クライシス

翌日、マコトとユリアが起きる前にシャンクスとベンは船員達を甲板に集め、昨夜の話をする。
海賊団のトップの話に心配する声はあれど反対する者はなく、二人を仲間にする事に決まった。
マコトは即戦力になるだろうが、ユリアは女性だから男ばかりの海賊にいて大丈夫かという船員は、「むさ苦しい野郎共の中に一輪の綺麗な花が咲いてると思え。町に降ろしたら余計危険かもしれない。俺達で守るんだ」とのシャンクスの一言で納得した。

やがて起きてきた二人はシャンクスから話をされたが、二人は昨夜寝る前に話し合い、仲間になる事を決めたと伝える。
こうしてマコトとユリアは正式に赤髪海賊団の一員となる。
それからの二人はシャンクスを中心に刀を扱う船員に教えられながら特訓し、周りの船員だけでなくシャンクスとベンも驚く程の早さで腕をあげ、上達していった。
初心者だったライフル銃などの拳銃もヤソップやベン達から鍛えられた為、射撃の腕も上がった。
二人は両親や村人達の死を無駄にしない為、何があっても大丈夫なように強く生きていく決意をしていた。だからこそ、必死で刀と射撃の腕をあげたのだった。
そんな決意を知ってか知らずか、船員達は二人の特訓に力を貸していた。だが、ベンは並々ならぬ二人の努力と二人の目を見て、何か引っ掛かる物を感じ取っていた。


仲間になると決めた以上、あいつらなりに考えて必死に鍛練してるんだろうが、あの目は何かの決意が窺えるような目をしている。
・・・・・・暫く様子を見るか・・・・・・


ユリア達が仲間になって一年後。
そろそろお墓参りしてあげようという話になり、故郷に着いた二人は仲間の手伝いもあり、無事お墓参りや周りの環境を整える事ができた。
お墓参りの最中、二人は両親の墓前である誓いをしていた。

「お父さん、お母さん。俺達、父さん達と村の為に強くなって生きていくから、天国から見守ってて・・・・・・」
「今の海賊団にいる以上、迷惑かけないように剣術と射撃の訓練をしてるの」

そんな二人の言葉を聞いて、気付かれないように後ろから見守っていたシャンクスとベンは二人に近付く。

「だから必死でやってるのか」
「!?・・・・・・お頭!?それに副船長!」
「なかなか良い気の持ち方だ」
「あ・・・・・・」

後ろから突然現れたシャンクスとベンに、二人は驚く。

「レース海賊団の連中を殺してやりたいとか思った事はないのか?」
「できる事なら殺してやりたいと、以前は思ってました」
「でもお頭達と一緒にいるようになって、考え方が変わりました」


ーー敵討ちをしたって皆が生き返るわけじゃないし、そんな事をしたって皆は喜んでくれないと思ったから・・・・・・ーー


二人が話すと、てっきり復讐したいと言うと思っていたシャンクスとベンは感心しながらも、改めて聞く。

「本当にそう思ってるんだな?嘘じゃないよな?」
「嘘なんかじゃないです!本当に復讐したいなんて思ってないです!」

二人の力強い眼差しと言葉に、シャンクスとベンは安堵する。

ーーお前らの両親は敵討ちをしたり、お前らが人殺しになるのは望んでねぇと思う。残されたお前らが自分達よりも長く生きて、幸せになる事が望みだと思う。だから、今の言葉を胸に刻んで両親達の思いを大事にしろよーー

シャンクスの言葉に、二人は大粒の涙を流した。

「焦るな、お前らならやっていける。俺達がいるからな」

シャンクスは二人に温かい言葉をかける。

「万が一の時の為に言っておくが、レース海賊団の連中は政府の犬だ。連中を倒した所で何かしてくるほど海軍や政府もバカじゃねぇが、だからといって迂闊に手を出すと後々ロクな事にならん。気を付けろよ」
「もし何かあったら、そん時は俺達が守ってやるよ。ベンはお前らの事が心配だから言ってるんだ、安心しろ。怒らすと怖いけどな」
「最後の一言は余計だ」
「・・・・・・スミマセン」


二人は顔を見合わせ、安堵する。


それから更に半年後ーー

特訓の合間に時々起こる戦闘に加わっていた事もあり、短期間で二人は見違えるほど強くなった。


ーー赤髪海賊団のマコトとユリアはローズ村の生き残りだ。今後の動向も含めて危険だーー


二人は知名度を上げるにつれ顔が知られるようになり、素性を調べた海軍によって多額の懸賞金をかけられ、政府を脅かす存在にまで登り詰めた。


だが、その十年後、突如としてユリアは赤髪海賊団を抜けて姿をくらました。
ウォーターセブンに辿り着いた後は偽名を使い、素性を一切隠した。
ウォーターセブンには政府の人間がいた為、赤髪海賊団にいたユリアに似ていると何度か疑われたが、シャンクス達が探しても見つからないよう、何とか誤魔化して生きてきた。
そんな生活が二年続いた頃にマコトがユリアに会いに来て、そのまま二人でフーシャ村に行き、シャンクス達と再会し、現在に至る。

§


ユリアとマコトはベッドに横になっているものの、目は冴えていた。


ーーもしレース海賊団が目の前に現れても、殺したりしない。お頭達がいるから大丈夫ーー


口には出さなくとも、二人とも考える事は一緒だった。


§



フーシャ村の住人や赤髪海賊団の船員達が寝静まった頃、フーシャ村近辺にいるレース海賊団の船内ではユリアとマコトの話が持ち上がっていた。

「赤髪の所にいるマコトだが、どうやらフーシャ村にユリアと一緒にいるそうだ」

船長のレースが切り出す。

「は?じゃあ、マコトは赤髪の所を抜けたのか?」
「いや、そういうわけではないらしい。ユリアに一人で会いに行って、二人でフーシャ村を訪れたようだ」
「何でまた・・・・・・」
「さぁな・・・・・・」

一時の沈黙が船内を包むが、レースが沈黙を破る。

「明日の午前中にはフーシャ村に着く。あの二人を見つけ次第、抹殺しろ。ただし、油断は禁物だ」
「了解」


レース海賊団の船員達は各々部屋に戻り、明日に備えて眠りに着いた。

レース海賊団はまだ知らない。

フーシャ村には赤髪海賊団のそうそうたる面子が勢揃いしている事をーー