偶然の再会

蒼海が広がるフーシャ村に、二人の男女が船から降り立つ。

男の名は、マコト。
女の名は、ユリア。

二人とも腰に刀を下げている。
ユリアは胸元がやや開いているシャツに黒のパンツ姿で、スラリとしたスタイルをしている。
マコトは黒のスーツ姿で、長身痩躯。

二人は村に向かって歩みを進める。


「久しぶりに来たけど、相変わらず長閑な村だな」
「うん。ホント変わらないね」


二人は村を眺めながら、懐かしむ。

「お前、此処に来て大丈夫なのか?」
「う〜ん・・・・・・正直、自信ない。二年前の事とは言っても・・・・・・」
「そうだろうな」
「何かあったら宜しくね」
「・・・・・・おぅ」

村に向かいながら話をしていたが、何もなきゃいいが・・・・・・


二人は同じローズ村出身の幼馴染。
二年前のあの日まで、二人は赤髪海賊団の船に船員として乗っていた。
もっともマコトに至っては今だに赤髪海賊団の一員である為、基本的に赤髪の船に乗って生活している。
ユリアは二年前に赤髪海賊団から抜けた為、現在は故郷から遠く離れた町のウォーターセブンで一人暮らしをしながら働いている。
時折、連絡は取り合っていたものの一年もユリアに会っていなかった為、一時的に船を降りてユリアに会いに行った際、フーシャ村の村長の所に仕事の関係で行く用事があるとの事で、一緒にフーシャ村に訪れた。

村長の所に赴き、挨拶をする。村長と初めて会った時は海賊団の一員だった時と今のあたしの変わりように、村長はただ驚いていた。

村長と昔話を少しした後、仕事関係の話をして用事を済ませた。

折角フーシャ村に来たのだからと、久しぶりにあの酒場へと向かった。

あの事があった後だから、少し緊張する。

酒場の入口まで着き、気持ちを整える。


カランッーー


「いらっしゃいませー」

扉を開けると、明るくて懐かしい声が迎え入れてくれた。

「よぉ、マキノさん」
「あら、マコト君!久しぶりね」

マキノさんの笑顔は、昔と変わらない。
変わった事といえば、更に綺麗になった大人の女性といった所だろうか。
以前にも増して、凛とした女性になっている。


「そちらは・・・・・・もしかして、ユリアちゃん?」
「お久しぶりね、マキノさん」
「やっぱりユリアちゃんなのね!久しぶりね!今何してるの?」
「今は一人暮らししながら働いてるの。刀を持ってるのは何かあった時の為、護身用ね」
「そう・・・・・・ずっと気にしてたのよ、あなたの事・・・・・・」

突然、船長さんの所をやめたっていうのはマコト君から聞いたけど、その後の事とかは何も分からなかったからーー

マキノさんの表情が一瞬曇るが、すぐ笑顔に戻る。
流石、商売柄慣れたものだ。

「あ、ゴメンね!何飲む?いつものでいい?」
「あたしもマコトと同じものを頂戴」
「はい」

そう言ってマキノさんは、お酒を出してくれた。

二年前までは吸っていなかった煙草を吸いながら暫くマコトと二人で話していたが、途中からマキノさんも加わって三人で話をしていた。

「船長さん達は元気?」
「相変わらずだよ。酒ばっか飲んでるし」
「そう、元気そうで何よりね」

そう言ってマキノさんは笑う。

元気、ねぇ・・・・・・あの人は、あたしの事なんかもう気にしてないんだろうな。っていうか、忘れてるんだろうな。
それも、少し寂しいような・・・・・・
あたしはシャンクスが忘れられなくて、今でも想いを絶ちきれない・・・・・・

§


15歳の時に赤髪海賊団に二人揃って拾われて、二人で話し合い、そのまま赤髪海賊団に入った。

船上での生活にすっかり慣れた頃、シャンクスは毎日あたしを構っていた。あたしが離れようとしても、すぐにシャンクスの腕の中に捕らえられる。
船員達は最初こそ冷やかし、からかってきたが、こうも毎日見ていると流石に飽きてきたのか、『またやってるよ』とでも言いたげな目をしている。
最初は何とも思っていなかったけど、次第にシャンクスの事を好きになっていった。
シャンクスが構ってくれるのが嬉しくて、楽しかった。

『ユリアの事が好きだ。俺の傍に、一生いてほしい』

真剣な眼差しのシャンクスに告白されて、あたしはシャンクスの傍にいてシャンクスの左腕となる事を誓った。



船上での生活も穏やかな日々ばかりじゃなく、敵襲も時にはあり、何度か危険な目にもあった。
だけど小さい頃から剣術をやっていたからか、幾度となく戦った。
敵に背後を取られた時や目の前の敵に集中し過ぎた時なんかは傷を負ったりもした。
シャンクスには助けてもらったり、守ってもらったりもした。時には戦闘に参加させてもらえなかった事も何度もある。


