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町の空はすでに夕暮れ。小梅と竹谷はあれからさまざまな場所を巡ったが、竹谷の探している猫はいなかった。
しかし、それは小梅のもつとらきちを除いてだ。竹谷は小梅の目の前に抱かれているとらきちを、殿様の猫だと確信した。
そしてずっと聞こうとしていた小梅の正体についても、吹き矢や男に教われても動じない姿にもしかしたら小梅はD城で猫を盗んだ本人かもしれないと竹谷は考えた。そう、彼女の素性は忍者であると思ったのだ。
「はぁ・・・私、竹谷さんの役に立てなかったなぁ」
さすがに夜になると竹谷の猫の捜索は難しいと思った小梅。ふと顔をあげると真っ赤な夕日と、男との待ち合わせ場所であろう町一番の大きな橋の前に来ていた。その橋を見て小梅は男との約束を今思い出した。この猫の飼い主であろう男がやって来るはずだ。小梅は辺りを世話しなく見回す。竹谷はその様子を不思議そうに見ていた。
「小梅さん?どうしたんだ?」
「そろそろこの子の飼い主の人が・・・あっ」
小梅は遠くから町にいくときに出会った男をみつけた。しかし、その姿を見て思わず一歩下がる。男の手には短刀があり、小梅と竹谷を見据えていた。竹谷はすぐに小梅のそばに寄る。
「あ、あの!猫を返しに来たんですが・・・なぜそんなものを」
「助かったぜ。俺はその猫のお陰で追われていたがお前立ちに渡して追っ払ってくれたみたいだな」
竹谷はその男の様子を瞬時に見破る。男は刀の他に胸になにかを隠し持っているようだった。
そのただならぬ男の発言の様子に小梅も身構える。
「俺は仕事をしてるんだ。その猫に関わった人間はみんな口止めするんだ。この短刀は、そのためだ!」
男は素早く短刀を手裏剣の様にうつ。避けきれないと竹谷はとっさに小梅を覆って庇い、背中を向けた。その短刀がぶすりと竹谷の方に突き刺さる。
「っ!!忍者か・・・」
真っ青になって小梅は屈んだ竹谷をみる。短刀は深くは刺さっていないものの、彼の方にはじわりと血がにじんでいた。竹谷は平気だ、と唸るように言う。
「お前が殿様の猫を盗んだ忍者だな?」
「なんだ小僧。俺の事を知ってるのか?」
夕方の橋の前、人通りもない。男はそのまま小梅の元へと近づく。事情が把握しきれない小梅だが自分を守ってくれた竹谷のために、抵抗するためくないを取りだし、男を睨み付けた。
「近づかないで!とらきちを逃がすわよ」
「お前も忍者だったのか。人選を間違えたな・・・だが俺は引かんぞ。猫が死のうがお前が死のうが俺はその密書がほしいだけだからな」
「小梅さん!逃げろ!」
竹谷が叫ぶと小梅の胸のなかにいるとらきちが突然世話しなくなる。今まで大人しかったのでいきなり動き出したとらきちに小梅は戸惑った。とらきちは素早い動きで橋の手すりにひょいひょいと飛び乗った。一番慌てたのは襲ってきた男の方だ。
「おぉっと、逃げるなよ・・・」
男は密書を持っている猫が逃れてはいけないと恐る恐る猫に近寄る。じりじりととらきちとの差が縮まって男の目の前に猫がきた。猫の方はのんびりとにゃあ鳴いた。ここは高く大きな橋。下の方はほどほどに流れのある川が流れている。ちょうどとらきちの後ろにはその川に小さな浅瀬ができてきた。
男の手が延びてくる瞬間猫はその手をするりと抜け出し、その下にある浅瀬に飛び降りた。男はあっとその猫を捕まえようと身を乗り出した。
『あっ』
小梅と竹谷は声を揃えて声をあげた。男はその瞬間、身を乗り出したせいで勢い余ってそのまま落ちてしまった。下の方でどぼんという音が響く。二人は慌ててその下覗き込む。とらきちもその様子を不思議そうに眺めていた。男はなすすべもなくむなしくそのまま流れて姿を消していった。
「あれ〜!」
「流れていっちゃったわ」
「あぁ・・・」
「あっ、竹谷さん。肩!」
とらきちはそこにねころんで夕日に当たっている。竹谷の肩には先ほど刺さった短刀を抜いており、先程より出血している。小梅はそれをみて急いで携帯している包帯をとりだし止血を施した。
「手慣れてるんだね」
「えっ!?ま、まあ・・・教えてもらって」
「それにさっきのくないも。あれは小梅さんの?」
竹谷は神妙な顔で聞いてくる。小梅もここまでみられてしまっては言い訳は苦しいと正直に自分の素性を話すことにした。
「はい。わたしも忍者、目指しているんです。まさかあの子が殿様の猫だったなんて。しかも密書を持ってるって。どうして竹谷さんはそれを知ってたんでしょうか?」
竹谷は小梅に手当てしてもらった肩に触れて立ち上がる。彼はおもむろに荷物からかぎ縄をとりだした。それをみて小梅は驚く。竹谷はそのかぎの部分を手すりにかける。にこりと明るい笑顔をみせた。
「俺もおんなじだから」
そう言って彼はその縄を浅瀬に降ろしそれを伝って降りる。そのままとらきちを保護した。とらきちは起こったことなど理解していないようでいつものように丸い瞳を向けて竹谷の胸のなかに収まった。
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