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「なのかさんっ!」
「ま、まごへーさん、たけやさん・・・」
見知った顔になのかはほっと一息つく。孫兵はなのかをみつけてその肩を寄せて彼女になにか怪我がないか心配した。竹谷は倒れている男の方へと行く。
「怪我はっ・・・乱暴はされてないかっ?」
「大丈夫です。なんか、襲われそうだったんですけど、この人急に倒れちゃって・・・大丈夫かしら」
襲ってきた男の身を案じるなのか。呑気な彼女に怪我は無さそうだと安心して、改めて男をみた。近くには小刀があり、なのかを襲おうとしていたのは一目瞭然だ。孫兵は、その腫れた男の顔を見て記憶に引っ掛かる物を感じた。
「この男、仕事でみたな・・・」
「この人、忍者だって。孫兵さんを追っかけてたって・・・」
その言葉にあぁ、と孫兵は手を打つ。
「僕が任務で情報を持って逃げたとき追ってきた奴か。あの時はしつこいんで僕の自慢のかわいい毒虫を投げつけたんだ」
「・・・任務って、孫兵さん、貴方も忍者なんですか?」
孫兵が何気なくもらした言葉に孫兵はあっと口をおおった。隣で言うなよ・・・と竹谷はため息をついていた。自分の口から言った以上、撤回はできない。それになのかなら多言はしないだろうと、開き直った孫兵は正直に話すことにした。
「うん。実は忍者なんだ・・・多分この男もそれ絡みだとおもうんだけど」
「やっぱり。ねぇ、この男の人の顔が腫れてて可哀想なの。私、手当てしてあげたいんだけど・・・」
そんななのかの言葉に孫兵と竹谷は驚く。彼女を襲った敵を助けないなどと、普通は相手が怖くて言えないものだ。優しいのか、以前言ったように危機感がないのか・・・おそらく両方であるなと孫兵は思った。
「君を襲った相手だよ?いいの?」
「事情があったみたいだし、それにこのままは辛いわよ。ね、お願い!」
「うっ・・・そんな顔しないでよ」
他人のために懇願する彼女の潤んだ表情に孫兵もつい許してしまう。竹谷はそんなやり取りを聞いて悟った竹谷は男を背負った。このまま担いで孫兵の家にもどるつもりだ。
「ほら、いこう」
「あ、ちょっと・・・わたしその、腰抜かしちゃって・・・」
立ち上がろうとしてなのかは足腰に力が入れられないことに驚いた。まだ襲われた恐怖の感覚から立ち戻れずにいたらしい。それを見た孫兵は屈んで背中を見せた。
「背負うよ。僕の肩つかめる?」
「・・・うん」
なのかが孫兵の肩を掴んで体を寄せると孫兵は流れるようになのかの身体をおぶった。
「ごめんなさい。孫兵さん・・・」
「なにいってるんだ。君は悪くないだろ」
「そうだけど、重くない?」
「軽いよ」
そういって軽々と山を登っていく孫兵。首筋の真っ白な彼の肌が目に入る。美しいとばかり思っていた孫兵は、頼りがいのある一面もあったのだとなのかは改めて彼が魅力的であると思った。
孫兵の家にたどり着き、毒虫だらけの彼の部屋に男を降ろす。枯れのとなりには犬もいた。
「わんちゃん、大丈夫?蹴られて痛かったでしょ。骨とか折れてないかしら」
「俺がみる限り折れてないみたいだ。こっちの男の方が重症みたいだぜ?」
なのかは改めて連れてきた男の体と顔をみる。あちこち刺されて顔全体腫れており、さらに首にはいつできたかわからないアザがある。
なのかは孫兵に渡す予定だった荷物から虫刺されに聞く軟膏を取り出した。一方は布に薬を薄く伸ばし包帯を巻く湿布薬をつくりだす。
「顔にはこの虫刺されの軟膏を塗ってあげて、首の痣には湿布薬を貼ってあげましょ」
「わかった」
孫兵が大人しく彼女に渡された湿布薬を首につけ包帯を巻く。なのかも腫れた男の顔の箇所に優しく軟膏を塗る。じきに効果が出るはずだと男の意識が覚めるまで、三人は彼の看病をした。
