背を向けた人

皆が思い思いの言葉をユリアにかけると、気分が高ぶったのかハイテンションになり、各々テーブルのある席に座ってお酒を飲み始めた。
ベンは一人で寡黙にお酒を飲みながら、煙草を吸っていた。


皆、変わらない・・・・・・

あたしはそう思いながら、マキノさんがいる方に向き直し、煙草に火をつける。

「煙草、吸うんだな。二年前までは吸ってなかったのに・・・・・・」
「・・・・・・うん・・・・・・」
「・・・・・・まさか此処でまた会えるとは思わなかった」
「村長に用があったの。それに故郷にも行ってお参りもしようと思ってね・・・・・・」
「あれからもう十二年ぐらいか?早ぇもんだ」
「・・・・・・」

最初に出会ってから、もう十二年ーー

シャンクスの傍を離れて、二年ーー

時が経つのは本当に早い・・・・・・

「なぁ、ユリア・・・・・・」
「・・・・・・なぁに?」
「お前さえ良ければ、またうちの船に乗らないか?」
「え・・・・・・?」

シャンクスを見つめたまま、ユリアとマコトは吸っていた煙草を思わず落としそうになる。
これにはベンも船員達も驚いて、シャンクスを見る。

「な、何言ってるのよ!あの時、あたし達は別れたじゃない!何を今更・・・・・・!!」

思ってもみなかった突然の提案に、驚いたユリアが声を荒らげる。

「俺はあんな別れ方は今でも納得してねぇし、お前と別れたつもりもない」
「で、でも・・・・・・!!今更戻れるわけないじゃない!」
「何で?」
「何でって・・・・・・」
「俺は今でもお前が好きだ。ユリアを愛してる」

シャンクスの真剣な眼差しが、ユリアの漆黒の瞳を真っ直ぐ捕らえる。


鼓動が早くなる。


あたしは、思わずぶちまける。


じゃあ聞くけど、何であんな事したの!?
もし、あたしの事が本当に好きだったのなら、何であんな事言ったのよ!?
娼館にいるお姉さんの方がいい女だとか、あたしよりもあっちの方が好きだとか、そんな事をしょっちゅう言ってたそうじゃない!
あたしは、ただ船上での欲求不満を解消する為だけの存在じゃない!!
結局、あなたが言ってたあたしへの愛はその程度だったって事でしょう!?違う!?
あの時娼館のお姉さんが好きだったのなら、彼女を連れて航海に出れば良かったじゃない!何であたしだったのよ!?
彼女を危険な目に合わせたくなかったから!?じゃあ、あたしはどうなるのよ!
あたしはどうでも良かったわけ!?だから航海に引っ張り回したわけ!?
バカにしないでよ!!あなたにとって、所詮あたしは都合のいい女だったって事よね!今でもそうなんじゃないの!?
あたしは・・・・・・あたしは、シャンクスの事好きだったのにっ・・・・・・あの時から、あなたの事なんか大っ嫌いよ!!


ユリアは一気に捲し立てた。シャンクスも船員達もマキノさんも、ユリアの剣幕に驚いて唖然としている。


「ユリア・・・」
「あ・・・・・・ご、ごめんなさい・・・・・・」

店内が静まり返り、皆が自分を見ている事に気付いて慌てて謝る。

「マキノさん、すみません・・・・・・」
「いいのよ。ユリアちゃんの気持ち、分かるわ。私も女だもの」
「マキノさん・・・・・・」

マキノさん、悲しい顔してる・・・・・・

いたたまれなくなって、あたしは店を飛び出した。

暫く走った後、息を整えながら呼吸を落ち着かせた。
顔を上げたら、小高い丘の上に来ていた。

12年前、フーシャ村に滞在していた時によく来ていた、海が一望できる場所ーー