囚われた守宮2
孫兵はこはくと別れ、なのかを追いかけるように山を下る。何故彼女が突然背中を向けたのか、孫兵はわからずにいた。
孫兵にとってこはくは友のようなものだ。彼がこの村に来たときから知っている仲で孫兵が祠で雨宿りしているときに出会ったのがきっかけだ。彼女は昔からこの山に住んでいるらしくこはくの美しい姿を見たいと孫兵はこはくと頻繁に会っていたのだ。
「小屋にもどったかな」
孫兵はそう思い自分の小屋へと戻ってみたがなのかの姿はない。ふと孫兵に不安がよぎった。もしかしたら村に帰ってしまったのだろうか?
彼女が村に帰ること・・・それは自分に呆れて共に暮らすのが嫌になったとか、そんな悲観的な理由が頭に浮かんだ。
「やっぱり僕、嫌われたのかな」
孫兵の顔も曇る。そんな考えがよぎった瞬間、孫兵は猛烈に胸が苦しくなった。彼にとってなのかの存在はすでに大きなものになっていた。それまで孫兵にとっては人などいくら嫌われても構わないと思っていたのだがなのかの事だけは別であった。彼女のために何かをすることは孫兵にとって幸せであったし、こんな日がずっと続いてほしいと願った。
「・・・会いたいよ」
胸のなかにいたマムシのジュンコするりと顔をだした。
「会いに行こう。僕にはあの子が必要なんだ。こんな気持ちはじめてだけど・・・」
孫兵はなのかを迎えにいこうと村へと自ら足を向けた。暖かな春風が孫兵をなで、足元に咲いた菜の花がゆらりと揺れた。
一方囚われてしまったなのかと竹谷。入った茶店には地下室があり、二人は乱暴に縄をくくられ地下室の簡易的牢に入れられた。
二人を襲った店主姿の忍者は二人を見た。
「まさかそちらから来てくださるとは。おまけがついてきましたが好都合でした」
「やっぱりタニグクだな?」
「ご存じでしたか」
竹谷はその男を睨む。竹谷は彼らの存在を以前から知っており、調査をしていた。それが最近では孫兵の事を執拗に調べているのをみて、タニグクを注視していたのである。
「俺だって忍だからな。この辺りの様子は調査しているさ。孫兵のいた城を追い出したのも、村に変な噂を流したのも・・・全部タニグク、お前たちの仕業だろう」
「どいうことです?竹谷さん」
なのかは謎の男に捕らえられた恐怖から、怯えていたが孫兵の話を聞いて聞き捨てならないと自分と同じように縛られている竹谷をみた。竹谷はすでになのかも他人事ではないと思い、今までの事を語る。
「実は、あいつの職場である城の兵士が蛇に教われた事件があって、孫兵は疑われて城を追い出されてしまったんだ・・・。それだけじゃない、この辺りで言われてた『大蛇の使い』なんて言葉も、こいつらが村人を怯えさせるために言った出任せさ」
なのかは考える。タニグクは孫兵が村人に避けられるように工作をされていたということだ。なのかはタニグクをにらんだ。彼女は縄でくくられた際に暴れて髪紐がほどけてしまっていた。
「ひどい!孫兵さん悩んでたのよ?なんでそんなことするのよ」
「そ、それは言えませんね・・・」
理由を聞くと何故か少し戸惑ったタニグクの忍者。気を取り直して彼はなのかを見た。
「あの男はお嬢さんのおかげで村に馴染むようになってしまった。あの毒虫男が村にいては我々は都合が悪いのですよ。だからあなた方には悪いのですが・・・ここで大人しくしていただきます」
「孫兵を甘く見ない方がいいぞ。文字通り、痛い目をみるかもしれない」
忍者の言葉に竹谷は一言冷静に忠告した。忍者はその竹谷の言葉はきっと脅しでいっているのだと思い大して気も止めなかった。男は二人に背を向けた。茶店の店主にもどり、二人を監視することが彼の任務だ。
「我々タニグクの繁栄のため、よろしくお願いしますよ・・・」
そのまま音もなく地下室を出ていった。なのかはため息をつく。恐らくタニグクは自分達を人質にしてなにかいってくるに違いないと思った。
「あの人たち、なんで孫兵さんのことやっかむの?」
「ありゃ、多分虫嫌いだからだな・・・」
呆れたように竹谷が答えを言う。彼はタニグクの事を調べていたので彼等の特性は多少理解していた。奴等は任務中は必ず虫除け薬をもっていた印象で仕事が終わったあとは必ず身綺麗にしていた。
「虫が嫌いだから好きな孫兵さんにひどいことするのかしら」
「タニグクと提携を結んでいる城も同じく大の虫嫌いで有名だからな。一忍者の孫兵が天敵にみえたのかもしれない・・・なのかさん、君は孫兵に会いたいんだろ?」
タニグクのことなどどうでもいいように竹谷が聞いてくる。いや、と竹谷は少し考えて言い直した。
「絶対孫兵からここにくるさ。俺はともかく、なのかさんを取り返しにね」
「え?」
「あいつ、関わったら最後まで責任もつ方だから」
竹谷の意味深な言葉になのかは首をかしげた。さすが忍者なだけあって危機的状況にも冷静で落ち着いている竹谷だが、すぐに牢から出るつもりは無さそうだったので、不安だがなのかも彼に合わせてできるだけ落ち着いていることにした。
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