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ぐつぐつとじっくり煮えたおでんの鍋。白い湯気が立ち込めだしの効いた香りが食堂に充満する。
二人で炊けた米でおにぎりを握り終え、小梅と文次郎は一息ついた。

「準備ができましたね!」
「あぁ、あとはあれを鳴らすだけだな・・・」

そういって文次郎は勝手口の方を見やる。見ている方向になにがあるのだろうかと小梅が勝手口を出る。そして目に入ったものに驚いた。

「鐘と太鼓じゃないですか・・・」
「深夜食堂が開くということ、それは合戦の開始と言うことだ!」
「絶対違うと思いますけど・・・」

小梅にはバチが渡される。どうやら太鼓を叩けと言うらしい。小梅は仕方なく言われた通りの拍子で力強く太鼓を叩く。すると忍術学園中がしんと静まったような気がした。生徒達も足を止めてその合図を聞いている。

「忍術学園深夜食堂、開戦だ!」

文次郎が高らかに叫んだ後、甲高い鐘の音が遠くまで響き渡る。
学園長のいる庵では、大川が一人書物を読みながら、ひっそりとほくそ笑んだ。

鐘の音も静まった頃、どたどたと廊下から音がした。

「潮江先輩〜。夜食ください。五人分!」

やってきたのは濃い青色の制服。彼は二年生だろう。その後からぞろぞろやってきたのは保健委員会のようだった。

「よう、保健委員達。はかどってるか?」

受け取り口から顔を出した文次郎の姿をみたもう一人の六年が笑顔を向ける。

「それが天井は抜けるわ、薬はばらまくわで全然進まないんだあははは」
「伊作先輩、笑い事じゃないですよ・・・。でもあれ以上、保健室にいたら駄目だと思って、お腹もすいたし食堂で一休みしようと思ってきました!」
「そうか乱太郎。たっぷり食ってけ!」

小梅は台所から五人分のおでんとおにぎりを用意して文次郎の隣へいく。その姿に驚いたのは保健委員会の委員長である善法寺伊作であった。

「ええっ、あの文次郎がくのいちの子と居るなんて珍しいな」

その言葉に周りの忍たま達も興味津々で寄ってくる。

「あ、もしかして小梅さんでは?」
「・・・あぁ、あの人かぁ!」

やはり自分の知らないところで小梅は有名らしい。伊作はなるほどと納得したようだった。

「小梅ちゃんなら文次郎も安心するわけだね。深夜食堂、頑張るんだよ」
「はい」

食事を手に取った彼らは転けそうになりながらも無事に席について和やかに食事を始めた。
彼らを皮切りにいろんな委員会の者達が集まってくる。みるみるうちに食堂の席は埋まっていった。

「おい、小梅。おでんとにぎりを4人前だ!」
「はーい」

小梅は本来の目的を忘れそうになるほど深夜食堂の営業に夢中になっていた。気がつくと食堂のなかは夜食を食べに来た忍たまだらけだ。

「これだけ集まれば敵もここに来るはずだ」
「でも誰に化けてるのでしょう?私、忍たまはあまり知らなくて・・・」
「そうだな・・・俺が見る限り、変わった奴はいなさそうだが・・・」

文次郎が食べに来ている忍たまをみているがやはり曲者はいなさそうだ。廊下からまた足音が聞こえる。現れたのは一年は組の教科担当である土井半助であった。彼は忍たまで賑わっている食堂をみて微笑む。

「随分賑わってるな〜文次郎」
「土井先生、委員会の仕事の休憩ですか?」
「あぁ、そんなところだ。途中で腹が減ってな・・・なんか食わせてくれ」
「おでんですけど・・・いかがですか?」

小梅が具だくさんのおでんをついだお椀を持ってくる。それをみた半助は笑顔になった。

「いいな〜!それをもらうよ」
「・・・」

ちらり、と文次郎と小梅は瞬時に視線を交わし合う。お互いそれで言いたいことは伝わった。半助におでんと握り飯を渡すと彼は鼻唄混じりに手前の席に座った。

小梅と文次郎は黙って半助の様子を見る。何人かの生徒も薄々気づいているようだった。そして──

彼が美味しそうに小梅の作ったちくわを口にした瞬間、食堂にいた生徒全員がその姿を注目した。

「土井先生が・・・」

静寂のなか、一人の生徒が思わず声をもらす。そしてその場にいた者全員が声を揃えた。

『ちくわを食べたー!?』

その反応に驚いたのは半助だ。しかしその者は皆の知っている土井半助ではなかった。彼は半助の変装をした偽物だと、忍たま全員は確信した。

「おい曲者!土井先生はな、ちくわなどの魚の練り物は大嫌いで絶対に食べんぞ!」
「なっ・・・しまった・・・」

文次郎の言葉に半助に化けた曲者はおでんを見る。おでんを残してその場を去ろうとして立ち上がるが何人かの生徒が食堂の出入り口をふさいだ。

「そこをどけ!」

曲者が装着したのは角手と呼ばれる突起のあるメリケンサック。拳をにぎり繰り出そうとする姿を見小梅はとっさに食堂の受け取り口を飛び越えた。

「私が丹精込めて作ったおでんを残さないで!」

そのまま曲者の頭めがけ跳び蹴りをいれる。その一撃が見事に決まり、曲者はぶっ飛び一発でのびてしまった。

「おおっ」

まわりの忍たま達もその瞬間にざわめき拍手する。その騒ぎを聞き付けた本物の土井半助が食堂にかけてやって来た。

「何事だ!・・・おや?」  

のびている曲者の変装は小梅の一撃で崩れており、ぴくりとも動かない。半助はこの相手が例のくせ者であると察し、男の元へより縄を縛った。

「くそ・・・なんて食堂だ」
「バカなやつだな。忍術学園で一番恐ろしいところは食堂なんだぞ?」 

半助は食堂に集まった忍たまを見て、にこりと笑う。

「皆、よくやったな」

そのまま半助と大人しく連行されていく曲者。一瞬静かになった食堂。小梅に集まる視線。その後彼らはわっと皆で喜びあった。 

「ばんざーい!」




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