『お前が傷つく姿は、もう見たくない』


シャンクスの腕の中で、シャンクスにそう言われて、自然と戦いから離れていった。

シャンクスの傍で航海をするようになって10年が経った頃、フーシャ村に停泊した。赤髪海賊団自体、初めて寄った村だった。
そこでシャンクスは、あたし達はルフィと知り合い、仲良くなった。
唯一の酒場で毎晩飲んでるうちに酒場の店主であるマキノさんとも仲良くなった。
シャンクスとあたしとルフィはカウンターにいつも並んで座り、シャンクスはルフィと良く喋り、あたしはマキノさんとよく喋っていた。

まさか、その後シャンクスと別れる事になるなんて夢にも思わなかった。

ただ正式に別れたわけじゃなくて、その時の感情に任せてロクに話し合いもせずに、あたしが一方的に別れを告げて船を降りただけ。

時々、激しい後悔に襲われる事もあるが、今更船に戻る勇気もない。

§


はぁ〜〜・・・・・・随分と昔を思い出してしまった。

そんな時、酒場の外から賑やかな声がした。

何か・・・・・・聞いた事あるような・・・・・・

「ねぇ、マコト・・・・・・」


カランッーー


「いらっしゃいませー」
「よぉ〜、マキノさん!久しぶりだなぁ!」

マコトに話しかけた所で、声の主達が入ってきた。
あたしはすぐに、マコトの方に向けていた顔を前に戻す。視界の端には見た事のある懐かしい姿が見えた。

この声は、ラッキー・ルゥか・・・・・・

「ここに来るのも二年ぶりくらいか?」
「今ちょうど皆さんの話をしていた所なんですよ」

マキノさんは笑いながら話す。あたしは後ろを見ないようにしていた。

「俺達の?・・・・・・って、マコトじゃねぇかよ!」
「何だお前!人に会いに行くつった癖に何で此処にいるんだよ!」
「ちゃんと会いに行ったよ。そしたらコイツが偶然フーシャ村に用があるっつーから、一緒に来たら此処にいたっていうだけだ」
「は?」

マコトに言われて皆がポカンとしていると、さっきからずっと一点を見つめていたシャンクスが、一番最初に気がついた。

「・・・・・・もしかして、ユリアか?」
「え?」

ヤソップ達がシャンクスの視線の先を追うと、マコトの左隣に一人の女性がシャンクス達に背を向けて座っている。
背中を向けているので顔は分からないが、後ろ姿や背格好がユリアに似ている。

この二年間、マコトが絶対に口を割らない為にユリアに関する手がかりがなく、マコトはユリアと連絡を取り合う時も極秘に行っていた為、どんなに探しても何処にいるのか分からず、どんなにユリアに会いたいと願っても会えなかった。


「ユリアなんだろ?」
「・・・・・・」

シャンクスの問いかけに、返事はない。

「ユリア・・・・・・」
「・・・・・・」

尚も返事はない。
マコトとマキノから見えるユリアの表情はいつもと変わらないように見えるが、明らかに強ばっているのが分かる。

「ユリア、こっちを向いてくれ・・・・・・」
「・・・・・・」
「おい、ユリア。いい加減にしろよ」

それでも返事をせず振り向きもしないユリアを、マコトが咎める。

「ユリア、俺がいるから大丈夫だ」

マコトの一言にユリアの表情が変わる。
ユリアはそっとマコトを見てから前を向いて目を閉じ、決心したようにシャンクス達の方を振り向く。


「・・・・・・ユリア・・・・・・!」
「ユリア!お前、生きてたのか!」
「マコトの野郎、ユリアの事は何にも言わねーから心配してたんだぜ!」
「ごめんなさい、皆に連絡もしなくて・・・・・・申し訳ないと思ってたんだけど・・・・・・」
「気にすんな!お前が無事だったんならいいんだよ!」

シャンクスの顔が綻び、船員達を含めてユリアが無事生きている事に安堵の表情を浮かべ、ユリアに声をかける。
ユリアの表情が和らぎ、笑顔になる。
だが、何処か寂しげな笑顔にシャンクス・ベン・マコトは気付いた。

シャンクスは何かとユリアの事を気にかけ、副船長のベンとマコトの前でユリアの話をよく口にしていた為、心底ホッとしていた。
ベンも口には滅多に出さなかったが、思いはシャンクスと同様だった。