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孫兵はその姿を見てわっと駆け寄った。
「サンシロウ三世!だめじゃないか〜!勝手にお散歩しちゃ・・・」
孫兵が両手で抱えるとそれを見たタニグク達の絶叫が響く。全員の腰が折れ、尻餅をつく。あの茶店の店主も同じく震えてうずくまっていた。
「どどど、毒虫男!それを放せ!」
「え?放していいのか?」
孫兵が再び雑草に大ムカデを放そうとしてタニグクたちはさらに距離を取る。ちがう!と茶店の店主は怒鳴った。孫兵はどっちだよ、とタニグクをにらむ。なのかはいつもの孫兵のペットを見ていただけに大ムカデの事はよく知っており今さらおどろくことはなかった。
「その虫をこっちへやるな・・・!」
「こんなにかわいいのに。ムカデは本来怖がりなんだ。優しくしてあげないと・・・噛むよ?」
孫兵の一言にタニクグは怯えている。そんな彼らに追い討ちをかけるように茶店の店主の尻餅をついた手元にぬるりとなにかが触れた。気味の悪い感触に視線を下げると孫兵の相棒である毒蛇のジュンコが地を張っていた。
「なああああ!」
「あっ!ジュンコもここにいたんだね〜!よしよし、怖かっただろう?」
ムカデを竹谷に預けてすぐにジュンコの元へいく孫兵。固まって意気消沈している店主を横目に愛しい相棒に手を差しのべるとジュンコはいつものように彼の手に絡み付き首元へ落ち着いた。
「うううう、我々がここにいることを感づいて毒虫を放つとは、孫兵め・・・あなどれん・・・」
「いや、単純に逃がしてしまっただけなんだけどな」
孫兵をあなどっていたと震撼するタニグクに呆れる竹谷。しかしタニグクは大ムカデ、毒蛇を目の当たりにしても逃げようとしない。害虫が大の苦手でみるとすぐに逃げてしまうと知っていた竹谷と孫兵はいつもとちがう彼らに少し戸惑った。店主はまだ怯えているが必死に不適な笑みを浮かべた。
「ふ、ふふ・・・わ、我々は頑張って多少の毒虫には慣れることに成功したのだ・・・これぐらいではもう逃げんぞ・・・!」
「その努力を積めば虫嫌いもなおるんじゃないか?」
竹谷が控えめにつっこむもタニグクは聞かぬふりをして孫兵たちに刀を向けた。孫兵も彼らを睨み返す。タニグクは多少耐性がついたと言えどやはり孫兵が恐怖のようだった。竹谷がちいさな笛をとりだし短くフッフッと吹くとどこからともなく犬たちが集まってくる。
「犬笛か!」
「俺たちは生き物にかけては自信があるぜ?タニグクさん」
囲んでいたタニグクが今は複数の犬に囲まれている。奇妙な術に戸惑った彼らはうろたえた。一人がかしゃんと刀を下ろす。そして怯えたように後ずさりした。
「し、白い大蛇だ・・・」
その言葉に一斉にタニグク達はなのか達の奥、そこにはなぜかこはくが立っていた。雪のように真っ白な体、大きくいぬくような赤い瞳がタニグクをにらんだ。なのかはなぜこはくがここにいるのかわからなかった。ただ彼女はタニグクを黙ってまっすぐ睨み、怒っているように見えた。
「おい、大蛇の使いは風の術ではなかったのか?」
一人の忍者がそう呟いた。彼らも突然現れたこはくに驚いている。なのかは彼らのいっている白い蛇とはどのことなのだろうと辺りを見回した。しかしその姿は見当たらない。みんなが見ている視線の先は──どうみてもこはくなのだ。
孫兵がやってきたこはくの姿をみて背後に振り返り声をかけた。
「だめだよこはく!危ない!」
孫兵がそう叫ぶも彼女の表情は変わらない。
「私の友を傷つけることはこの山で私がいる限り、許しません・・・」
こはくが一言そう呟くとありえない光景が浮かぶ。辺りの木々にいた鳥は飛び立ち、回りにいた犬も怯えて逃げていく。晴れていた空は突如曇天になり、夕立のような大雨が降りだした。さらに辺りから一斉になにかが迫ってくる気配を感じ、孫兵はとっさになのかを抱き締めて竹谷と共にその場に屈んだ。その瞬間に雷鳴が響く。
「な、なにが・・・うわぁ!!」
タニグク達は恐ろしい光景に散り散りに散らばっていく。その後を追いかけてくるのはおびただしい数の野ネズミととかげだった。地面や雑草すらも埋めつくし、世の中の野ねずみととかげを集めたかと思うほど一斉に彼らはやってきてタニグクたちを襲った。世にも奇妙な光景にさすがのタニグクも耐えられず逃げ去っていった。
彼らの姿が見えなくなるとねずみやとかげもそのまま走り去り、雨もやんで空から光がさしこむ。先程の出来事がまるで夢であるかのような静けさだった。その場に屈んでいた三人は恐る恐る辺りをみると、燃やされた茶店は大雨で鎮火しており、雑草には露がおちて辺り一面をきらきらと輝かせていた。
「なにが起きたんだ?」
「なのかさん・・・こはく・・・こはくは?」
なのかの無事を確かめるとこはくの姿を探す。彼らが振り返るとタニグクを追い返して満足げに立っているこはくの姿があった。孫兵は彼女のそばに立って頭をなでた。
「よしよし。すごいね、こはくは・・・」
竹谷となのかはお互いに顔を見合わす。なのかが言いたかったことはこれだと竹谷に二人指差してみせる。
二人に聞こえないようになのかは竹谷に言った。
「ほらっ!みてください竹谷さん・・・!二人ともあんなに仲良くしてるじゃないですか!」
「・・・そうだな?さすがは孫兵といったところか」
「あんなにきれいな女の子なんですよ・・・私・・・勝てません!」
がっくりとうなだれていると、竹谷は不思議そうに首をかしげた。そして「女の人?」と繰り返し聞き返す。なにを変なことをいっているのだとなのかは竹谷に言った。
「どーみても女の人じゃないですかっ!」
「まてまて、なのかさんにはあの”蛇”が人に見えるのかい?」
竹谷の言葉になのかは固まった。今竹谷は確かにこはくのことを蛇と言ったのだ。なのかは再び孫兵とじゃれあうこはくに目を向ける。するとこはくもなのかの視線に気づきそっと微笑みを返した。
「あ、あれぇ〜!?」
しかしなのかが一度まばたきするとこはくの姿が人ではなく大きな蛇になった。なにが起こったのかわからずバシバシと竹谷の肩を叩く。
「いてて、なのかさん落ち着きなって・・・な?こはくは蛇だよ。まれにアオダイショウが白化して生まれたらああなるんだ。そのなかでもこはくはだいたい30年ぐらい生きてるかもしれない長寿蛇なんだよ」
「私、目がおかしくなっちゃったのかしら」
ばしばしと何度もまばたきするが、今まで人に見えていたこはくが大きな白蛇にしかみえなくなり、混乱する。その様子を見て竹谷はもしかして、と腕を組んだ。
「長生きした動物は妖怪にもなるって話だ。もしかしてなのかさん、化けられたのかもな?」
「怖いこと言わないで〜!」
晴れた青空には鳥たちが戻ってきていた。雨が降ったせいか、辺りの空気は澄んでいるように孫兵は感じていた。
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