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小梅は忍び衣装へと着替えて文次郎と食堂へと向かった。食堂では一人の一年生の姿をみつけた。彼は沢山の食材や米を台所に下ろしている作業をしており、文次郎の姿を見るとすぐに駆け寄った。
「潮江先輩!今食堂の準備をしていたところです!」
「そうか。団蔵、学園の様子はどうだ?」
「いつも通りです。みんな、委員会の仕事が終わらないみたいで・・・ほんと、普段と変わりませんよ」
団蔵と呼ばれた一年生はそう苦笑いする。文次郎はそれでいい、と一言呟いた。団蔵はちらりと文次郎の横にいる小梅を見る。そして瞳をきらりと輝かせた。
「もしかして・・・くのいち教室の小梅さんですか?」
「うん。そうだけど・・・」
小梅が頷くと団蔵はうきうきした様子で彼女の近くへ寄った。
「やっぱり!僕は一年は組の加藤団蔵と申します。小梅さんは忍たまの間でも名前を聞くんですよ!特に一年は組では尊敬されてます!」
「ええ?私は一年は組とは面識ないけど・・・」
そもそも忍たまとの接点をとろうと思ったこともなく、小梅は忍たまのほとんどの生徒を知らない。しかしそんな小梅でも一年は組のことはそれなりに知っていた。後輩のユキ、トモミ、おシゲに何度か一年は組から受けた苦労話という名の、愚痴を聞いたことがあったのだ。
「小梅さんは成績も普通だけどそれに負けず努力を怠らない不屈の精神をもつお方だって聞いてます!」
「頑張っても成績は普通なんだけどね・・・て言うかちょっと悪いぐらいなんだけど・・・」
それに現に今も補習中だ。団蔵の言葉に落ち込んでしまった小梅だが団蔵はきらきらしたままだった。
「そこが一年は組が尊敬するところなんです!」
「お前らは一年生の中でも・・・いや、歴代一年の中でも成績はドン底だからな」
さらにいうとトラブルメーカーとも聞いている。
「成績が悪くても一所懸命な小梅さんをみてると、成績のとてつもなくわるーい一年は組でも努力しなくちゃって思えるんですよ!」
「喜んでいいのかしら」
微妙な心境になっている間、文次郎はいつの間にか割烹着に着替えておりしゃもじを手にしていた。
「それより小梅、深夜食堂をやるからにはギンギンにお残しはゆるさん方向でいくぞ」
「さすが切り替えがお早い!じゃあ私はこれで準備が完了しましたので帰ります」
そういって一礼し去っていく団蔵。彼はこの後も委員会の仕事があるらしく、引き続き仕事を行う予定らしい。
まだ深夜食堂の開始には時間があるので台所の様子を見てみてみる。団蔵が食材や機材をすべて準備していたようだった。受け取り口の長台に、一枚の書き置きが残されている。それをみてそうだ、と文次郎は思い出した。
「団蔵に食堂のおばちゃんからレシピを教えてもらうように頼んだのだった。どれどれ・・・」
「な・・・なんですかこれは!」
二人はその置き書きを見て驚く。団蔵が書いた文字が読めないのだ。「い」が「り」にも読めたり「て」が「と」にも読めたりする。その他漢字や数字も迷う文字が多く、計量もさっぱりわからない。
「団蔵に任せた俺がバカだった・・・!」
「しかたありません。自分達で作れる料理を作りましょう」
うなだれる文次郎を横目に小梅は改めて材料を見る。目にはいったのは大根、たまご、里芋、豆腐、昆布に、魚はタコやタラが多くある。それをみて小梅は自然と浮かぶ1つの料理。
「おでんかなぁ」
その言葉に文次郎は笑顔になる。
「おでん、いいな。今は底冷えするほど寒い季節であるし、みんな喜ぶだろう」
「お米や梅干しもありますし、おにぎりも沢山作れそうです」
こうしてメニューも決まり、二人はおにぎりを作る文次郎とおでんを作る小梅と分けて協力し作ることになった。
米を炊く釜戸に火種をいれ火打をうちながら文次郎はふと小梅に聞いてきた。
「気になっていたんだがお前、なぜ三木ヱ門と使いに行ったんだ?使いは元々三木ヱ門だけで行くと聞いていたのだが・・・」
「それは・・・えぇーっと、彼は私の補習に付き合ってくれてたんですよ」
「補習だと?」
釜戸の火がつき燃えていく。文次郎は釜戸の前に屈み、うちわで火に空気を送りながら火力をあげていく。補習ときいて小梅を見上げた。
「はい・・・おはずかしいんですが」
「お前そんなに忍術が下手なのか?」
「忍術というより・・・立ち振舞いで・・・」
ふむ、と文次郎は黙る。するとすぐ察したようだった。
「わかった。くのいちは女の忍者だろう。なかには女らしくたち振る舞う機会もあるがそれができず、補習になったんじゃないか?」
「えっ、見てたんですか!?」
「お前の様子を見れば推理できるよ」
呆れたように彼は言った。そういえば、と文次郎は続ける。
「俺が知っているなかでは昔お前は、毒虫がいる野草園の畑の上で寝ていたそうだな」
「ううっ・・・なぜそれを」
「上級生の仕掛けた罠が沢山ある山で焼き芋をしていたという話も聞いたことがある」
「・・・あ、あの、恥ずかしいんですけど」
魚をさばきながら小梅は赤面する。その話はほとんどくのいち教室に入って間もない頃の話だ。
「そんな話を何度か聞いてれば、お前がおしとやかでないなどというのはすぐにわかる。で、補習の内容は?」
「・・・補習は、おっしゃる通り私は女性らしくないので、忍ぶときに不利になるそうです。なので女性らしさを身に付ける補習をしていました。えーっと、これです」
一旦手を止め、手拭いで手を拭き小梅はお嫁さんシートを取り出す。文次郎は立ち上がりそのシートを見た。
「なんだこれは」
「これはお嫁さんシートです。私をお嫁さんにしてもいいと思った男性が、ここにサインをするのです。上級生だったり、数が多ければ評価も高いです」
「なるほどな。確かに名前がある。6年生はいないのか?」
何気ない文次郎の問いに小梅は頷く。そういえば、最上級生のサインはない。しかし、考えてみても自分が厳しい目を持つであろう6年生のサインをもらえるほどの振舞いはできないと思う。合格するだけでも手一杯だ。
「六年生に認められるなんて、無理ですよ〜」
「やる前から諦めるな。試しに俺に聞いてみろ」
小梅は渋い顔をする。確かに彼は六年生だが、文次郎の顔は険しい。答えはわかりきっているが、小梅はいつもの質問をやる気なく聞いてみる。
「・・・じゃあ聞きますけど私をお嫁さんにしたいと思います?」
「思わん」
「やっぱり!」
無駄に落ち込んでしまった小梅を見て、文次郎は笑う。なにがそんなにおかしいのかと小梅は思ったが、気にせず目の前の魚を捌くことにした。
「だが、男だの女だの関係なく、がむしゃらに頑張る奴は好きだな。見ていて気持ちいいだろう?」
文次郎はポツリと言う。
「敵でもそんな相手と戦うとわくわくするな!」
「潮江先輩らしいですね」
「お前、自覚ないのか?」
そんな文次郎の問いは小梅の耳には入らなかった。彼女は魚をさばき終え、包丁で白身を叩き出して音を出していたからだ。
「・・・ま、いいか」
文次郎もそれ以上聞かず、米炊きに専念する。すべての準備が整った頃には夜もすっかり更けていた。
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