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椿亭での行方不明者が作兵衛の探している忍者二人。しかも二人は極度の方向音痴だとすると今もきっとどこかで迷っているはずだ。だれか目撃者がいれば伝っていけるのだが・・・そんなことを考えていると廊下から見知った人物が現れた。
「庄左ヱ門さん!」
「あっ、さくらさん、よかった。君に伝えたいことがあって。・・・あれ、そちらにいらっしゃるのは」
廊下を歩いてきていたのは炭屋黒木屋の店主、庄左ヱ門だった。彼はさくらに伝えねばならない一件を抱えていた。しかし、彼女の隣にいた男性をみて庄左ヱ門は驚いた。
「富松先輩ではないですか?」
「おぉ!庄左ヱ門!この町にいたのか?」
二人は忍術学園の出身であるので、顔馴染みなのだろう。お互い久しぶりに顔を合わせたらしい二人は嬉しそうに挨拶をした。そして庄左ヱ門は言う。
「富松先輩、あなたがなぜこの椿亭にいるのか。僕には今わかりました」
「おめぇ、そういう一面相変わらずだな」
庄左ヱ門はいつものように落ち着いた様子で語り始めた。
「僕がここに来たのは、さくらさんに宿泊者が行方不明になったことについてです。僕が定期的に炭を運んでるお客様に仁地寺があるんだけど、今日そこへ行くと学園の先輩であるお二方にあったんだ。聞けばその先輩方は任務の帰りでこの町によって宿に泊まったらしいんだけど、物資の買い物の途中で迷ってしまったらくて、偶然あった仁地寺で居候してるらしいんだ」
「え!ではお客様は今仁智寺にいらっしゃるんですね!」
「庄左ヱ門、もしかしてその二人は!」
作兵衛は庄左ヱ門に食いぎみに寄る。そんな作兵衛にも動じず彼は答えた。
「はい。神崎先輩と次屋先輩です」
「でかした庄左ヱ門!たすかったぜ!」
今すぐにでも二人を連れ戻しにいきたい作兵衛は立ち上がる。しかし庄左ヱ門は申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません、僕はこれから炭屋の仕事があって、ご案内したいんですが・・・」
どうやら庄左ヱ門は仕事があるらしく仁地寺への案内は難しいようだった。さくらは作兵衛に椿亭の修補をしてもらったことにどうしてもお礼がしたかった。それに行方不明だった宿泊者の居場所がわかったのだ。間宮に事情を話せば作兵衛を案内できると思ったのだ。
「じゃあ、わたしがご案内します。富松さん、いいでしょうか?」
「え?さくらさんが?・・・すまねえな。頼む」
急いで間宮に報告すると彼はすぐに了承した。そのまま二人は仁地寺へと向かう。その道中、二人は仲良く話していた。
「なあ、さくらさんは庄左ヱ門と仲がいいの?」
「え?ま、まあ・・・庄左ヱ門さんにはとてもお世話になってますから・・・」
「そっか。あいつはガキの頃から妙に冷静だったな。俺が委員会で焦ってると『富松先輩落ち着いてください』なんて言いやがったこともあったな!」
「ふふ、庄左ヱ門さんらしいですね」
作兵衛との話は楽しく、さくらはついつい夢中になってしまう。話を聞いていて歩いているとさくらは地面に刺さっていた石に足をつまづかせた。もつれた足をもとに戻せず、倒れそうになると作兵衛がさくらの肩をつかんだ。
「あぶねえ。大丈夫か?」
「すみません。ちょっと夢中になっちゃってよくみてなかったわ」
さくらの言葉に作兵衛ははっとして真顔になる。
「ごめん。速かったの気づかなかったな。君に合わせるから。あっじゃあ手とか繋ぐか?ってダメだよなぁ!あー、女性になにいってんだ俺はっ!」
女性と歩くことに慣れてない作兵衛は、気遣いや責任感も合間って挙動不審になっていた。
「大丈夫ですよ。富松さんって本当に面倒見がいいんですね」
「そのせいでこんな役回りだけどな・・・」
そんな会話をしつつ、二人は仁地寺へとたどり着く。ちょうど二人が階段を登るとき鐘の音が聞こえた。そのあと男性の大きな声が聞こえる。
『俺たちの城にとどけ!この鐘の音ー!!』
謎の雄叫びにきょとんとしているさくら。作兵衛はその声を聞いて目を輝かせた。
「左門の声だ!さくらさん、庄左ヱ門のいった通り、俺の探している奴はここにいる!」
作兵衛は軽快に階段をのぼりきり仁地寺の戸を叩くとまた男の声がした。作兵衛も名乗ると、その声を聞いた二人は門を開けた。
「作兵衛!どうしてお前がここにいるんだ?」「城にいたんじゃないの?」
門から顔を出したのは作兵衛と同じような背格好の男二人。作兵衛はやっと見つけた同僚に会えたことが嬉しくて二人の肩を抱いた。
「左門、三之助!お前たちを探すのに苦労したぞ!!」
きれいに束ねられた髪を揺らして左門と呼ばれた男は眉を下げて手を合わせた。
