで外出したあとだ。忍術学園に曲者がはいったのだ」
「・・・曲者ですか?」

真剣な表情で文次郎は語る。彼が語る事情によればその曲者とは、どうやら忍術学園の生徒を調べて回っており、生徒や教師に変装をしているらしい。

「すぐに先生方は学園長先生の庵で会議をされていたのだが、その結果、我々生徒には今まで通り過ごせとの命令だった・・・」
「捕まえないのですか?」

小梅の問いに悔しそうに文次郎は拳を握る。気持ちをおさえ、彼女にその理由を話す。

「あぁ。きっと何か策があってのことだろうか・・・俺は納得がいかん!」
「しかし、先生方にお任せしておいた方がよいのでは?」
「まったくお前もそういうのか!?悔しいと思わんのか!一人の曲者が、我々忍術学園の生徒を探ろうなど・・・敵に甘く見られていると思わんかっ!?」

しかし感情を抑えきれなかった文次郎は食いぎみに小梅ににじりよる。彼はどうやら長年自分が学んできた場所でもあり、手練れ揃いの忍術学園の生徒が易々と一人の曲者に調べられていることが耐えられないらしい。

「きっと何か手があるのでしょう・・・って、潮江先輩?聞いてますか?」

文次郎は小梅の言葉に声を傾ける気もないようだ。突然荒々しくがしりと小梅の両肩をつかむ。

「誰がなんと言おうが、忍術学園の生徒として先生任せで指をくわえて見ているのは耐えられん!俺は・・・いや、我々は考えたのだ。そこで小梅、お前に協力してほしい」
「わたしですか!?って、我々とは誰ですか!?」

話のあらすじはわかったが、協力とはなんだろうか。文次郎はにやりと笑う。怖がる下級生たちにも納得のおどろしい笑みだった。

「まぁ、聞け。先程言ったように曲者は生徒や教師に化けている。それは奴が放課後から学園を調べているから出来るのだ。そうすると、曲者が来る前に学園をでたお前のことは奴は知らない」
「ええ。恐らくは・・・」
「そこで俺たちは考えた・・・その名も『忍術学園深夜食堂計画』だっ!」

意気揚々を高らかに言う文次郎のその作戦名に小梅は理解できず繰り返す。

「忍術学園深夜食堂計画?」
「あぁ。今晩、全委員会が深夜まで活動する・・・まぁいつものことだが。すると夜食が食べたくなる忍たまや教員が集まってくるだろう?そこで深夜食堂をお前と俺で切り盛りするのだ」
「食堂のおばちゃんは?・・・あっ」

そういって小梅は考える。相手は生徒や教師にだって化けるのだ。食堂のおばちゃんにだって化けている可能性はある。その点、自分が深夜食堂を開けば多くの学園の者が集まる。そうすれば曲者だってそこに調べに来る可能性が高い。 

「お前の察しの通りだ」
「でも潮江先輩もすでに調査されて化けられてしまうのになぜ深夜食堂をされるのですか?」

潮江は懐から袋を取り出す。中から出したのは色のついた米。五色米だ。それは仲間の忍者同士の暗号に使われるものだ。

「これで、今夜俺が深夜食堂を開くことはみんな承知している。逆にそこ以外で俺を見たらすぐにそいつは曲者だってわかるはずだ」
「なるほど。では、私と潮江先輩が、深夜まで活動する委員会の為に深夜食堂を開き、集まってきた忍たまや教員を見て、怪しいものがいるかどうかを生徒皆で調べる訳ですね!」

その通りだと文次郎は頷く。彼が初めに『我々』と言ったのは学園の生徒全体を指すようだった。いわばこの作戦は忍術学園の生徒全員の作戦であるのだ。

「久々知先輩も呼んできましょうか?」
「兵助はさっき忍たまの長屋に行っただろう?すでに敵に確認されている可能性があるのでやめておいた方がいい」
「・・・わかりました」

そこで二人の作戦会議は終わる。深夜食堂はすでに食堂のおばちゃんも承知済みであり、準備は会計委員の後輩に任せているらしい。
話を終えた二人は物置小屋を出て、早速食堂へと向かった。


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