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「ここが例の代官屋敷かぁ〜!」

数日後、土井から代官屋敷の調査を頼まれたきり丸は、同じく代官屋敷で働いているあやめと共にノウタケ峠を越えて目的地の代官屋敷にたどり着いた。広い敷地をきれいなしっくいの塀でしっかりと固められており、大きな門が二人の前にそびえたっている。

「ここに草之助が・・・」

きり丸はちらりとあやめをみると久しぶりの弟の再会にすこし緊張しているように見えた。きり丸が門を叩くと少年の声の返事が返ってきた。足音がこちらに近づいてくる。その声と返事の仕方にあやめは聞き覚えがある。まさか、とあやめは門の前にたつきり丸とならんでその門に近づいた。
重い門がゆっくりと開かれる。そこから現れたのは袴をはいていない下働き姿の少年だった。その顔立ちはあやめとそっくりであるときり丸は思った。

「お待たせしました・・・あっ」

少年はきり丸に挨拶して隣をみると見知った姉がいることにとても驚いていた。目を見開きちいさく「ねえちゃん?」と呟いた。あやめはその言葉に思わず草之助を抱き締める。

「わ!やっぱりねえちゃんだ!どうしてこんなところにいるの?」

草之助はなぜ生き別れたはずの姉が代官屋敷に来たのかわからない。あやめはすぐに離れて草之助に事情を説明した。二人は土井の紹介ということで悪党に狙われる代官屋敷の調査と護衛を承ったことになっている。事情を聞いて朝から上司に話を聞いていた草之助はすぐに思い当たった。

「話はお聞きしております。まさか姉も関係者だったなんて驚きました。ご案内いたしますのでこちらへどうぞ」

草之助はそのまま二人を屋敷に招き入れ、この屋敷の主である代官のいる間へと案内される。障子をひらき、草之助は頭を下げた。

「昌鷹様、客人をおよびいたしました。忍術学園の土井様のご紹介のものです」

昌鷹と呼ばれた男は大柄の男だが柔和そうな顔つきをしたいかにも武士のような姿であるがどこか親近感のある雰囲気の男だった。彼は書き物を終わらせた所で、隣には無精髭を生やした昌鷹よりもひとまわり小さい男が彼よりもはでな着物を着込み鎮座していた。

「お待ちしておりました。文で話を聞いております。きり丸どの、そちらの女性もどうぞお入りください」

きり丸が先に入り昌鷹の前に座る。あやめもはじめてみる代官にどんな姿でいればいいのかわからず、とりあえずきり丸の隣に座った。きり丸は代官相手にもいつもの様子を崩さず普段通りに話す。

「あんたがここの代官の昌鷹さんだよな。改めて、土井の教え子のきり丸といいます。いまはフリーで忍者やってるふつーのアルバイターってとこっすかね」
「なにその紹介・・・。あ、あの、そこの草之助の姉のあやめです。きり丸とはいろんな縁があって一緒にいます」

二人の挨拶を聞いて眉をひそめたのは昌鷹の隣の男。昌鷹は二人の紹介に微笑み一言、楽にしなさいといった。

「昌鷹どの、代官とあろうものがそんな態度では・・・」
「いいではないか海老太郎。私は変に気を使われるのはいやだからな」

昌鷹の言葉にきり丸はにんまりとする。彼は腕をくんで右手で人差し指を作りつり上がった瞳を細くした。

「昌鷹さん、俺は土井先生の知り合いと言えど紹介料はちゃーんともらうぜ?安くまけとくからさ」
「さすが鬼銭のきり丸だな。わかりました。きちんと依頼料は支払う。その仕事の話だか」

昌鷹が目配せすると隣にいた海老太郎が前に出る。彼はきり丸に相談するのはあまり乗り気ではなく渋々といった様子で事情を語り始める。

「ここ数日前からノウタケ砦に悪党がはびこりまして、この辺りの出城などを攻撃し前々から注視してはいたのだが、最近やつらは徐々に勢力を延ばし、我らの代官屋敷にまで戦をしかけるような挑発をしている。町の者も怯えるなか、我々は一刻も早く領主としてその悪党をこらしめなければならないのだ」

そこまで説明していぶかしげに海老太郎はきり丸をにらむ。

「それがたかが小僧の忍者一人で手におえるとは思わんがな。お前、なにができる?」

何ができるかと聞かれたきり丸はいつもの飄々とした物言いで疑ってくる海老太郎にかつての仕事を説明する。

「子守りと筆作り、弁当売りとか、なんでもできますよ」
「お前私をバカにしてるのか!?」
「わっ、きり丸っ・・・」

案の定きり丸の態度に憤怒し怒鳴って立ち上がった海老太郎。その途端、胸元から一枚の銭を落とし金音を鳴らして落ちた。瞬間きり丸が目にも止まらない速さでその銭の元へ飛び込み拾い上げた。

「やっりー!銭だ!」
「あっ、貴様それは私のおとした金だ!返せ!」
「やだー!」

お互い睨み合うきり丸と海老太郎。それを見た昌鷹はあきれたようにしかしやさしく微笑む。

「それは俺の金ということにしてくれ。海老太郎、そんなに怒るんじゃない」
「はあ。まったく意地きたない男だ」

昌鷹の言葉に一歩退いて海老太郎は昌鷹の元へもどる。きり丸には反省する様子は一切見られなかった。

「へっ、俺にとっては子守りも筆作りも弁当売りも、この仕事だって全部全力だ。おなじだぜ」
「うむ。その姿勢はよいな。さすが半助どのの教え子だ。悪党の調査は君におねがいする。これは屋敷の見取り図だ。草之助、このしばらくすむ二人の部屋を案内してくれ」

昌鷹は先程まで書いていた見取り図の絵を折り込みきり丸に渡す。
後ろで待っていた草之助が昌鷹に呼ばれて返事をし、頭を下げる。二人は立ち上がり草之助の案内についていった。三人が立ち去り二人きりになって静かになった部屋で、海老太郎は納得のいかない様子で昌鷹に尋ねる。

「よいのですか昌鷹さま。あんな無礼者のへっぽこ忍者など屋敷において・・・」
「ふふ、見所があるではないか。どうなるか楽しみだな?海老太郎?」

どこか楽しんでいるようにまっすぐ海老太郎をみる昌鷹。その眼差しは一瞬こちらを見透かすようにも見えて海老太郎はどきりとした。しかしそれはすぐいつもの穏やかな笑みにもどる。気のせいかと海老太郎は思い直した。そして人知れず思うのだった。

(あのへっぽこ守銭奴男に私の正体などわかるはずもなかろう・・・)

隣にいる昌鷹の横顔をみる。そして心でにやりと、不気味に笑うのだった。



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