「すまない。また僕は迷ってしまったんだ。任務の帰りに宿に泊まったのはいいんだが、買い物の途中で町から離れてしまってだな・・・」
「そうそう。数日さ迷ってたら今日このお寺に着いたんだ。んでこの仁地寺の和尚さんがしばらくいてもいいって」
買い物の途中で町を外れるのもすごいが数日この辺りをさ迷うなんてことも普通ならできないな、と話を聞いていたさくらは思った。
どうやら左門の言っていた極度の方向音痴は本物らしい。
三之助が遅れて階段を上ってやってきたさくらをみて首をかしげる。
「この方はどなた?」
「お前たちが泊まってた椿亭の女中のさくらさんだよ!お前たちを探すために手伝ってくれたんだ!礼を言え!」
「おぉ、そうだったんですか!いやーすみません。ありがとうございました」
「作兵衛、女の人と来たのかぁ。いい思いしてるな」
こつんと作兵衛は三之助のあたまを軽くこついた。
「ばかなこといってんじゃねえ。お前らが消えている間、城はお前たちが抜け忍になったと騒いでんだぞ?ちなみに俺がお前たちを探して始末してこいって命じられてんだ!」
始末、という物騒な言葉に二人は戸惑う。
「え?じゃあ作兵衛は俺たちをやっつけにきたのかっ!?」
「なんだって!僕たちは友達じゃないかー!」
慌てた二人は始末しに来たと言う作兵衛を説得しようとする。そんな二人をみて作兵衛は大きなため息をついた。
「ちがうっての。たしかにお頭にお前達を始末してこいって言われたけど、俺はお前達が忍者隊を逃げた訳じゃないってのは知ってたからな。どーせ道にでも迷ったんだろと思って迎えに来たんだ。お頭にはよくお願いするから、お前ら二人も真剣に謝れよ!」
どこまでも責任感がある作兵衛にさくらはまたしても感心した。普通なら人のためにそこまでの事はなかなかできないだろう。二人にもそれは伝わったようで、作兵衛に素直に感謝していた。
「さくべー!お前っていいやつだな」
「持つべきものは作兵衛だな!」
ひしっと抱きつく二人に作兵衛は苦笑いする。さくらも無事に作兵衛の仲間が見つかったことと、椿亭の宿泊行方不明者の一件も片付いたことに安心した。
「よかったですね。富松さん」
「あぁ。君のおかげだよ。ありがとな」
富松はさくらを向ける。無事に会えた三人は仲良く手を繋いで歩いていた・・・ように見えたがあとから聞けば左門と三之助がまた迷子にならないように作兵衛が必死で手を繋いでいたという。
──その後左門と三之助を引き連れた作兵衛は椿亭で事情を説明し、間宮も行方不明者が見つかったことに安心していた。
三人は一刻も早く彼の勤める城の忍者隊に報告をしたいとのことで、椿亭にもどるとそのまま町を出ていってしまった。夕方、用事を済ませた庄左ヱ門が椿亭に顔を出した。
「さくらさん、富松先輩と無事に仁地寺にいけた?」
「はい。そこで神崎さんと次屋さんにお会いしましたよ」
その後を聞いた庄左ヱ門はほっとしたようだった。そしてふっと庄左ヱ門は笑う。その様子にさくらは首をかしげた。
「どうしたんです?」
「いや・・・先輩方も、学園にいたころと変わんないなって。学園にいたときから富松先輩は二人を引き連れてたんだよ」
そういえば、似たようなことを作兵衛もいっていたなとさくらは思い出す。
「富松さんも、同じことをおっしゃってました。庄左ヱ門さんは昔から冷静だったって」
庄左ヱ門はその言葉にすこし照れたように視線をそらした。富松は庄左ヱ門の幼い頃をみているので、それをさくらに知られるのが彼にとって妙に気恥ずかしかった。
「あはは。まあね、そう言われてたときもあったかなあ。でもよかったよ。大事にならなくて。忍者の世界は、特に抜け忍になると大変だからね」
「庄左ヱ門さんもどこかの忍者隊だったりするんでしょうか?」
好奇心からわいた何気ない質問に庄左ヱ門はそうだな、となにか言いたげにしたが、しかし首をふって答えようとしなかった。
「内緒。かな・・・」
「気になるなあ」
「僕のこと知っちゃったら、さくらさんを椿亭から引き離して、どこかへ連れ去っちゃうよ?」
「・・・え?」
意味深なことを言い放し、そのまま聞き返す間もなく庄左ヱ門は背中を見せてじゃあね、と一言言って立ち去っていった。残されたさくらはたったさっき言われた一言を思い出して意味を考えてみたが、忍者の世界をしらないさくらにはよくわからなかった。
「忍者って、大変な規則の中でなりたってるのねえ」
ぼんやりと呟いたさくら。辺りは茜色の夕暮れ時、林を通して冷えきったさわやかな初夏の風が心地よく椿亭に入ってくる。さくらは明日のための準備をするために、間宮の元へと向かい歩き出す。
平和な椿亭に起きた、ちょっとした出来事の話である。
鐘の音響け、あいつの元に ―完―
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