「うぅ、こ、ここは」
しばらく経つと男がゆっくりと起き上がる。孫兵は男が起き上がると彼女や自分を襲うのではととっさに構えたが、隣でなのかは笑顔を男に向けていた。
「大丈夫ですか?急に倒れたので心配しました」
男は孫兵となのかの顔を見てあっと声をあげて懐に手をやる。しかし小刀はすでに竹谷の手によって回収されていた。
「くそ・・・刀が・・・あれ?」
男はふと頬に手をやる。今までじんじんと痛かった痛みがひいている。さらに腫れも心なしか少し引いていた。そしてそのまま首に手をやるとその湿布薬に気づく。
「これは・・・手当てか?」
「はい!あなたの顔、ひどく腫れてましたし・・・私、薬屋なので丁度薬を持ってたから・・・」
「お、お嬢ちゃん・・・俺を手当してくれたのか!?」
襲った相手に助けられたことに驚く男。さらに虫刺されも引いており、男は感謝した。
「ありがとな・・・これで俺の美貌も元通りだ!!」
「それは・・・わかんないですけど」
とっさに目を反らすなのか。隣で睨むのは孫兵だ。
「・・・で、あんた、なんで僕じゃなくて彼女を襲ったんだ?なんであそこで倒れんだ?」
男はその問いただしを聞くなり、なにかを思い出したようでびくびくと怯えたした。そして恐る恐る事情を語り出す。
「助けてくれたから言うけど・・・俺が仕事でお前に顔を刺されて怒ってた時に、孫兵を狙っているという奴から『孫兵の大事なものを殺せ』っていう依頼がきたんだ。俺、それを引き受けたんだよ」
「僕を狙うやつら?誰だろう」
男の気になる言葉に孫兵は反応する。竹谷も同じく、考えているようだ。
「そこで俺はお前のいるこの山に入ってそこにいた薪割りのお嬢ちゃんがお前のものだと思ったんでな。連れ去ったんだが・・・襲おうとしたら急に苦しくなったんだ」
「首にアザがあったな。あれのことか?」
「そう・・・後ろから首が締め付けられたように苦しくて・・・視界が眩んだ瞬間、大きな・・・大きな蛇が俺を襲ったんだ!!」
恐ろしい!と男はうずくまる。なのかはしっかりしてください、と肩をぽんぽんと叩いた。
「大蛇か・・・それは幻だろ?」
「わからない・・・でも確かに浮かんだんだ。白い大きな蛇が俺を睨んでいた」
そのまま黙りこんでしまった男の様子からして、嘘は言っていないように見えた。孫兵はその言葉を聞いて少し興味が湧く。大蛇などという妖怪や化け物の存在感は信じてはいないが、もし白い蛇などがいたらさぞや美しいだろうなとぼんやり考えた。
「でも、もうあんた達に関わるのはやめるよ・・・伊賀崎孫兵、お前は化け物使いだ。きっとそのうちこの山まで大蛇の迎えがくるぞ」
「・・・」
孫兵はその言葉を黙って聞いている。彼にとって化け物使いなどという言葉はこの山に来て幾度となく言われ蔑まれてきた。今さらここで怒ったところでなにも変わらない。しかし隣にいた彼女は違った。
「もう、あなたまでそんなこと言って。孫兵さんはあなたに湿布薬を貼ってくれたのよ?」
「わ、わかったよ。嬢ちゃんがいうならもう言わねぇよ。すまなかった」
男は素直に孫兵に頭を下げる。その感覚が不思議で孫兵は曖昧な返事を返した。
「もう悪いことはしないよ。手当してくれてありがとな。あばよ」
男は謎の組織に頼まれた任務をするつもりがなくなったようで、大人しく孫兵の部屋を出ていった。そのまま山を降りる姿を見送り、なのかはため息をついた。
「大丈夫みたい。・・・孫兵さん?」
「どうした?孫兵・・・」
「あんな風に人に謝られたの・・・はじめてだ」
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