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代官の昌鷹にあやめが下働きの手伝いがしたいというと快諾してもらい、あやめは代官屋敷の手伝いとして掃除や洗濯料理などの手伝いを行うことになった。あやめにとってきり丸以外に働き手がいる職場ははじめてで、草之助含め、おなじ場所にたくさん人がいる風景に圧巻した。

そこで数日、簡単な仕事から始めるようになったあやめ。まずはなれることからと草之助に言われ、素直に仕事に一所懸命とりくんでいる。昌鷹もそんなあやめの姿を見守っており、恵まれた環境であやめは暮らしていると感じた。しかしその間にきり丸は悪党の調査をしており、帰ってくるのは朝の起きる間に一瞬あやめに顔を覗かせる程度になっていた。

あやめは朝から廊下の掃除をしながら早朝早々に出ていったきり丸の背中姿を思い出す。すると手前から草之助と一人の女性がやってきた。弟の顔に笑顔を見せて挨拶する。

「おはよ、草之助・・・と・・・」

隣の女性は誰だろうか。あやめはまだ来て数日なので他の屋敷の働き手の顔は知らない。すると草之助が紹介してくれた。

「おはようございます。ねーちゃんにも紹介しときたくてつれてきたんだ。この人は丸子さん。今日から働く新人さんなんです」

丸子と呼ばれた女性は黒く艶やかな髪を腰の辺りで結っており、切れ長な瞳と真っ赤な紅が印象的な美しい女性だった。丸子は小さくおじぎをして微笑んだ。

「はじめまして。私は今日からこちらの館で下女をさせていただきます。丸子です。これからよろしくお願いしますね」
「よろしくおねがいします。あやめです。私もここに来たばかりの、ただの手伝いですが・・・」

あやめも同じく頭を下げる。涼やかな笑みを丸子はむけた。

「そんなことないです、仲良くしてくださいね」

あやめは少し照れてしまった。なぜなら近い年の女の子と話すのなんて初めてであった。どんなふうに接していいのかわからずだまって丸子をみる。かわらず笑みをうかべている彼女にどこかの面影を感じた。しかしそれがなんなのかを考える前に、彼女は去っていく。草之助があやめに別れ際に一言言った。

「丸子さん、ちょっと人見知りだからねーちゃん仲良くしてあげてね。じゃ」

そのまま草之助が走り去る。あやめは呆然とその姿をみていた。

それからさらに数日後。あやめと丸子はお互い屋敷の生活の日の浅いことから同じ仕事を任されることが多かった。お互い一所懸命に仕事を協力しあっていくうちに話すことも多くなり、笑顔がでてくることも増えた。初めての女の子友達にあやめもなんとも言えない気持ちになっていく。

その夜、仕事を終えたあやめときり丸の部屋では照明が灯るなか、きり丸が部屋にいてなにやら書き物をしている。あやめは最近あったことをうきうきとした様子できり丸に話す。

「最近、私友達ができたの。丸子さんっていう人なんだけど・・・きり丸あったことある?」
「俺はあんまり屋敷にはいないからな。わかんないな」
「そうなの?とっても優しい人でね、いつもお話するのよ」
「ふうん・・・」

きり丸はあやめには目を向けずだまって書き物に集中している。その関心の無さそうな姿に少しあやめはムッとしてしまう。

「話聞いてる?」
「聞いてる。で、そのなんとかって子がなに」
「なによその言い方。いーわよ興味ないなら聞き返さなくて!」
「へいへい。俺も忙しいんでね。お前の相手よりもやることがあるから」

その物言いにあやめはさらにカチンと来てしまう。たしかに自分と比べればきり丸の方が断然危険な仕事をしておりやることも多いだろうが、これぐらいの話には付き合ってくれたっていいのではないかと不満だ。丸子ならばどんな平凡な話でも優しく返してくれる。男という生き物は女の世間話などどうでもいいのだろうか。

「きり丸のばか」
「いきなりばかってなんだ。ったく・・・じゃ、俺また行くから」

書き物を終えたきり丸はそれをそのまま懐に入れて立ち上がる。彼には仕事の終わる時間などないらしい。あやめははぶてたままこちらに向かずにだまってそっぽむいている。

「最近はさみーから風邪引くなよ」

一言言ってそのまま部屋を出ていくきり丸に、あやめは勝手にどこでもいってしまえ、と心で悪態をついた。

その翌日、朝飯の支度をするために厨房でたすきをつけている時、同じく支度をするためにやってきた丸子に挨拶をする。

「おはよう、あやめ」
「あ、丸子。おはよう・・・」

少し曇った様子のあやめの表情をみて丸子は小さく首をかしげる。どうしたの?と心配そうにあやめを見た。

「うん。一緒にすんでるやつと昨日喧嘩したの」
「まあ、そうなの?どんなこと?」

ふたりは大量の食材を切りながら話す。あやめはすこし口をとがらせて丸子に喧嘩の原因を話した。

「そいつ、私の話とか全然聞いてくれないのよね。どーでもよさそうっていうか・・・私の相手が面倒なのもよくわかるけど、一緒に住んでるんだから話ぐらい聞いたっていいのに」
「男の人ってそういうものよね」

山菜を切りながら、でも・・・とあやめは声の調子を落としうなだれる。

「でも、きり丸の方が危険な仕事してるから・・・私なんかといても邪魔なだけなのかも。わがままは私で、ほんとはきり丸に気を使わなきゃいけないのは、私なのにね」

そんなふうに呟くあやめを見て丸子は励ますようにあやめの肩に軽くふれた。

「きっとそんなことないわよ。その人素直じゃないのよ。帰っていつもの貴女をみるだけでも安心するものだとおもうわ。そんなに気にしないの!」
「そっかな…うん。ありがと丸子」

そうして丸子に励まされてすこし元気が出た。気分を変えようとあやめは仕事に集中する。仕事が終わる頃には昼過ぎになっていた。



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