きっかけの縁1



あやめの家族の事で伝えなければならないことがある。土井は真剣な表情のままあやめときり丸をみつめた。あやめは日頃気になっていた家族の様子を知りたくてだまって聞いている。

「君の弟、もしかして草之助くんというんじゃないか?」

その名前を聞いてあやめは驚く。土井のいう通り、あやめの弟は草之助という。なぜ土井があやめの弟の名前を知っているのか気になった。あやめは弟の名前を聞いて気持ちが焦ってしまう。

「なんでご存じなんですか?」
「君の家族の事は心配だったから、私が調べていたんだ。最近君の住んでいた西の村に行ってみたが・・・」

土井は腕を組む。すこし難しそうな表情あやめに見せた。

「村に草之助くんはいなかったんだ。彼は一ヶ月前に村を出ていったらしい」
「そんな!草之助が・・・!」

姿を消してしまったと思ったあやめは真っ青になって顔を覆う。心配したきり丸がそっとあやめの肩を寄せる。あやめはまだ草之助は村にいるのだろうと思っていた。土井は続きを語ろうとする。

「その後も草之助くんの行方を調査しているとみつけたんだ。彼はいまこの町からすこし離れたノウタケ峠にある代官屋敷で下働きとして暮らしているよ」
「草之助は・・・無事なんですか?」

あやめは顔をあげる。土井が静かにうなずいた。あやめはその言葉を聞いて安心した。代官屋敷にいるなら暮らしは困っていないはずだ。賢い草之助のことだろう。きっとうまく話を聞かせて出稼ぎにいったのだろうと思った。土井はまだ続きがあるときり丸をみる。

「その代官屋敷に行ってほしいんだ。きり丸」
「ええ?俺がですか?そらまたなんでです?」

あやめと草之助の話だと思っていたきり丸は突然自分の名前を呼ばれて首をかしげる。あやめもきり丸には関係のない話だと思っていたので不思議そうにしている。

「そのノウタケ峠の代官屋敷の近くに悪党が出てきたんだ」
「ふーん…悪党っすか。この時代、珍しい話でもないでしょ」

悪党とは統治の役割をする領主のやり方に不満を持つ者たちが集まり、勢力を高め下剋上を行う集団のことだ。代官屋敷が近くにあるので、恐らく悪党はその代官屋敷を攻撃するつもりだろう。そこまで考えてきり丸はあっと声を上げた。

「そうか、草之助くんが危ない」
「え?何?なんのこと?」

あやめがきり丸の言葉に反応する。心配そうにしているあやめをみてきり丸は出来るだけ冷静に説明する。

「いいか?その悪党が代官に不満を持ってたとしたら代官がいる屋敷を攻撃するかもしれない。そうしたら屋敷で下働きしてる草之助くんだって襲われるかもしれないんだ」

きり丸の言葉にあやめは血の気が引いていくようだった。あやめは今すぐにでも草之助に会いに行きたかったがそうもいかない。途方にくれてきり丸にどうしよう、とつぶやく。きり丸は土井が自分に頼みたいこととは恐らくこの事であろうと思った。しかし土井が気になることは他にもある。

「その悪党、屋敷の動きをすべて把握しているかのような動きをするらしい。何故屋敷の情報が悪党にわかるのか…きり丸、お前はそれを調べてきてほしい」
「いいですけど、タダ働きってのがなぁ…イマイチやる気が出ないっていうか」

きり丸は口を尖らせそっぽを向く。土井はいつものやつがはじまったと思い、そっけなくぼやく。

「そうだな。代官屋敷を守ったら大名に御礼されると思うぞ。それもたんまりだ」
「お礼!?それは聞き捨てならねえな」

一瞬目にお宝がうつり込んだきり丸。先程とは打って変わって態度を変えて気合いをいれる。その様子をあやめはいつものきり丸の悪い癖がでてきたとにらんだ。

「もう、お礼ばっかり考えてないで草之助のことも考えてよ」
「おっと、わるいわるい。大丈夫だよ。忘れないって」

あやめの弟を無事に保護してその悪党のいざこざをおさめればあやめも安心するしお礼だってもらえるかもしれない。そう考えるときり丸はにやにやが止まらなかった。
実のところ、土井は代官屋敷の一件は調査していくうちに大方予想はついていた。しかし真相は以前からあやめのことは自分が守ると言っていたきり丸にこそこの事件は伝えねばならないと思ったのだ。

「そうと決まればそのノウタケ峠の代官屋敷まで様子見しないとな」
「いいけど、どうやって様子見するのよ」

あやめの疑問にきり丸はゆっくりと振り向いた。その意味深なほくそ笑みにあやめは嫌な予感がした。



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