トメちゃんとわたし1
食満留三郎は休日である忍術学園を出て近くの賑わいのある町へでていた。 彼が抱えているのはいくつかの桶と鉄コテなど、彼の所属する用具委員で使う物ばかりだ。
人通りの多い市場を抜けて少し落ち着きのある職人通りへ出る。その通りのある一角に彼がよく利用する 金物屋があった。留三郎は声をかけようとすると中から華奢な体つきの女性があらわれる。わかばである。
「あら、トメちゃん。またきてくれたんだ〜」
「あぁ。いつもの備品修理をお願いしに来たんだ」
このわかばに出会ったのは留三郎がまだ忍術学園に来て間もないころ、当時の先輩につれられてやってきたのがきっかけだ。
またそのころの留三郎は女性よりも体が小さく、わかばのほうが背が高かったが、6年たった今では彼も力も強くなり体も大きくなった。
しかしそれでも わかばは当時から呼んでいる「トメちゃん」を変えることはなく、いつものように親しみを込めて呼んでいる。
この金物屋は店内の奥に鍛冶屋もあり、男たちが奥では鉄をつかって製品を作っている。わかばはおもにお客とのやりとりであったり経費売り上げの管理、事務などを行っているいわば看板娘であった。
「そうなの。学校のお勉強がんばってるのね〜」
「まあな。わかばも昔とかわらないな・・・」
留三郎からみてわかばは・・・というより誰が見ても彼女は自分のペースを崩さずのんびりとしており、言葉を聞いてかみ砕き呑み込むまでが時間がかかる。 それが考えながら動くことの多い留三郎にとって彼女のペースはあぶなっかしく目が離させない存在なのだった。
留三郎は抱えていた荷物の一つを取り出しわかばに見せる。
「この桶の鉄ひごが歪んでしまってな。あとは壁の修補につかう鉄コテもすこしがたついてしまって。うちの学校には製鉄所はないから直せんのだ」
「そうなの。そうねぇ・・・」
わかばは少し困ったような顔をした。いつもなら快く引き受けてくれるのでその反応留三郎はどうしたのかと聞いてみた。
「あのね、今うち燃料不足なの」
「燃料不足?」
鍛冶屋で燃料と言えば鉄を溶かすために使う火のことを思い浮かべる。その燃料がないということは火をつける炭や薪が不足しているということだ。 その変化に留三郎は違和感を感じた。
「それでね、さらにお城からたくさん鋤や鍬を作ってくれって依頼が来て他の仕事が受けれないのよ」
ごめんね、とわかばはゆっくりと頭を下げて謝る。おそらく鍬や鋤をつくるので材料や燃料が底を尽きるのだろう。
しかし留三郎は彼女の情報から とある心配が浮かんだ。念のためにどこの城の注文か聞いてみる。
わかばは持っていた注文票を見て留三郎に伝えた。
「えーっと、稗田八方斎様って書いてあるわ。冷えた八宝菜って・・・おもしろい名前ねえ」
くすりとほほ笑むわかばに留三郎はまさかの人物の名前に聞き捨てならないと注文票をのぞき込む。たしかに依頼者は稗田八方斎になっていた。
稗田八方斎といえば言わずと知れた戦好きの悪い城、ドクタケ城の忍者隊の首領である。そのドクタケが鍬や鋤を集めておりさらに町は炭不足ということは この燃料不足の裏には彼らが絡んでいるかもしれないと思った。
留三郎はすぐにそのことをわかばに伝えたかったがそれはできない。なぜなら彼は学校で住み込みで勉強している普通の学生ということになっているのだ。
どうしようかと思っているとわかばはその注文書をみて思い出した。
「その方に今日、現物の見本を届けなきゃいけないのよ。私が行かなきゃいけないんだけど、お城ってはじめてだからドキドキするわ〜」
「なんだと?本当か?」
わかばは本日見本の鍬と鋤をもってドクタケ城へいく。それを聞いて留三郎はますます彼女一人では行かせられないと思った。それに新たな戦の準備の可能性もあるなら 調査も必要だ。用具の修補どころではないと食満は思った。
「お前ひとりでいくのか?」
「うん。道中はちょっと不安なんだけど、ほかの人はみんな仕事があるから…」
「・・・女一人じゃ危ないだろう。俺も行っていいか?」
留三郎の申し出にわかばはいいの?とためらいがちに聞き返す。留三郎が頷くと優しい微笑みで手を合わせてお礼を言う。
昔からわかばは笑うと花が咲きこぼれるような暖かさがある。留三郎はその笑顔にとても弱かった。
「じゃあ今から準備するから、待っててねぇ」
そうしていつものようにゆっくりもたもたと準備を始めたわかばにこれでは日が暮れてしまうと思った留三郎はため息をついた。
「俺も手伝おう」
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