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タニグクに襲われた日から翌日、彼らの生活は平穏を取り戻していた。しかし、なのかの知らない間にまわりが予想外の展開になっている。それは村の人たちがなぜか孫兵と自分を祝福してくれるのだ。今もこうして二人で村を歩いていると畑仕事をしていた長太郎に声をかけられて祝福されている。

「いやあおめでとう二人とも。末永く幸せに!」
「…え?は、はい?」

お祝いの挨拶をして去っていく長太郎。それに曖昧に答える孫兵にちょっとまってとなのかは立ち止まった。昨日からどうも周りがおかしい。なぜ孫兵と自分がこんなにあらゆる人に祝福をされるのだろうか。孫兵は整った顔できょとんとこちらを見ている。

「なんで皆さん私たちを祝うんですか?」
「実はぼくも気になってたんだ。なんか大事なことを忘れている気がするんだよな」

孫兵は腕を組み考える。なのかは今日積んできた薬草が積んであるかごを地面におろした。その薬草の束をみて孫兵はあっと声をあげた。大事なことを忘れていた。慌てて孫兵はなのかに説明する。

「僕、昨日君のご両親にご挨拶にいったんだ!元々は君を探すつもりだったんだけど」
「え、ええー!雀屋に行かれたんですか?」

孫兵はうなずいた。そこで確か孫兵は同級生の友人である数馬を置いてそのままだったのだ。最悪、まだ数馬は自分が帰ってくるのを待っているかもしれない。いや、真面目な彼のことだろう。必ず待っているはずだ。孫兵はなのかの置いたかごを代わりに背負い、ごく当たり前のように手を繋いだ。

「そこで友人をまたせてそのままにしてたんだ。なのかさんいこう!」

なのかはまだ両親が孫兵と共にすんでいることを許していないと思っていたので彼の言葉に不安があったが、決心して孫兵に引かれるままなのかと孫兵は村近くにある雀屋までいくことになったのだ。

なのかにとってしばらくご無沙汰だった村の景色。全く変わっていないその職人通りをあるき、のれんに「雀屋」とかかれた店の前で立ち止まる。なのかの実家であった。なのかはおそるおそるそののれんをくぐると、始めに顔馴染みである薬売りの三反田数馬が目に入った。彼はなぜか雀屋の器具をつかって調合をしている。

数馬はなのかの顔を見て声をあげた。その後続いて孫兵が店内に入り、数馬はたまらず叫ぶ。

「・・・僕のこと忘れてたでしょう!?」
「いやすまん。なのかさんの事で頭がいっぱいでさ・・・その、忘れてたよ!」
「はっきり言わないでよ!もう、僕君たちが帰ってくるまでなのかちゃんのご両親のお手伝いしてたんだよ?」

だから数馬はここで調合をしているのか、と二人は納得した。

「数馬先生と孫兵さんはお知り合いだったんですね」
「うん。数馬とは学園の頃から仲が良かったんだ。数馬はジュンコや僕たちの虫にも、とっても優しいんだよ」

どうやら孫兵は生き物全般に優しく接する事ができる数馬を一目置いているらしく嬉しそうに話す。なら忘れないでよ!っと涙を潤ませながら数馬は言った。

「ごめんごめん」
「もう、それより孫兵となのかちゃん、周りになんか言われてない?」
「え?大蛇の使いなら何回も言われてきたけど」

そうじゃないよ、と数馬は首を振った。彼は周りの変化に気づいているようで少し困ったように微笑んだ。

「なのかちゃんのご両親、あれから喜んじゃって。なのかが嫁に行くって周りに言っちゃってるらしくて・・・よっぽど嬉しかったんだね」

その言葉になのかは驚いた。なぜそんな話になっているのか聞いてみると数馬は昨日孫兵が挨拶に行ったことを彼女に話した。なのかはまさかその挨拶で話が飛躍していることに慌てたが孫兵はいつもと同じ様子でケロリとしていた。

「誤解を解かないと・・・」
「どうして?」

孫兵は首を傾げた。その首元からちらりと顔を覗かせて毒蛇のジュンコもなのかをつぶらな瞳で見つめていた。

「僕はそのつもりだけど」
「え、ほ、ほんとに?」

孫兵の突然の告白になのかは頬をほんのりと赤く染める。そのつもり、それは嫁に行くことを訂正しなくてもいいという事だ。

孫兵はなのかの頭を優しく撫でた。まるで彼の飼うペットにするように。なのかはそのいつもの仕草に孫兵の気持ちを疑った。

「私のこと生き物かなにかに見てない?」
「僕にとっては生き物も君も大事な家族だよ」

生き物と同じ延長に置かれたことがなのかは孫兵らしいなと思う。でもそれが彼にとっての最大の愛情表現なのだ。

孫兵はそのままなのかのおでこに自分の唇を当てた。それはジュンコにもよく行う孫兵の愛情表現だった。とうの昔に孫兵に孫兵に心を奪われているなのかにとって、その所作は十分効き目のあるものだった。

「し、かたないなぁ。じゃあ、このまんまで・・・いっか」

暖かい互いの体温が心地よく、そのまま二人はしばらく大人しく寄り添っていた。

数馬はいつの間にか店の外に出ていた。孫兵がなのかに触れたあたりから気を使って外に出たのだがその気配は二人は全く気づかなかったようだ。数馬は我ながら自分の存在感のなさを痛感した。

「僕がいることわすれちゃってるんだもんな…でもまぁ、二人が幸せならいっか」


しばらくして外出していたなのかの両親に二人は改めて挨拶し、なのかも喧嘩別れしたことを無事に和解した。孫兵にいったように、なのかの母と父は意見を押し返して家を飛び出したことには怒っていないようだった。

実家で夕食を済ませ、カズマとも別れ、夕暮れも近づいた帰り道、二人の家に帰りながらなのかはぼんやりとぼやく。

「なんか不思議ですね。こないだあったばかりなのに昔から一緒にいるみたいです」
「僕もそう思う」

孫兵は辺りも寒くなってきて自分の胸に隠れてしまったジュンコを温めながら答える。

「少し前までの僕は、世間に嫌われてたから。この子達といられないならいっそ一人になってしまおうって決めたんだけど」

孫兵はなのかの顔を見つめて微笑む。そしてそのままなのかの手を取った。

「君と出会って変わったよ。今は昔学園にいた頃を思い出すことが多いんだ。あの頃は竹谷先輩も数馬もいて、友達が沢山いた。あの彩った日々が、君のおかげで戻ってきたんだ。…ねぇ」

孫兵は立ち止まってなのかに向く。その眼差しは真剣だ。そのまま繋いだ手は肩に置いてそのままなのかを引き寄せた。

「愛してるよ」

その熱っぽい艷やかな瞳にじっと見つめられてなのかは言葉がでなかった。しかし孫兵は彼女の気持ちが分かる。こうして見つめ合うだけでお互いの気持ちが通じ合えてしまうのだ。

孫兵の首にくるまっていたジュンコがするりとなのかの首に近づいた。もうすっかりジュンコにも慣れてしまったなのかはそのままじっとしていた。ジュンコの姿を見て孫兵はくすりと微笑む。

「ほら、ジュンコもなのかさんが大好きだって。僕たち、きっと素敵な家族になれるね」
「毒虫だらけの家族かぁ…いいけど」

そのまま孫兵はなのかとジュンコを抱きしめた。周りの目も忘れて彼らはしばらく寄り添いあっていた──。




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