抗うように

翌日、赤髪海賊団ではベンが朝早くから起きて、甲板で海の方を眺めている。
見張り台にいる船員から「見慣れない船がフーシャ村に近づいてきている」と報告を受けた為だ。

「レース海賊団か?」

声をかけられて振り向くと、シャンクスがいた。

「あぁ、そのようだ」
「・・・・・・来たか」

シャンクスとベンは船員達を起こし、甲板に集めて話をする。

「レース海賊団が此処に向かってきている。恐らく戦闘になるだろう。ユリアとマコトを守りながら、フーシャ村に被害が出ないようにするんだ」
「了解」

船員達は準備に取りかかる。
シャンクスは準備しているユリアとマコトに近付く。

「ユリア、お前は俺の傍にいろ」
「どうして?」
「前も言ったが、連中は危険だ。俺の目が届く所にいろ」
「・・・・・・はい」


確かにレース海賊団を調べた時、人を殺める事に躊躇しなければ同情もしない人が多いと聞いた。
そんな人達を相手にするのだから、シャンクスが言うのも無理はない。

「マコトも無理はするなよ」
「はい」

シャンクスはそう言うと、船員に指示を出してフーシャ村に被害が出ないよう、船を移動させる。

「レースさん、あの船は赤髪海賊団ですかね」
「そのようだな。赤髪に用はないんだがな」

レース海賊団の船員が赤髪の船に気づき、レースに声をかけるとレースは「チッ」と舌打ちをする。

フーシャ村からある程度離れた所で、お互いの船が対面する。

「赤髪海賊団じゃないか。どうして此処に?」
「それはこっちの台詞だ。ユリアとマコトを探してるんだろ?」

シャンクスとレースが、お互い睨み合う。

「・・・・・・二人がフーシャ村にいるって情報があったから来てみたんだ」
「フーシャ村にはいないぜ」
「何だと!?嘘じゃねーだろうな!?」

レースが怒鳴り散らす。

「嘘じゃねぇよ。ユリアとマコトなら此処にいる。二人に何の用だ」

シャンクスが睨みを効かせる。

「言えねーな。二人を引き渡してもらおうか」
「どうせ政府の命令だろ。抹殺するつもりか?そんな事はさせねーぞ、大事な仲間だからな」

今度はベンが言う。

「・・・・・・あぁ。だが、二人をどうしようとお前らには関係ねーだろう」
「関係あるな。二人は俺達の仲間だ、ハイそーですかと引き渡すわけねーだろう」

シャンクスが言う。

「マコトは兎も角、ユリアはお前んトコを抜けたと聞いているが、また仲間になったのか?」
「あぁ。どうしてもと言うなら、此処でお前らを倒さなきゃならねぇ」
「俺達に手を出したら、どうなるか分かってんのか!?」
「関係ねぇさ。二人の命の方が大事だからな」
「・・・・・・ッ!!なら力ずくで二人を抹殺してやる!」


ユリアとマコトは口を挟む間もなく、シャンクス達の迫力に息を呑むだけだった。
だが、シャンクスやベンの言葉に二人は目に涙を潤ませた。

「お前らはお頭達の言う事に従うんだ。大丈夫だ、俺達が守ってやる。ただし、戦闘命令が出たらお前達も戦うんだぞ」

ヤソップが、ユリアとマコトにこっそり話しかける。
二人は無言で頷く。


そうして赤髪海賊団とレース海賊団の戦いが始まった。

「ユリア!マコト!お前らも俺達の近くで戦え!だが、無茶はするな!」
「はい!」

二人はシャンクスやベンの近くにいながらも、必死で戦った。


響き渡る銃の音に、刀の交じり合う音ーー


赤髪海賊団にも、少なからず傷を負う船員が何人か出る。
だが、いくら殺戮を得意とする者達とはいえ、レース海賊団と赤髪海賊団の力の差は歴然だった。

ユリアとマコトは船員の心配をよそに、全員が驚くほどの戦いぶりだった。
ユリアに至っては12年前とは全く違い、戦い方も更に成長していた。

ほんの数十分後には、レース海賊団は幾人かの死人だけでなく怪我人の山となって壊滅状態となり、赤髪海賊団の勝利で終わった。

赤髪海賊団の船員達はレース海賊団の船にレース一味を移動させ、シャンクスは重傷を負ったレースが電伝虫で海軍に連絡しようとしている所を見つけ、レースに近付く。

「もしもし・・・・・・レースだが・・・・・・」
「!?レースか!?その声はどうした!?」

声の主はセンゴクのようだ。

「す、すまねぇ・・・・・・あの二人を・・・・・・見つけたんだが・・・・・・」
「二人とはユリアとマコトか!?」
「あ・・・・・・あぁ・・・・・・だが、失敗した・・・・・・」
「失敗したって、何をだ!?」
「あの二人の抹殺に・・・・・・失敗しました・・・・・・スミマセン」
「何だと!?お前らがどうして・・・・・・!!」

センゴクが言い終わらないうちに、二人のやり取りを黙って聞いていたシャンクスがレースから電伝虫を取り上げる。

「よぉ、センゴク」
「そ、その声は・・・・・・赤髪のシャンクスか!?」
「そうだ、俺だ。今回の事はお前らの差し金か?」
「・・・・・・!!そうだが、何故お前が?」

否定をしないセンゴクに、シャンクスは苛立ちを隠さない。

「よくもやってくれたなぁ。うちの大事な仲間に何て事してくれてんだ」

シャンクスは怒鳴りたい気持ちを抑えて、あえて冷静に話をする。

「あの二人・・・・・・ユリアとマコトは生かしておいたら危険な存在だから抹殺しろという上の命令だ」
「何がどう危険なんだよ。あの二人は復讐なんて考えちゃいねぇよ。親思いの、村人思いの優しい二人だ」
「そんなもの誰が信じるんだ」
「少なくとも俺達は信じてる。二人はレース海賊団の連中とは違う。あの二人に今後、二度と手出しするな」
「何だと?」
「たとえ海軍でも次は容赦しない。ユリアとマコトに何もするな」
「・・・・・・分かった。お前がそういうなら、そうしよう。責任は私が取る」
「すまん」

センゴクはいくら相手が海賊とはいえ一目置いているシャンクスだ、渋々ながらも了承せざるを得なかった。

電伝虫を切ったシャンクスはレースを船員に任せ、船医と一緒に怪我をしている仲間の手当をしているユリアとマコトを横目に、血で汚れた床を掃除しているベンの元へと行った。

「海軍相手に喧嘩売ったな」
「あぁ、すまん」
「・・・・・・あんたらしいけどな。これで二人を全力で守らなきゃならなくなったな」
「・・・・・・あぁ。でもこれでいい」
「・・・・・・そうだな」


仕事の手を止め、二人はユリアとマコトを見つめる。


ーーあの二人には過去に縛られず、前を向いて生きてほしいーー


シャンクスとベンは同じ事を思っていた。